if群青×黒子、違う世界の人たち

「……初めは洛山に来たようだな、結局」

陽泉高校、その校舎から少し離れた場所で、青葉紅葉は厳しい顔つきでそう呟いていた。
敵を恐れているわけでも、この任務が嫌なわけでもない。
むしろシモンファミリーは、綱吉達の考えに共感し、喜んでこの任務をこなしている。
だが紅葉の顔が和らぐことはない。

「我々シモンに、沢田達元10代目ファミリー、その上ヴァリアーやチェデフ、ミルフィオーレに六道一派まで揃っていると言うのに、こうして待つことしか出来ないとはな……」

炎真もジュリーも潜入して対象に近付き、任務をこなそうとしているのに、自分には敵が来るまでは待つことしか出来ない。
不愉快そうに顔を歪め、紅葉は吐き捨てた。

「結局、歯痒い……。……そして、寒いっ!!」

陽泉高校は東北、秋田の高校である。
季節は冬真っ盛り、極寒の中で、待ち続けなければならない紅葉は、短く叫んで身を震わせた。


 * * *


神奈川県、海常高校の側で、ルッスーリアは上機嫌に鼻唄を歌いながら、双眼鏡を覗いていた。

「ンフフ♪やっぱり強豪校なんて言われるだけあるのね~。皆良い身体してるわぁ~ん♡」
「あの、ルッスーリア様?これ任務ですよ?なんで覗きして、鼻息荒げてるんですか。襲うんじゃなくて護るんですよ?分かってますよね!?」
「わかってるわよ、それくらい!!」

高校の様子がよく見える、とあるアパートの一部屋に陣取って、ヴァリアー達は緊張感のないゆるりとした空気の中、件の高校生を観察していた。

「でも四六時中気を張り詰めてたら疲れちゃうわ!私達だけじゃなくて、チェデフもミルフィオーレも参戦してる。いざというとき直ぐに出動できる程度に気を張ってれば、それで良いのよぉ~」
「それはそうですけど、それと覗きとは話が別です。オレ達がちゃんと見てるんで、ルッスーリア様は休んでてください。高校生達が可哀想です」
「可哀想ってどういう意味よ!?」

文句を垂れるルッスーリアから、隊員は問答無用で双眼鏡を取り上げて、高校生の監視を再開する。
午後の授業中のようなのだが、どうやらバジルは国語で躓いているらしい。
そりゃあ、あんなハチャメチャな日本語しか知らないんじゃあ無理もない。
そして、笹川了平は社会で躓いている。
あれは真のバカだから仕方がない。
就職先はあるのだし問題はない。
ちゃんと任務を果たせるのなら。

「今のところは問題なしか」
「そうねぇ……私の予想では、暫くは私達幹部が出る幕はないでしょうね」
「あ、やっぱりそう思います?」
「だってそうじゃない。バラけてるのを襲うより、ターゲットも潰したい敵も、全員が集まった所を全力で潰してきた方が楽でしょう?まあ、それまでに、こちらの戦力を知るために何人か送っては来そうだけど」
「てか、あの極悪愉快犯なら、意味もなく遊び半分で雑魚仕向けてきてもおかしくない気がします」
「うふ♡それもそうねぇ。でも今回は……あの極悪愉快犯も本気でくるんじゃないかしら?」

二人が頭に思い描くのは、自分達が殺すべき敵……、イエナ・ファットーリ。
ボンゴレの所有する暗殺部隊であった彼らと、ボンゴレの一幹部であったイエナとの確執は深かった。
特に……

「スクちゃんのことは、全力で潰しに掛かってくるんでしょうねぇ……」
「オレ、絶対殺します、極悪愉快犯」
「うふ、やっぱり雨部隊の子怖いわ」

彼らがイエナへの敵対心を燃やしているその時、学校の外で任務についているもう一人のヴァリアー幹部が、大あくびをしていた。


 * * *


「ふあ~ぁあ……」
『任務中に何大あくびしてやがる、ドカスがぁ……!』
「しし、だってしょーがねーじゃん。敵が一人も来ねーんだしさ」
『来なくても一応気は張っておけぇ。何があるか、わかりゃしねぇんだからな』
「うーす」

無線の向こうから聞こえてくる、少し怠そうなスクアーロの声に、ベルもまた怠そうに言葉を返す。
スクアーロは、昼休み中に受けた女子生徒達の突撃で疲れているようだが、ベルは何も無さすぎて疲れていた。
余りにも、暇。
また出そうになった欠伸を噛み殺しながら、校舎の周りをのんびり歩くベルに、スクアーロは慰めるように声を掛ける。

『あと少しすれば、護衛対象全員が集まる大会がある。その大会の恐らく最後の日、奴は仕掛けてくるだろう。そん時には、テメーにもしっかり暴れてもらうぜぇ』
「しし、ま、楽しみにしてんよ♪」

シュリン、とナイフを弄びながら、ベルはにぃっと笑みを浮かべた。


 * * *


「んあー!柿ピー!超暇なんらけろー!」
「めんどいけど、仕方ないでしょ。骸様の指示なんだし」
「わかってっけろー……」
「なら、黙って仕事しなよ」
「へーへー」

桐皇学園、その外で、柿本千種と城島犬は、端から聞いていても気が抜けるような会話をしていた。
木の枝に腰掛けて伸びをする犬を、千種は怠そうに息を吐いてたしなめる。

「オレら二人とも出る必要あるびょん?」
「万が一を考えて、でしょ。あの人、慎重な人だし」

あの人、とは、スクアーロの事だった。
骸は彼女に対して、一方的に嫌悪を向けているものの、千種やクローム、フランは、そこそこ深い付き合いをしている。

「あいつなー……。飯くれっからいーけろ、回りくろくてめんどくせーびょん」
「……それはそうかもね」

だが、回りくどいと言うより、恐ろしいほどに慎重なだけだと思うけど。
千種はそう思ったが、口には出さなかった。
どうせ言ったところで、犬はわからないと言うのだろうし。
ボンヤリと立ち尽くす千種の髪を、冬の冷たい風が揺らしていった。


 * * *


木枯らしが吹き抜ける。
冷たい空気に晒されて、太猿と桔梗は身を震わせて、眉を顰めた。

「くそ、さみぃな……」
「もう一枚着込んでくれば良かったですね。ここまで寒いとは思いませんでした」

秀徳高校、その一年生の教室がよく見える位置で、肩を縮こまらせながら辺りを警戒していた。
日陰になっている為、予想以上に寒く、鳥肌の立つ腕を擦りながら、会話を交わして気を紛らわせる。

「確実に襲ってくるのが、WCとやらが終わった後なんだろ?」
「ええ、そのWCは7日間あり、更にそのWCは一ヶ月後より始まります」
「……つまり、オレ達は、あと一ヶ月以上はこんなこと続けなけりゃなんなねーのか」
「ハハン!慎重なのは良いですが、外を守る我々の気持ちにもなってもらいたい……!」
「全くだ!!」

……外で護りに徹する者達にも、色々な者がいる。
二人は心の中でスクアーロに恨みを向けながらも、真面目に任務を続けるのであった。
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