if群青×黒子、違う世界の人たち

「『――……ですので、明日の8時30分に学校に集合して、出発する予定です』か。で、お前ら桐皇は朝から練習試合で、その後、同じ温泉に行く予定なんだなぁ?」
『はい、あの、私も誘ってもらって……』
「ああ、よく近付けたなクローム。そのまま近くで見ててやってくれるかぁ?」
『!はい!』

彼らがそんな会話を、通信機越しに交わしたのが、午後6時頃。
今の時間は午前2時。
草木も眠る丑三つ時に、闇に潜み暗躍する者達がいた。

「……敵の数は?」
「青宅に5人、火宅に15人、桃宅に6人、相宅に5人、高宅に10人……。一人暮らしの火を重点的に狙ってきているようであります」
「だろうな。術士達の配置は?」
「予定通り配置してあります。火宅に侵入しようとしてきた敵10人、捕獲しました。残り5人はレヴィ様が討伐。今のところ後に続く敵はいません」
「他の家はどうだぁ?」
「全員ヴァリアー精鋭達、及び協力者達に捕まり、現在防衛ラインを突破されたと言う報告は受けていません」
「そうか、よくやった」

襲っては退き、襲っては退き、その繰り返しに、隊員達は苛立っているようだった。
隊員だけではない。
昼間は目立つために動けなかったシモンのメンバーや、真6弔花のメンバーなど、夜中に協力してくれるメンバーも苛立ち始めている。
敵が強いわけではない。
だが弱い割に数だけは異様に多いし、その上厭らしい時間差で次々に攻撃を仕掛けてくるものだから、ろくに休めもせず、それが彼らの苛立ちの原因になっているようだった。
せめて捕虜から話が聞ければ良いのに、捕まるのは事情も知らない雑魚ばかり。

「向こうは数で勝負に出たようですね」
「あ゙あ、ジリジリとこちらの力を削ってから、落としに来ようとしているらしいなぁ」
「こっちも空振りでしたし、……っあ゙あー!もう!苛立たしいですね!!」

スクアーロは部下の言葉に頷いて、周囲をぐるりと見回した。
雑然とした様子の廃工場。
捕まえた人間から聞き出した僅かな話と、彼らの持ち物、今までの敵の動きから、大まかに割り出した結果、雑魚に指令を与えている人間が、ここに居るらしいことがわかり、急いで向かったのだが……。

「既に逃げた後かぁ……」
「ここにいたのは間違いなさそうですけど、人っ子一人残ってませんね」
「だが調べてみる価値は充分にある。隅々まで徹底的に探せぇ」
「ハッ!」

部下が散って、静かになった所で、スクアーロはイライラと溜め息を吐き出した。
あのハイエナ野郎は、昔っから隠れることと隠すことだけは異常に上手かった。
そして目上の人間に取り入ることは、更に病的に上手かった。
イエナ・ファットーリ、奴の考えることは、昔からよくわからない。
ただ、自分を酷く嫌ってきていることだけはわかった。
スクアーロはイエナの事をよく思い出そうと、瞳を閉じて、過去に思いを馳せる。
ザンザスにはよく絡んできていた。
だが、その傍にいるスクアーロの事が酷く気に食わない様子で、ゆりかごの時も、直ぐに主犯だけでも処刑すべきだと唱えたのは、奴が始めだったと思う。
もし、自分がイエナだったなら。
そう思って、スクアーロはゆっくりと目を開けた。
嫌いな奴だからこそわかるのだ。
必ずここにたどり着くことを。
そして、嫌いな奴だからこそ、つまらないブービートラップなんかじゃなくて、人の手で、無惨に、惨たらしく、殺してやりたいと思う。
イエナならば、きっと……。

「……総員、武器を構えろ」

静かなスクアーロの声が部下達に届き、部下達は何も疑問に思うことなく武器を手に取り、周囲の気配を探った。
スクアーロが言うのならば、敵は近くにいるのだ。
服従を通り越し、盲信的ですらある彼らに、スクアーロの言葉を疑うと言う選択肢はなかった。
そして、予想通りに、何かが動くのを感じ、スクアーロはすかさず、その場所にナイフを投擲した。

「ぐあぁっ!」

何もない場所から悲鳴が聞こえる。
術士がいるのだ。
敵の人数はかなり多そうだが、隠されていて把握しきれない。

「炎を展開しろ。察知を怠るなぁ!全て仕留めるぞぉ!!」
「御意!」

見えない敵が襲い掛かってくるのを、炎を頼りに感じ取り、剣を振るう。
こちらにも術士が一人いる。
スクアーロの指示を聞かずとも、彼はすべき事を理解して、敵の術士を倒すべく動き出していた。
敵術士が倒れるまで、持ちこたえる。

「ゔお゙らぁ!!」
「がっは……!」

肉を断つ感触。
見えないが一人始末したらしいことを理解して、スクアーロは口元の笑みを深めた。
相手はこれまでの敵よりも断然強い。
守護者クラスには届かないが、ヴァリアー隊員に負けずとも劣らない実力を持っている。
ヒリヒリと焼け付くような殺気を全身に受けながら、凶暴な鮫は牙を剥き出し、敵に食らい付いたのだった……。


 * * *


「……一人逃げた、追え!」
「はい!」

一人以外、全ての敵を始末して、スクアーロはまずまずの結果に満足し、持っていた武器を仕舞った。

「敵のアジト、わかりますかね」
「さあなぁ……」

聞いてくる部下に、肩を竦める。
先程逃がした一人は、別に偶然逃がしてしまった、と言うわけではない。
戦いのどさくさに紛れて、発信器を取り付けたのだ。
部下の一人が追っているが、散々追い回すだけで、捕まえずに帰ってくる手はずになっている。
安心して帰ったその居場所を、発信器が知らせて突き止める。

「気付かずにアジトに帰ってくれりゃ、万々歳なんですけどね……」
「まあ、上手く行くかどうかは運次第だぁ。今は戻って、オレ達に出来ることをする。ゔお゙ぉい、帰るぞぉ!」

後ろの者達に号令を掛けて、スクアーロは自分達の拠点に戻る。
途中、自分達に発信器の類いが着いていないか確認し、敵の追跡がないか確認して、そしてようやく拠点に戻ったとき、時刻は既に5時を回っていた……。

「隊長、今日もこのまま誠凛に行くんですよね……?死にませんか?」
「死なねぇよカス。これくらい日常茶飯事だろぉが。それより、ルカはどうした?まだ連絡入ってねぇのかぁ?」
「まだで……あ、いま!今来ました。敵を逃がして今帰ってきている所です。体力的にも相当削ったんで、寄り道する余裕はないと思うんですけど……」
「……わかった。ルカにはそのまま戻るように伝えろぉ。敵についてわかったら連絡入れろ」
「わかりました」

服を着替えに行くのか、自室に戻ったスクアーロの後ろ姿を見送りながら、部下達もリラックスした様子で戻り始める。

「しっかし凄かったなぁ隊長。幻術で見えない敵を一人で5人は倒してただろ?」
「見えるようになったらなったで、半分近く倒してたよな……」
「オレ達、まだまだだな……」
「しかもオレ達はこの後休憩入るけどよぉ、あの人このまま誠凛組の護衛と教師業だろ?本当に死なないのか?あれ」
「オレだったら死ぬね」
「同意」
「オレも」
「やっぱりあの人、すげぇよなぁ……」

一度は部屋に戻った彼らだが、一時間程休憩をとった後、直ぐに体を鍛えるためにトレーニングルームに集まることになった。
そして彼らが鍛練に勤しんでいるその時、スクアーロはアルノルドの仮面を被り、誠凛に向かおうとしていたのだった。
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