if群青×黒子、違う世界の人たち
「ったく!畜生!次から次へと敵が沸いてきやがる!」
「見ていてくださいボスっ!」
「味方もうるせぇし……!」
スクアーロ達が温泉に着いた頃、家光は自身の部下5人を引き連れ、同じく数名の部下を連れてきたレヴィ・ア・タンと共に、敵のアジトと思われる場所へと訪れていた。
どうやらアジトが割れたことには気付いていなかったらしく、慌てふためいて逃げ惑う敵を、一部捕虜として捕まえながら、残りを的確に始末していく。
真夜中にスクアーロ達が行ったアジトは、大したものは見付からなかったらしいが、ここはどうやらそこそこ当たり、らしい。
怪しげな金庫や、隠し通路。
敵を倒しながら、隠されたモノを次々と見付けていく。
そして最後の一人を片したとき、彼らは大きな扉の前に立っていた。
「ぬ……、何だこの馬鹿でかい扉は」
「今まで見付けたもん以上にやべぇのが置いてありそうだな。……オレガノ!」
「はい、親方様」
どうやらその扉は電子ロック式の物のようだったが、ラッキーなことに死ぬ気の炎によるガードはなく、オレガノの嵐の炎が、あっという間にその扉を塵にした。
軋みながら、残ったドアの破片が倒れ、遂に向こう側が見えるようになる。
その光景を見た瞬間、オレガノの顔から、サッと血の気が引いた。
ラル・ミルチが咄嗟に、オレガノの視界を掌で覆い隠すが、少し遅かったようだ。
彼女は口を強く手で押さえ、込み上げてくる胃液を堪えた。
「何だ……これは!」
「こんな、惨い……」
それは、その光景は、裏社会を長く生きる彼らでさえも、目を覆いたくなるものだった。
その部屋は、小さな実験場だった。
実験台が幾つか並んでおり、メスや注射器といった医療器具が整頓されて置いてある。
その台の上にあったのは、大量の屍だった。
死んで動かなくなった、肉の塊。
しかもそれは、大量のモノがバラバラに解体され、混ぜこぜになっていて、とてもじゃないが元の形に戻してはあげられなさそうだ。
その死体は、人、犬や猫、虫、魚、鳥と、多種多様で、所々には枯れた植物も見える。
それらの醸し出す腐敗臭に口と鼻を押さえながら、更に奥を見た家光は目を見開いて固まった。
「そんな、……あれは、一体!?」
家光が見たもの、それは、酷く歪な形をしていた。
フォルムは人の形に近い。
だがその目は、トンボのように虹色に光る複眼となっていた。
その口からは、ノコギリのような歯が覗いていた。
耳や鼻は皮膚に張り付くようになっていて、のっぺりと平らだ。
指には水掻きが付いていて、背や脇腹には、ヒレのようなものも見て取れる。
しかし下半身は陸上動物……恐らく鹿か何かの動物のようにふさふさと毛が生え、足は蹄になっていた。
それは、壁に標本のように貼り付けられ、ピクリともしない。
死んでいる、のか……。
「合成獣(キメラ)……」
レヴィ・ア・タンの小さな呟きが、あまり広くない部屋に、響いた。
キメラ、元はギリシャ神話に出てくる伝説の生き物を指す言葉だったが、いつからかその言葉は、複数の全く違う親をもつ生物にも使われるようになる。
歪に組み合わされた、幾つもの動物の体。
それは確かに、合成獣と呼ぶに相応しい形をしていた。
* * *
「……遂に、そんなところにまで手を出したのか」
木の影に隠れ、スクアーロは顔を歪ませた。
それはほんの一瞬で、彼女の顔は直ぐにいつもの仏頂面に戻ったのだが、電話の相手はそれには気付かず、苛立ちを隠せない様子で悪態を吐いていた。
『どうしてあんな、惨いことを……。人間に出来ることじゃねぇ!反吐が出る!!』
「……そこに、他の実験体や、キメラの死体はなかったんだなぁ?」
『ああ、1体の死体と、後はキメラでも何でもない、人や動物の死体が大量にあった』
「……キメラは、完成しているのか?」
『そんなこと、オレにわかるわけ無いだろう……!』
「テメー家光、怒鳴ってる暇があるのなら、ちょっとでもその実験場を探せ。もしキメラが完成していたら、奴らオレ達を潰すのにソイツらを使ってくるかも知れねぇんだぞ」
『わかってる!お前と違ってオレは直に見ちまったんだよ!ああ……!まだ鼻に臭いがついてやがる!!』
「……、落ち着いたらまた連絡しろ。キメラの存在次第では、護衛対象への接し方も変わってくるかもしれねぇ。それと、そのキメラの死体については、ヴェルデに声を掛けろぉ。嬉々として飛んでくるだろうし、変人だが腕は確かだからなぁ」
『チッ、わかったよ。ツナに何て言やぁ良いんだか……クソっ!』
その言葉を最後に、通話が切れる。
問題は山積みだった。
殴り込んだアジトにいたのは研究者ばかりで、旧ボンゴレの重要人物はおらず、もちろんイエナは影も形もなかったのだ。
そしてキメラ。
どう見たって、残酷な人体実験の末に産み出されたのであろうそれの存在を、どの様にして骸達に伝えようか、スクアーロは悩んでいた。
骸はきっと、怒るだろう。
無茶な事もするかもしれない。
彼はキメラを前にして、いつものように戦えるだろうか。
だが1つだけ、道も見えてきた。
奴らが人体実験に使うのは、きっとどこからか拐ってきた人間だ。
上手いこと行方不明の人間を見付けてその流れを辿ったり、行方不明者が多発している場所を見付けられれば、奴らの重要な拠点を見付ける手掛かりになるかもしれない。
「だが、このまま奴らの護衛をしていたら、オレは動けねぇ……」
鬼ごっこ、もとい、トレーニングに精を出す少年達を見ながら、スクアーロがポツリと落とす。
相手も、形振り構っていられないような状況だ。
彼らの目の前で戦う事にだってなりかねないだろう。
「……思っていた以上に、ややこしい」
口をついて出そうになる悪態を飲み下し、辛うじてそれだけ言ったスクアーロは、ふと、イタリアの恋人を思い出す。
大分長い間、会っていない気がする。
「……」
何故か、無性に彼に逢いたくなって、声を出さずに、その名を呟いた。
「…………そういや、電話するっつって出てきちまったんだったなぁ」
相田父娘に、そう言って体育館を抜け出してきたのだ。
部員達も丁度トレーニングを終えたらしい。
今のところ敵の気配はないが、充分に用心しながら、スクアーロは体育館に戻ったのだった。
「見ていてくださいボスっ!」
「味方もうるせぇし……!」
スクアーロ達が温泉に着いた頃、家光は自身の部下5人を引き連れ、同じく数名の部下を連れてきたレヴィ・ア・タンと共に、敵のアジトと思われる場所へと訪れていた。
どうやらアジトが割れたことには気付いていなかったらしく、慌てふためいて逃げ惑う敵を、一部捕虜として捕まえながら、残りを的確に始末していく。
真夜中にスクアーロ達が行ったアジトは、大したものは見付からなかったらしいが、ここはどうやらそこそこ当たり、らしい。
怪しげな金庫や、隠し通路。
敵を倒しながら、隠されたモノを次々と見付けていく。
そして最後の一人を片したとき、彼らは大きな扉の前に立っていた。
「ぬ……、何だこの馬鹿でかい扉は」
「今まで見付けたもん以上にやべぇのが置いてありそうだな。……オレガノ!」
「はい、親方様」
どうやらその扉は電子ロック式の物のようだったが、ラッキーなことに死ぬ気の炎によるガードはなく、オレガノの嵐の炎が、あっという間にその扉を塵にした。
軋みながら、残ったドアの破片が倒れ、遂に向こう側が見えるようになる。
その光景を見た瞬間、オレガノの顔から、サッと血の気が引いた。
ラル・ミルチが咄嗟に、オレガノの視界を掌で覆い隠すが、少し遅かったようだ。
彼女は口を強く手で押さえ、込み上げてくる胃液を堪えた。
「何だ……これは!」
「こんな、惨い……」
それは、その光景は、裏社会を長く生きる彼らでさえも、目を覆いたくなるものだった。
その部屋は、小さな実験場だった。
実験台が幾つか並んでおり、メスや注射器といった医療器具が整頓されて置いてある。
その台の上にあったのは、大量の屍だった。
死んで動かなくなった、肉の塊。
しかもそれは、大量のモノがバラバラに解体され、混ぜこぜになっていて、とてもじゃないが元の形に戻してはあげられなさそうだ。
その死体は、人、犬や猫、虫、魚、鳥と、多種多様で、所々には枯れた植物も見える。
それらの醸し出す腐敗臭に口と鼻を押さえながら、更に奥を見た家光は目を見開いて固まった。
「そんな、……あれは、一体!?」
家光が見たもの、それは、酷く歪な形をしていた。
フォルムは人の形に近い。
だがその目は、トンボのように虹色に光る複眼となっていた。
その口からは、ノコギリのような歯が覗いていた。
耳や鼻は皮膚に張り付くようになっていて、のっぺりと平らだ。
指には水掻きが付いていて、背や脇腹には、ヒレのようなものも見て取れる。
しかし下半身は陸上動物……恐らく鹿か何かの動物のようにふさふさと毛が生え、足は蹄になっていた。
それは、壁に標本のように貼り付けられ、ピクリともしない。
死んでいる、のか……。
「合成獣(キメラ)……」
レヴィ・ア・タンの小さな呟きが、あまり広くない部屋に、響いた。
キメラ、元はギリシャ神話に出てくる伝説の生き物を指す言葉だったが、いつからかその言葉は、複数の全く違う親をもつ生物にも使われるようになる。
歪に組み合わされた、幾つもの動物の体。
それは確かに、合成獣と呼ぶに相応しい形をしていた。
* * *
「……遂に、そんなところにまで手を出したのか」
木の影に隠れ、スクアーロは顔を歪ませた。
それはほんの一瞬で、彼女の顔は直ぐにいつもの仏頂面に戻ったのだが、電話の相手はそれには気付かず、苛立ちを隠せない様子で悪態を吐いていた。
『どうしてあんな、惨いことを……。人間に出来ることじゃねぇ!反吐が出る!!』
「……そこに、他の実験体や、キメラの死体はなかったんだなぁ?」
『ああ、1体の死体と、後はキメラでも何でもない、人や動物の死体が大量にあった』
「……キメラは、完成しているのか?」
『そんなこと、オレにわかるわけ無いだろう……!』
「テメー家光、怒鳴ってる暇があるのなら、ちょっとでもその実験場を探せ。もしキメラが完成していたら、奴らオレ達を潰すのにソイツらを使ってくるかも知れねぇんだぞ」
『わかってる!お前と違ってオレは直に見ちまったんだよ!ああ……!まだ鼻に臭いがついてやがる!!』
「……、落ち着いたらまた連絡しろ。キメラの存在次第では、護衛対象への接し方も変わってくるかもしれねぇ。それと、そのキメラの死体については、ヴェルデに声を掛けろぉ。嬉々として飛んでくるだろうし、変人だが腕は確かだからなぁ」
『チッ、わかったよ。ツナに何て言やぁ良いんだか……クソっ!』
その言葉を最後に、通話が切れる。
問題は山積みだった。
殴り込んだアジトにいたのは研究者ばかりで、旧ボンゴレの重要人物はおらず、もちろんイエナは影も形もなかったのだ。
そしてキメラ。
どう見たって、残酷な人体実験の末に産み出されたのであろうそれの存在を、どの様にして骸達に伝えようか、スクアーロは悩んでいた。
骸はきっと、怒るだろう。
無茶な事もするかもしれない。
彼はキメラを前にして、いつものように戦えるだろうか。
だが1つだけ、道も見えてきた。
奴らが人体実験に使うのは、きっとどこからか拐ってきた人間だ。
上手いこと行方不明の人間を見付けてその流れを辿ったり、行方不明者が多発している場所を見付けられれば、奴らの重要な拠点を見付ける手掛かりになるかもしれない。
「だが、このまま奴らの護衛をしていたら、オレは動けねぇ……」
鬼ごっこ、もとい、トレーニングに精を出す少年達を見ながら、スクアーロがポツリと落とす。
相手も、形振り構っていられないような状況だ。
彼らの目の前で戦う事にだってなりかねないだろう。
「……思っていた以上に、ややこしい」
口をついて出そうになる悪態を飲み下し、辛うじてそれだけ言ったスクアーロは、ふと、イタリアの恋人を思い出す。
大分長い間、会っていない気がする。
「……」
何故か、無性に彼に逢いたくなって、声を出さずに、その名を呟いた。
「…………そういや、電話するっつって出てきちまったんだったなぁ」
相田父娘に、そう言って体育館を抜け出してきたのだ。
部員達も丁度トレーニングを終えたらしい。
今のところ敵の気配はないが、充分に用心しながら、スクアーロは体育館に戻ったのだった。