if群青×黒子、違う世界の人たち

「いーですよねー、スクアーロさんは高校生達と温泉に行けてー。ミーもスクアーロさんと一緒に温泉入りたいですー」

とある場所、道路を走る車の中で、リンゴ頭の少年がそう呟いた。
リンゴ頭……そう、フランである。
一緒にいるのは、彼の望むスクアーロではなく、駄王子こと、ベルフェゴールである。

「アイツは温泉とかははいんねーだろ。しし、男風呂は入れねーし、女風呂行くと変態呼ばわりされそうだしなー」
「あー、なるほどー。じゃあお風呂貸しきって、スクアーロさんと入りますー」
「……いや、なんでスクアーロと入る事になってんだよ?王子の事差し置いて、媚び売ってんじゃねーしマセガキ」
「媚びなんて売ってませんー。駄王子と違って、ミーは純粋無垢な子供なんですよー」
「しし、テメーのどこが純粋なんだよ?邪悪の間違いじゃねーの?」
「邪悪は駄王子の事じゃないですかー?」
「はあ!?」
「なんですかー?やるんですかー?」

子供の喧嘩だ。
フランはまだ許せる歳だが、ベルはもう18になると言うのに、何をしているんだか……。
車を運転していた、ヴァリアー隊員は、二人の様子に密かにため息を吐く。
スクアーロがいれば仲裁してくれたのだろうが、ここには幹部はベル以外誰もいないし、と言うよりここにいるのは、彼ら二人と自分だけなのだ。
止まらない、止まれない。
彼は心の中で、別の車両に乗り込んだ仲間達を恨んだが、恨んだところで何が改善するわけでもない。
仕方なく、彼は二人の仲裁に取り掛かった。

「あのー、お二人とも、もう付きましたよ?そろそろ喧嘩は終わりにして、行かないとまずいんじゃないですか?」
「……チッ、仕方ねーですー。これも仕事ですからねー」
「しし、ムカついたから後でスクアーロに寿司おごらせよ」

あれ、どっちが年上だったっけ?
彼の疑問はもっともである。
当の二人は車を降りて、うん、と背伸びをして言った。

「それにしても、部活で温泉って贅沢ですよねー」
「王子が仕事してるってのにな」
「それかなりどうでも良いですー」

少し離れたところにある温泉旅館を眺めながら、二人はそれぞれ自分の立ち位置に向かったのであった。


 * * *


温泉に到着し、スクアーロは一つ深呼吸をして、運転席に凭れ掛かった。

「先生、わざわざバスで送ってくださってありがとうございました!」
「ああ、いえ、良いんですよ。たまたま友人に無料で貸してもらえただけですし、運転くらいいくらでもやりますからね!」

スクアーロは、昨日の内に、相田にメールで連絡を取っていた。
当初は電車とバスを乗り継いで向かう予定だったらしいが、スクアーロからの提案で、学校から大型バスに乗って向かうことになったのである。
ボンゴレ側からしても守りやすいし、彼らも周りを気にせずに騒げるのならお互いに得だろう。

「バスを置いてきますんで、皆さんは先に温泉に入っていてください。くれぐれも周りの方の迷惑にならないようにしてくださいね?」
「はい!」

部員達の元気な声に満足げに頷き、スクアーロは彼らを降ろすと、バスを発進させた。
それと同時に、タンっと床を踏む音。
いつの間にか隣に立っていたのは、フラン……の、幻覚だった。

「スクアーロさーん、ミーと駄王子は、言われたところで待機してますよー」
「そうかぁ。この後もよろしく頼むぞぉ」
「わかってますー。でも、これが終わった後に、ご褒美のチューしてくれたらもっと頑張れますー」

流石は愛の国フランスの出身か。
ストレートなおねだりに、スクアーロも脱力してため息を吐いた。

「はあ……、終わったらなぁ。……幻術もだいぶ上手くなったようだし、今回はマーモンも頼れねぇ。お前に任せたぞフラン」

マーモンに頼れないのは、単純に資金不足の為である。
馬鹿高いのだ、マーモンの依頼料は。

「スクアーロさんに言われちゃったら、頑張るしかないですー。頭撫でてくれたらもっと頑張れますー」
「……」

リンゴ頭を差し出すフラン。
リンゴ頭の上からで良いのか、と、スクアーロは一瞬戸惑ったようだったが、車を止めると、手を伸ばしてフランの頭を撫でた。
それに満足して、フランは幻術で出来た姿を消したのだった。

「……さて、オレも行くか」

彼らが風呂に入っている間に、付近の様子を確認しておかなければならない。
バスから降りて、まず伸びをした彼女は、一度だけ屈伸をすると、その場から消えるように走り去った。


 * * *


「凪ちゃん!試合どうだった?」
「うん、カッコ良かったよ」

コクっと頷き、顔を上気させて言ったクロームに、聞いた桃井と、関係のない部員が顔を赤らめた。
クロームは、短い時間にも関わらず、既に桐皇バスケ部を攻略してきているようだ。

「せやせや、凪ちゃん、ちゃんとお風呂セット用意しとる?これから皆して温泉行こ思てなぁ」
「……あの、持ってきて、ます」

だが相変わらず、今吉の事は苦手らしい。
桃井の影に隠れるようにして答えたクロームに、諏佐が思わずという様子で顔を背けた。
肩が震えている。
ちなみに彼だけではなく、何人かの部員が顔を背けて肩を震わせている。
だって人拐いにしか見えないんだもん。

「ほら青峰君も!一緒に行くよ!」
「引っ張んなよオイ!?」

遅れて着いてきていた青峰は桃井が引っ張って連れていく。
その二人の向こうに立つ人と目が合い、クロームはハッと立ち止まった。

「あの、さつきちゃん、青峰君、私ちょっと用事思い出して……」
「え?用事?」
「はあ?んなもんここに来る前に済ませてこいよ」
「ごめんね……?」
「良いの凪ちゃん!私達の事は気にしないで、行ってきて!」
「うん」

トコトコと駆けて行くクロームを見送り、彼らは誠凛バスケ部の待つ浴場へと向かったのだった。
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