if群青×黒子、違う世界の人たち

「あの、さつきちゃん……」
「どうしたの凪ちゃん?」
「さつきちゃんは、部活、入ってる……の?」
「部活はね、バスケ部のマネージャーをしてるよ!」
「マネージャー……?」

放課後、帰宅する生徒と部活に行く生徒が入り乱れる教室で、クロームは仲良くなった桃井さつきに近寄って問い掛けた。
コテリと首を傾げるクロームの姿に、桃井は内心悶えているのを押し隠しながら答える。
更に首を傾げるクロームは、どうやらマネージャーとは無縁の生活を過ごしてきているらしい。
そもそも部活に入ったことがなく、マネージャーが何をする仕事なのかも、クロームには良くわからなかった。

「マネージャーはね、選手の皆を健康面や精神面から支えて上げる仕事なんだよ。他にも消耗品の買い出しとか、敵高校の情報収集とか、合宿所の手配とか……。たくさんやることがあるんだけどね!」
「スゴい……。大変そう……」
「うん、でもね、とってもやりがいのある仕事だよ。……そうだ!良かったら凪ちゃんも一緒に来ない?直ぐに大きな大会があるから、入部は難しいけど、見学なら大丈夫だよ!」
「いいの……?」
「もっちろん!」

笑顔で頷く桃井に釣られて、クロームも控え目な微笑みを浮かべる。
花の綻ぶようなその笑顔に、桃井は心の中で転げ回る。
鼻の下が伸びそうになるのを堪えて、桃井はクロームと連れ立ってバスケ部が活動する体育館へと向かった。


 * * *


「……と、言うわけで、凪ちゃんに見学してもらっても構いませんよね?」
「かまへんで。監督ももし交流生が来たら、仲良くしてやってくれてゆうてたしな」
「あ、あの、ありがとう、ございます」
「ええて、ええて。気にせんで好きなだけ見てきー」
「はい」

体育館で、クロームは背の高い関西弁の怪しげな……いや、大人っぽい雰囲気の男に挨拶をしていた。
桐皇バスケ部キャプテンの今吉である。
黒髪、黒縁メガネ。
キュッと細められた目が、どことなく白蘭を思い出させる。
背も高いため、どうしても威圧感を感じてしまい、クロームはついオドオドと視線を泳がせた。

「ん?どないしたんや凪ちゃん?」
「っ!」

挙動不審なクロームを不思議に思ったのだろう。
気付けば怖い人(※今吉)の顔が目の前にあり、クロームは慌てて桃井の影に隠れた。
彼女の制服の背中を掴んで、そっと顔を出して様子を伺う。
クロームが逃れたその場所では、今吉が不自然に屈んだ状態で固まっていた。

「……今吉さん、ドンマイですよ」
「ワシ何か……悪いことしたか?」
「たぶん怖いんだと思います、見た目が」
「……」

流石の今吉も、コレにはショックを受けたのか、寂しそうな空気を背負ってその場から去っていった。
既に体育館に集まっている部員達も、思わず暖かい視線を送ってしまう。
当のクロームは、今吉と距離が離れたことにホッとした様子である。
今吉にとってはトドメの一撃である。
だがクロームは気にすることなく、と言うか気付くことすらなく、桃井の服の袖をクイっと引いて話し掛けた。

「さつきちゃん……、私、どうすれば良い……?」
「あ、そうだなぁ……。取り合えずあそこのベンチで見学しててもらえる?私大ちゃん呼びにいかなきゃ!」
「……大ちゃん?」

桃井は体育館中をぐるっと見回すと、少し怒ったように誰かの名前を口にする。
クロームの不思議そうな視線に、桃井は苦笑いを浮かべながら答えた。

「このバスケ部のエースで、私の幼なじみなんだけど……、サボり癖がついちゃってて。また遅刻してるみたい……」
「エース……」

このバスケ部のエース。
クロームはまだ会ったことはないが、彼の名前は確か……。

「青峰大輝っていうの!顔は怖いけど、あんまり怖がらないであげてね!」
「うん……」

確かに、写真で見た『青峰大輝』は凶悪な顔をしていた。
だが資料によると、バスケ以外の趣味はザリガニ釣りとセミ採りらしい。
頭もあまり良くない……つまり、

「犬とおんなじ……」
「?何か言った?」
「何でもない」
「そう?」

フルフルと首を振るクロームに、桃井も特に問い詰める事はしない。
青峰大輝は犬と同じ。
そう考えれば、クロームでも問題なく接することが出来そうである。
彼を探しに行く桃井を見送り、クロームは言われた通りにベンチに座って、練習を見学し始めた。
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