if群青×戯言、零崎威識の人間遊戯
「はぁーん、なるほどねぇ。つまりスクたんは、剣士に見せかけた暗器使いで?」
「その上、上司が起こしたクーデターの尻拭いのために、今は汚ぇ仕事をさせられてて?」
「で、実は男のふりした女で?」
「滅茶苦茶良い家柄のお坊っちゃんだったと?」
「キャラが濃いぜ。マンガにいそうなキャラだって言いたいが、そこまで詰め込んだら読者おいてけぼりで直ぐ様打ち切りだぜ」
「ぎゃはは、僕は嫌いじゃねーけどな。それにあんたに比べたらどんな奴だってキャラ薄くなるだろ」
それぞれ感想を述べてウンウンと頷く、人類最強と匂宮の秘蔵っ子。
そして今話題の人物は、二人の足元の床に転がっていた。
いや、人物、というより搾りカスと言った方が正しいかもしれない。
ビルを崩壊させた大魔人に引き摺られて、強制的に隠れ家に連れていかれたスクアーロは、ヘルメットを剥がしとられその後筆舌に尽くしがたい拷問(笑)を受け、自分の素性を隅から隅まで余すところなく語らせられたのだ。
彼女達曰く交換条件と言うことで、憔悴しきったスクアーロに裏世界のことを教えてくれはしたが、どうせこの後殺されるのだろうと思っているスクアーロの顔は死んでいる。
「人類最強とか、殺戮奇術集団とか、なんでそんな化け物がこんなところにいるんだよ……」
「いやいや、こんなかぁーわいい女の子を捕まえて化け物だなんて、姉ちゃんも言うじゃねぇか」
「そうだぜ、こんな美女捕まえて化け物だなんてよく言うぜ」
「見た目可愛いから余計に質悪いんだろぉ、てめぇらは……」
ごろんと転がり、大の字になったスクアーロは、ダルそうに二人を見上げる。
「……で、オレはこれから、どうなっちまうんだよ」
「ぎゃは、僕は一応『秘蔵っ子』って売りだし、裏世界のことを言い触らされるのは良くねーもんな」
「……口封じされるってことか」
死ぬのならイタリアで死ぬのだと思ってた。
ろくな死に方しねぇだろうとは思っていたが、まさかこんな東の果ての地で、化け物に遭遇してしまったなんて事故のような理由で死ぬなんて、思いもよらなかった。
死ぬならせめて、アイツの足元で死にたかったなぁ。
そんなことを思ったところで、叶いはしないだろうけど、スクアーロはせめて自分の主に恥じないように、戦って死のうと、そう思ったのだった。
「あの零崎って奴じゃねぇが、『悪くない』ぜぇ。最後にあんたらみてぇな強い奴らに殺されるってんなら、戦士としちゃあ本望だぁ!」
立ち上がって武器を構えたスクアーロ。
だが二人は一瞬キョトンとした後に、プッと吹き出して大笑いをし始めた。
「ぎゃは、ぎゃはははは!!なるほど口封じっつったらそーなるな」
「いやいやいや、捕まった男装美女がされることと言ったらアレだろ」
『女の悦びを教えてやるぜ!』
「……って、奴だよな」
と、まあ二人は悪役顔全開でそう言ったわけだが、スクアーロは困惑した顔で首を傾けた。
「……それって男が言う台詞だろ?」
「……いや、まあそうだけどね?」
「こいつ、百合ってジャンルを知らないのか……!!」
出夢が脱力して、哀川潤が爆笑する。
涙を浮かべて笑う潤は、口角を吊り上げたまま、スクアーロに向かって武器を下ろすように言う。
「男でも女でも言うのさ。だがまあ簡単に言えば今のはただ、『ちょっと女の子らしい格好してもらおうか』って意味だ」
「は……?」
「ふっふーん。素材としては極上だしなぁ。ゴスロリ……パンクロック……いや、清楚にロングスカートのメイドもありか?」
「はあ!?」
「ギャップ狙ってセーラー服なんかもアリだろ、ぎゃはは」
「何言ってんだぁ!!」
「じゃあ、潤、いっきまーす!!」
「ちょっ、まっ、来るな来るな来るな来る……うぎゃぁぁああ!!」
「ふはははは、観念しなスクたん」
「ひっ!や、やめ……出夢てめっ、写真を撮るなぁ!!」
その後スクアーロがどうなったかは、読者諸氏のご想像にお任せするとして、そんな過去を回想した現在のスクアーロは今すぐにでも柱に頭を打ち付けたい衝動にかられていた。
自分の中からあの時の記憶が消し飛んでくれるのなら、それくらいはいくらだって出来る。
ついでに裏世界との連中の繋がりが絶対的に切れる方法があるのなら、なんだって試してやる……いや、なんだっては流石に言い過ぎだが。
「その後も日本に来る度に、セクハラ紛いのコスプレごっこさせられた……」
愚痴るように呟くと、電話の向こうの相手は慰めの言葉を口にしながらも、ぎゃはぎゃはと大笑いした。
『御愁傷様だねスクアーロ。ぎゃはは、あの人類最強に気に入られるなんて中々ないだろうぜ。ま、そういう僕も、お前のことは意外と気に入ってるんだけどな』
「気に入ってる相手に会う度に、攻撃してくるのかお前は」
『え?会う度にじゃねーって。僕は殺戮は1日1時間って決めてるんだからね、毎回襲ってたら貴重な1時間が勿体ないだろ?』
「……」
『ん?不満なの?不満なのかな鮫っ娘スクちゃん?ぎゃはは、じゃあ今度会ったら一も二もなく攻撃しに行ってあげよーか?』
「全力でご遠慮願うぜぇ」
鮫っ娘スクちゃんってなんだ。
そう突っ込む前に、その後に続けられた言葉に拒否を返した。
有言実行、出夢は拒否しない限り……いや、時には拒否したところで、実行に移すことが常だから、どんなことでも冗談と受けとることはできなかった。
「……で、依頼、受けてくれんのか」
『ぎゃは、この僕に零崎探しを依頼すんのはお前くらいのもんだぜ。そんな依頼なら人類最強にした方が良いんじゃねーのか?』
「……オレに、また、あの、セクハラを、受けろと?」
『ぎゃははははは!怒んなって!まあ良いさ、受けてやんぜ。て言っても、調査(フィールドワーク)は妹の担当だけどな』
「理澄か。元気にしてるのか?また腹空かして倒れてねーか?」
『元気だぜ、この前倒れたけどな。ぎゃはは』
久々に聞いた名前に、スクアーロは目を細めて溌剌とした少女のことを思い出す。
出夢も潤も苦手だが、あの少女もまたあれはあれで苦手だった。
調査を得意としているため、いつの間にかこちらの情報も筒抜けになっていて、暗殺やらスパイやらと後ろ暗いことを山程抱えているスクアーロからしたら、ヒヤヒヤして仕方ないのだった。
「なら、理澄にも頼むと伝えてくれぇ」
『りょーかいりょーかい。しかしお前も災難だったなぁ。弟子が零崎になっちまうなんて。ぎゃははははは』
本当に、災難だ。
いや、これは起こるべくして起こったことなのかもしれない。
山本武から感じていた殺気を、気付かないふりして無視してきた、そのツケが回ってきたんだ。
その事を、今さら後悔しても遅いが、それでもすっぱり忘れるなんて器用な芸当は、スクアーロには出来なかった。
『ぎゃは、待ってろよ、スクアーロ。明日の正午、情報揃えて渡してやるさ。報酬は僕とのべろちゅーな』
「冗談言うな、歩く公然猥褻罪」
『ぎゃはは、こんないたいけな少女の、どこが公然猥褻なんだよ?ぎゃは、なら今度、僕と理澄に旨い飯でも奢ってくれよ』
「絶品の寿司屋紹介してやる」
『ぎゃはは、期待しとくぜ。……ついでにお前の料理も食いたいって言ったら、』
「作ってやる。それくらいで良いのなら、幾らでもしてやるよ」
『ぎゃは、2回目の人生ってのも、そう悪くはないかもな』
「あ?」
『そんじゃあなスクアーロー。バイビー。ぎゃははは』
向こう側で通話を終了されてしまい、スクアーロの耳にはツーツーという無機質な機械音だけが残った。
最後の出夢の声は小さくてよく聞き取れなかったが、2回目の……という言葉だけは届いていた。
2回目の、なんだろう。
アイツらは、初めて会った時から何か大きなことを隠しているような気がする。
別に探るつもりも、問い質すつもりもなかったが、あんな意味ありげな感じで言われたら気になるというのが、人の性だろう。
いつか、聞けたら良い。
考えた結果、そんな望みを心の隅に片付けて、スクアーロはもう一度携帯電話を手に取った。
『――――』
「ああ、俺だ」
『……――、―――?』
「そうだ。じゃあ頼んだぞ」
幾つか電話をした後に、書き置きを残してスクアーロは店を出ていった。
「その上、上司が起こしたクーデターの尻拭いのために、今は汚ぇ仕事をさせられてて?」
「で、実は男のふりした女で?」
「滅茶苦茶良い家柄のお坊っちゃんだったと?」
「キャラが濃いぜ。マンガにいそうなキャラだって言いたいが、そこまで詰め込んだら読者おいてけぼりで直ぐ様打ち切りだぜ」
「ぎゃはは、僕は嫌いじゃねーけどな。それにあんたに比べたらどんな奴だってキャラ薄くなるだろ」
それぞれ感想を述べてウンウンと頷く、人類最強と匂宮の秘蔵っ子。
そして今話題の人物は、二人の足元の床に転がっていた。
いや、人物、というより搾りカスと言った方が正しいかもしれない。
ビルを崩壊させた大魔人に引き摺られて、強制的に隠れ家に連れていかれたスクアーロは、ヘルメットを剥がしとられその後筆舌に尽くしがたい拷問(笑)を受け、自分の素性を隅から隅まで余すところなく語らせられたのだ。
彼女達曰く交換条件と言うことで、憔悴しきったスクアーロに裏世界のことを教えてくれはしたが、どうせこの後殺されるのだろうと思っているスクアーロの顔は死んでいる。
「人類最強とか、殺戮奇術集団とか、なんでそんな化け物がこんなところにいるんだよ……」
「いやいや、こんなかぁーわいい女の子を捕まえて化け物だなんて、姉ちゃんも言うじゃねぇか」
「そうだぜ、こんな美女捕まえて化け物だなんてよく言うぜ」
「見た目可愛いから余計に質悪いんだろぉ、てめぇらは……」
ごろんと転がり、大の字になったスクアーロは、ダルそうに二人を見上げる。
「……で、オレはこれから、どうなっちまうんだよ」
「ぎゃは、僕は一応『秘蔵っ子』って売りだし、裏世界のことを言い触らされるのは良くねーもんな」
「……口封じされるってことか」
死ぬのならイタリアで死ぬのだと思ってた。
ろくな死に方しねぇだろうとは思っていたが、まさかこんな東の果ての地で、化け物に遭遇してしまったなんて事故のような理由で死ぬなんて、思いもよらなかった。
死ぬならせめて、アイツの足元で死にたかったなぁ。
そんなことを思ったところで、叶いはしないだろうけど、スクアーロはせめて自分の主に恥じないように、戦って死のうと、そう思ったのだった。
「あの零崎って奴じゃねぇが、『悪くない』ぜぇ。最後にあんたらみてぇな強い奴らに殺されるってんなら、戦士としちゃあ本望だぁ!」
立ち上がって武器を構えたスクアーロ。
だが二人は一瞬キョトンとした後に、プッと吹き出して大笑いをし始めた。
「ぎゃは、ぎゃはははは!!なるほど口封じっつったらそーなるな」
「いやいやいや、捕まった男装美女がされることと言ったらアレだろ」
『女の悦びを教えてやるぜ!』
「……って、奴だよな」
と、まあ二人は悪役顔全開でそう言ったわけだが、スクアーロは困惑した顔で首を傾けた。
「……それって男が言う台詞だろ?」
「……いや、まあそうだけどね?」
「こいつ、百合ってジャンルを知らないのか……!!」
出夢が脱力して、哀川潤が爆笑する。
涙を浮かべて笑う潤は、口角を吊り上げたまま、スクアーロに向かって武器を下ろすように言う。
「男でも女でも言うのさ。だがまあ簡単に言えば今のはただ、『ちょっと女の子らしい格好してもらおうか』って意味だ」
「は……?」
「ふっふーん。素材としては極上だしなぁ。ゴスロリ……パンクロック……いや、清楚にロングスカートのメイドもありか?」
「はあ!?」
「ギャップ狙ってセーラー服なんかもアリだろ、ぎゃはは」
「何言ってんだぁ!!」
「じゃあ、潤、いっきまーす!!」
「ちょっ、まっ、来るな来るな来るな来る……うぎゃぁぁああ!!」
「ふはははは、観念しなスクたん」
「ひっ!や、やめ……出夢てめっ、写真を撮るなぁ!!」
その後スクアーロがどうなったかは、読者諸氏のご想像にお任せするとして、そんな過去を回想した現在のスクアーロは今すぐにでも柱に頭を打ち付けたい衝動にかられていた。
自分の中からあの時の記憶が消し飛んでくれるのなら、それくらいはいくらだって出来る。
ついでに裏世界との連中の繋がりが絶対的に切れる方法があるのなら、なんだって試してやる……いや、なんだっては流石に言い過ぎだが。
「その後も日本に来る度に、セクハラ紛いのコスプレごっこさせられた……」
愚痴るように呟くと、電話の向こうの相手は慰めの言葉を口にしながらも、ぎゃはぎゃはと大笑いした。
『御愁傷様だねスクアーロ。ぎゃはは、あの人類最強に気に入られるなんて中々ないだろうぜ。ま、そういう僕も、お前のことは意外と気に入ってるんだけどな』
「気に入ってる相手に会う度に、攻撃してくるのかお前は」
『え?会う度にじゃねーって。僕は殺戮は1日1時間って決めてるんだからね、毎回襲ってたら貴重な1時間が勿体ないだろ?』
「……」
『ん?不満なの?不満なのかな鮫っ娘スクちゃん?ぎゃはは、じゃあ今度会ったら一も二もなく攻撃しに行ってあげよーか?』
「全力でご遠慮願うぜぇ」
鮫っ娘スクちゃんってなんだ。
そう突っ込む前に、その後に続けられた言葉に拒否を返した。
有言実行、出夢は拒否しない限り……いや、時には拒否したところで、実行に移すことが常だから、どんなことでも冗談と受けとることはできなかった。
「……で、依頼、受けてくれんのか」
『ぎゃは、この僕に零崎探しを依頼すんのはお前くらいのもんだぜ。そんな依頼なら人類最強にした方が良いんじゃねーのか?』
「……オレに、また、あの、セクハラを、受けろと?」
『ぎゃははははは!怒んなって!まあ良いさ、受けてやんぜ。て言っても、調査(フィールドワーク)は妹の担当だけどな』
「理澄か。元気にしてるのか?また腹空かして倒れてねーか?」
『元気だぜ、この前倒れたけどな。ぎゃはは』
久々に聞いた名前に、スクアーロは目を細めて溌剌とした少女のことを思い出す。
出夢も潤も苦手だが、あの少女もまたあれはあれで苦手だった。
調査を得意としているため、いつの間にかこちらの情報も筒抜けになっていて、暗殺やらスパイやらと後ろ暗いことを山程抱えているスクアーロからしたら、ヒヤヒヤして仕方ないのだった。
「なら、理澄にも頼むと伝えてくれぇ」
『りょーかいりょーかい。しかしお前も災難だったなぁ。弟子が零崎になっちまうなんて。ぎゃははははは』
本当に、災難だ。
いや、これは起こるべくして起こったことなのかもしれない。
山本武から感じていた殺気を、気付かないふりして無視してきた、そのツケが回ってきたんだ。
その事を、今さら後悔しても遅いが、それでもすっぱり忘れるなんて器用な芸当は、スクアーロには出来なかった。
『ぎゃは、待ってろよ、スクアーロ。明日の正午、情報揃えて渡してやるさ。報酬は僕とのべろちゅーな』
「冗談言うな、歩く公然猥褻罪」
『ぎゃはは、こんないたいけな少女の、どこが公然猥褻なんだよ?ぎゃは、なら今度、僕と理澄に旨い飯でも奢ってくれよ』
「絶品の寿司屋紹介してやる」
『ぎゃはは、期待しとくぜ。……ついでにお前の料理も食いたいって言ったら、』
「作ってやる。それくらいで良いのなら、幾らでもしてやるよ」
『ぎゃは、2回目の人生ってのも、そう悪くはないかもな』
「あ?」
『そんじゃあなスクアーロー。バイビー。ぎゃははは』
向こう側で通話を終了されてしまい、スクアーロの耳にはツーツーという無機質な機械音だけが残った。
最後の出夢の声は小さくてよく聞き取れなかったが、2回目の……という言葉だけは届いていた。
2回目の、なんだろう。
アイツらは、初めて会った時から何か大きなことを隠しているような気がする。
別に探るつもりも、問い質すつもりもなかったが、あんな意味ありげな感じで言われたら気になるというのが、人の性だろう。
いつか、聞けたら良い。
考えた結果、そんな望みを心の隅に片付けて、スクアーロはもう一度携帯電話を手に取った。
『――――』
「ああ、俺だ」
『……――、―――?』
「そうだ。じゃあ頼んだぞ」
幾つか電話をした後に、書き置きを残してスクアーロは店を出ていった。