if群青×黒子、違う世界の人たち

パス、という小さな音を立てて、バスケットボールがゴールリングを通り抜ける。
何度打っても外れないそれに、白蘭はニコニコと笑みを浮かべて拍手を送った。

「スゴいなぁ緑間クン!そんなに遠くから打つのに、全然外れないなんて!!」
「……お前は、確か白蘭とかいう」
「あ、覚えててくれたんだー♪僕は白蘭。君は緑間真太郎くんだよね?」
「どこでオレの名前を知ったのだよ?」
「さっき高尾くんに教えてもらったんだー♪そのめっちゃスゴい3Pについてもね」
「高尾……」

勝手にペラペラと喋りやがって、なんて具合に緑間の表情が歪むのを見ても、白蘭は大して気にすることなく話を続ける。

「緑間クン達みたいなスゴい才能を持った人達の事を、キセキの世代って言うんでしょう?スゴいよねぇ、存在が奇跡って言われてるんだもん♪」
「それも高尾か?」
「んーん、これはクラスの女の子達から♪」

へらん、と笑って言う白蘭に、緑間は更に顔を強張らせて、不快そうに息を吐いた。
どうやら、噂されたり、持て囃されたりすることが嫌いらしかった。
だが性格は几帳面らしい。
白蘭の言葉に、緑間は細かく指摘をした。

「キセキの世代と言うのは、オレと同学年で帝光中学のバスケ部に所属していた、一部の選手を指す言葉なのだよ」
「ん?そうなの?」
「オレを含めた5人の選手が、そう呼ばれていたのだよ」
「そうだったんだー。僕はバスケってあんまり興味なかったから、そう言うの知らないけど、皆スゴいんだろうね」

キセキの世代のことも、スゴいことも、事前に聞かされて知っていたけれど、白蘭は惚けた顔で何も知らない振りをする。
彼らの事情を何も知らない人が見れば、白蘭の言葉は本当の事のように聞こえるのだろうが、γにはその言葉は酷く白々しく聞こえる。

「おい白蘭!話すのは良いが、練習の邪魔はするなよ!!」
「わかってるってγクン♪……γクンもああ言ってるし、僕はそろそろ退散するよ、緑間クン♪邪魔しちゃってゴメンね?」
「話し掛けるなら、何もない時にするのだよ。気が散る」
「じゃあ今度は何もない時にするよ♪」

緑間の冷たい言葉にも、白蘭は挫ける様子もなく、のらりくらりと返事を返す。
あれに目をつけられるなんて可哀想にな、と、γは心の中で緑間に向けて合掌した。
いっぺん絡まれると、本当にしつこいからな……。

「真ちゃん、今日は試合形式の練習あるってさ!」
「どんな練習だろうと、人事を尽くすだけなのだよ」
「ガンマ達も見ててくれよなー」
「ああ」

人懐っこく笑って自分達に手を振ってくる高尾に、γも頬を緩ませて手を振り返した。
近寄ってきた白蘭が、そんなγを意外そうに見る。

「あの彼の事、気に入ってるみたいだね」
「まあな……。人懐こいところが野猿に似てる。それに……、奴は本当にバスケが好きで好きで堪らねぇんだろうな」
「そこは緑間クンもおんなじだろうなぁ。彼の手、練習のし過ぎでタコ出来てたし、その上からびっしりテーピングして万全に整えてたから♪」

白蘭に言われて、緑間の手をジッと見る。
確かに、その指には執拗なほどにテーピングが施してあった。
野球のピッチャーが日常生活でも肩を大事にしている、みたいなことと同じなんだろう。
γにも白蘭にも、バスケにどういう事が必要なのかはわからないが、手を使うスポーツで、そのシュートを一身に請け負う緑間にとって、その手が命と並ぶほどに大切なものなのだろうと言う予想はついた。

「皆一生懸命なんだね♪」
「……邪魔してやるなよ」
「しないよ?もう、γクンってば僕の事なんだと思ってるのさ♪」
「悪魔だろ」
「ふふ、正解♪」

一瞬、白蘭の眼が冷たい光を宿す。
ぞくりと背中を伝った寒気に、γは思わず舌打ちをして、彼を睨み付けた。
やっぱり、こんな仕事は断れば良かった。
白蘭と一緒など、良い予感がしない。

「恨むぜ、スペルビ・スクアーロ……」

面倒な仕事回しやがって。
気怠げに言ったγに、白蘭はケラケラと笑うだけだった。
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