if群青×黒子、違う世界の人たち

「違うぞ黄瀬!こうだ!」
「こうっスか!?」
「いいや、こうだ!」
「だからわかんねーっス!動き速すぎて見えないんスよ!!」

海常高校、放課後の体育館で、黄瀬は何故か了平の隣で拳を突き出していた。
切っ掛けは簡単、昼休みにバジル、了平、黄瀬、早川の4人で話していた時、黄瀬が自分の能力のことを漏らしてしまったのである。
つまり、相手の技を見ることで模倣できる能力。
了平はその話に食い付き、放課後には黄瀬の元に押し掛けてきて、オレのボクシングも極限真似をしてくれ!と頼まれたのである。
何でも、将来有望なボクシング選手を育てたいとか何とか……。
黄瀬はあくまでバスケ選手なのだが、部活が始まるまでの暇潰しになるなら、と引き受けてしまった。
そう、引き受けてしまったのである。

「拳はこうだ!腕はこうで、足腰にも注意だぞ!」
「わからねーっス!足腰まではわかるけどあと全然見えねーっスよ!!」
「極限根性が足らんぞ!」
「根性の問題じゃねーっス絶対!!」

恐らく動体視力の問題であろう。
軽い気持ちで引き受けた、それが黄瀬の運の尽きだった。
目で追いきれないほどに速いラッシュを目の当たりにして、黄瀬は直ぐに後悔した。
こんな常人離れした技など、盗めるわけがないと……。

「もう無理っスよ~!!」
「いいや、お前なら行ける!!」
「何を根拠に!?」
「極限勘だー!」
「勘で適当な事言わないでくださいっス!!」

逃走を図る黄瀬の襟首を、了平は軽々と捕らえて連れ戻す。
それを見ていたバスケ部員達は内心舌を巻いていた。
190㎝近い身長で、そこそこガタイもいい黄瀬を、軽々と捕まえて引きずるなど、鍛え上げられた筋肉なしには不可能だろう。
了平の背はそこまで高くないが、その分、その服の下の体は強靭に鍛え上げられているはずだ。
何よりあのパンチ。
一見するとただのバカだが、意外と凄い奴なのかも……。
顎に手を当て、そう考えているのは、海常バスケ部主将、笠松幸男である。
笠松は、二人の側でニコニコと笑いながら傍観に徹しているバジルに話し掛けた。

「なあ、あの笹川って奴、強いのか?」
「はい!笹川殿は全国でも一二を争うとても優秀な選手だそうですよ!」
「……殿?」
「拙者も尊敬しています!」
「拙者……!?」

答えの内容よりも、言葉遣いの方に驚いたが、そこはキャプテン、大きな器で無理矢理流して頷いた。

「……速さも中々のモノだが、パワーも相当のものなんだろうな」
「ええ、笹川殿以上のパワーを持つ人を、拙者は見たことがありません」
「……その、拙者ってのは何なんだ?」

どうやら流しきれなかったらしい。
指摘されたバジルの方は、嫌な顔一つせずにニコニコと笑って答えた。

「はい、拙者の日本語は親方様に教えていただいたものです。日本の古き良き言葉遣いなのだとお聞きしております!」
「古き良き……まあ、そうだな」
「はい!」

ニコニコと笑みを絶やさないバジルに、笠松は頷くしかなかった。
親方様と言うのが何者なのかは不明だが、確実に面白半分で教えてる……。
だがバジルはその親方様を尊敬しているようだし(何てったって様付けだ)、とても嬉しそうにそれを話すバジルに真実を教える事など、笠松には出来なかった。

―― キーンコーンカーンコーン……

笠松とバジルの会話が途切れたところで、タイミング良くチャイムが鳴る。
未だ暴れる了平と、再び逃亡を図ろうとしている黄瀬に笠松が声をかけ、バスケ部はようやく練習を始めたのだった。
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