if群青×黒子、違う世界の人たち

「え、部活?」
「そー。里ちんも見学に来ない?」
「僕なんかが、良いのかな?」
「うん、そのまんま終わった後に、スイパラ行こー?」
「スイパラ、僕も行きたい。じゃああの、部活終わるまで見てるね?」
「んー、待っててー」

炎真は終始オドオドしながら、目の前の2m級巨人……もとい、紫原敦と話していた。
始めこそ、その巨体に驚いていたものの、1日が終わる頃には、それにも慣れ始めていた。
と言っても、話しかけられる度に吃ってしまうのは、まだ直すことは出来そうにない。
身長差は30㎝以上。
どう考えても、突然話し掛けられたら怖い。

「じゃー行こうかー」
「う、うん」

紫原の後ろを小さくなって着いてゆく炎真に、クラスメイト達は生暖かい目を向けた。
オレ達は代われないけど、頑張れよ古里。
そんな心の声が聞こえてきそうである。
炎真はそんな声に気付くことなく、紫原の後について体育館へと向かったのだった。


 * * *


数分後、体育館に着いた炎真は、思わずあんぐりと口を開けてしまった。
そこではバスケ部が練習しているはず……だったのだが。

「お!そこの子猫ちゅわぁーん!!オレちんとデートしな~い?」
「おいジュリー!あんまりマネージャーを怖がらせるな!!」
「ちょっとジュリー、何してるの?」
「里ちん、あの変態知り合いなの?」

体育館を走り回って、女マネにナンパを仕掛けるのは、炎真とともにこの高校に潜入している加藤ジュリーその人であった。
炎真を見付けたジュリーは、ニマニマと笑いながら近付いてきた。

「炎真じゃーん!そっちは調子どーよ?」
「えっと……順調、かな」
「早速友達出来たのか?オレちんもさー、友達出来たぜ?ほら、あそこにいる鬼太郎ヘアの奴」
「僕、君と友達になった覚えはないんだけれど」
「つれねーのー」

ケラケラ笑うジュリーに対して、鬼太郎もとい、氷室の返事は冷たい。
ついでに言えば、紫原がジュリーに向ける視線も冷たい。
ジュリーは悪い人じゃないんだけど、勘違いされやすいんだよね……。
炎真は困ったように眉を下げた。
それを見た紫原は、ジトリとジュリーを見下ろす。

「ちょっと、里ちんが何か困ってるみたいなんだけど、あんた何?」
「あ、紫原君、ジュリーは僕とおんなじ交流生で、1個上の先輩だよ」
「えー……」
「えっと……何に対しての『えー』なんだろう……」

紫原という男は、何と言うかいつでも自分の価値観に沿って動くのだろうな。
そう思い、炎真は彼を宥めるために確りと紫原の目を見て話す。

「ジュリーは第一印象凄くチャラいかもしれないけど……、でも本当はいい人なんだ。僕もたくさん助けてもらってて……、だからあんまり邪険にしないであげてね?」
「……ま、オレの邪魔しないんだったら何でもいーけど」
「……うん、ありがとね」

プイッと顔を背けた紫原に、炎真はほっと息を吐き安心した。
言い方とか、態度とかはひねくれてるけど、紫原君もまた、優しい人なのだ、と。
弱く微笑んで礼を言った炎真。
そして氷室は、その様子を驚愕の表情で見ていた。
敦が、あの敦が懐いてる!!
彼の気持ちを言葉にするのならこんなところだろうか。

「えっと、君は……?」
「……僕は、交流生で、……古里、炎真」
「炎真、って言うんだね、よろしく。……敦とは随分仲が良いみたいだけど」
「その……成り行き、で?」
「な、成り行き……」

ぎこちなく答える炎真、そして困惑した様子の氷室は、探るようにお互いを見詰めながら、微妙な距離感を持って接している。
ジュリーはそんな二人を面倒臭そうに見た後、暗くなった空気を散らすように、無駄に大きな声で話し出した。

「なー、そろそろ三年生とか来るんだろ?オレらここにいていーの?」
「え、あ!もうそんな時間だったんだね」
「里ちんは隅っこ座って待っててね」
「わかった。……ジュリーも一緒で、良いかな」
「……いーよ」

紫原の了承を得て、二人は体育館の隅へと移動する。
二人っきりになってようやく、ジュリーは不思議そうな顔で炎真に問い掛けた。

「炎真があんなにすぐに紫原と仲良くなれるとは思わなかったぜ。一体どうやったんだ?」
「……よく、わからないよ。ただ、席が隣で……」
「それだけで仲良くなれたのか!?」

こっちなんて女の子でもないのに、積極的に話し掛けに行かなきゃならなかったんだぜ。
などと文句を垂れるジュリー。
炎真は申し訳なく思っているようだったが、訳もわからず仲良くなってしまったためにどうすることも、何と言うことも出来ず、ただ困った顔をするだけに留めたのだった。


 * * *


「驚いたよ、敦が交流生の子を連れてくるなんて……」
「そーお?」

先輩達が来るまでの短い時間に、氷室は紫原にそう話し掛けていた。
もちろん、理由を問い質すためである。

「なんで彼を連れてきたんだい?」
「別にー、ただ、里ちん面白そうだったから」
「面白そう?彼が?」

氷室の見た古里炎真の印象は、パッとしない、どことなく陰気そうな少年、と言ったところである。
そんな炎真を面白い、とは、一体どこをどう見てそう思ったのか。
より一層謎が深まった。

「それに、里ちん根暗っぽいから、ほっとくと虐められそーだったしー」
「……ああ、そうだね」

まあ恐らくは、紫原の気紛れなのだろうが、彼なりに守ってやったと言うことなのだろう。
ひねくれているが、なんだか可愛い後輩である。

「僕も彼と色々話してみようかな」
「好きにすれば?」

サクサクと駄菓子を貪りながら、紫原がそう言ったタイミングで、三年生が体育館へと入ってくる。
そしてすぐに練習が始まったのだった。
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