if群青×黒子、違う世界の人たち

「ったく、リングを使うまでもねーぜ。幻術さえ見破りゃ、あとは雑魚だ」

ケッ、と言い捨てた獄寺。
彼の目の前には、ボコボコに顔を腫らした男達が倒れていた。
耳の無線機に手を当てて、正一達に連絡を取り、敵の回収を頼む。
だが、彼らが黒幕の事や、敵の計画を詳しく知っているとは思えない。
それを知るには、彼らは余りにも弱すぎる。

「どういうつもりなんだよ、あのイエナとかいう野郎……」

まさか、守護者の自分達にこんな雑魚をぶつけてきて、どうにかなるとでも思っているのだろうか?

「……まさかオレ達がいることに気付いてねぇ、なんてことはねぇだろうしな。なら……、様子見、か?」

ヴァリアーの隊員に術士を引き渡した後、学校を囲む壁にもたれ掛かりながら、獄寺はそう呟いた。
つけっぱなしにしている無線からは、正一の声が届く。

『僕は……様子見と言うよりは、挑発に近いんじゃないかと思う』
「はあ?挑発だと?」
『その……、こっちには捨てるほどに駒がいる、守れるものなら守ってみろ……って感じかな。さっきの敵も、本気の襲撃には程遠い実力しか無かったし、捨て駒、のように感じられる。もちろん、様子見ってこともあるんだろうけど……』
「チッ!面倒くせーな」
『でっ、でも、敵にはそれだけの戦力と自信があるってことだと思う。決して油断だけはしないようにね!!』
「わかってる」

イライラとした様子で答える獄寺に、正一は声だけでもわかるほどビビっている。
今頃はお腹を抑えているかもしれない。
獄寺は再度舌打ちをすると、自らの背後に聳える校舎を見上げた。
綱吉達は今頃、昼休みだろうか。

「10代目……この獄寺、必ずや10代目のご期待に応えてみせます!!」
『あの、綱吉君はもう10代目じゃないからね……?』
「う、うるせーな入江!!つかいつまで無線繋げてんだよ!!」
『ご、ごめん!!』

正一の焦ったような声の直後、プツリと無線が切られたのだった。


 * * *


「獄寺君……大丈夫かなぁ……」
「心配すんなってツナ!!獄寺は簡単に敵に倒されるような玉じゃねーだろ?」
「いや、敵って言うか、通報とかされないかなーって……」
「何でなのな?」
「いやダイナマイト……うん、何でもない。それより、お昼はどうしよっか。赤司君に接触出来たら良いんだけど……なんかガード固いよね……」
「そんなんフツーに話し掛ければ良いのな。なー赤司ー!」
「(嘘でしょ山本ぉぉお!!)」

敵が来たと言う連絡を受け、綱吉はこの昼休憩の時間にでも赤司と接触しなければ、と脳ミソを回転させようとしていた。
だが彼の脳ミソが結論を弾き出すより早く、能天気野球バカの称号を欲しいままにする山本が、直接赤司に話し掛けてしまったのだった。
小声で叫ぶと言う器用な芸を、人知れず披露しながら、スタスタと歩いていってしまった山本の後を追いかける。
頭を抱えたい。
山本は怪しまれるとか何も考えてない!
もし、めっちゃ引かれて、今後一切話し掛けるなとか言われたらどうすんのさ!
だが山本は、綱吉の考えなど気にもかけずに、いつも通りの爽やかな笑みを浮かべながら赤司に話し掛けた。

「な!赤司、お前バスケ部なんだろ?」
「ちょ!いきなり部活の話なの!?まずは自己紹介とか!」
「……いや、構わないよ。君達の自己紹介は聞いたし、君達は僕の事、知っているみたいだし」

喋りかけられた赤司は、一瞬驚いたような顔をしたものの、直ぐに微笑みを浮かべて、二人の言葉に答えた。

「ご、ごめんね赤司君!!オレ達さっき、洛山高校のバスケ部の話聞いててさ。チームはスゴく強いのに、赤司君一年生でレギュラー入りで、しかも主将もしてるんでしょう?だからあの……話してみたいね、って」
「ああ、そうだったんだ。部活の事を見聞きするのは、君達の言う『交流』にもなりそうだしね」
「そーそー!ついでに部活の様子とかも見せてもらえたらなー、なんて下心もあったりするんだけどなー」
「なら、放課後に見に来るかい?面白いかどうかわからないけど」
「え、良いの?」
「断る理由はないしね。構わないよ」

そう言って、赤司は微笑みを深める。
そんな赤司に、綱吉は焦り気味にお礼を言いながら目を輝かせた。
山本の無謀な突撃に嫌な顔をされると思っていたのに、まさかここまで快く頷いてくれるとは!!

「本当にありがとう!!でも……迷惑じゃない?」
「練習の邪魔をしなければね」
「ちゃんと大人しく見てるのな!」
「じゃあ、放課後になったら案内するよ。よろしくね、綱吉、武」
「え、あ……よろしくっ!」
「よろしくなー!」

ニコリと笑う赤司に名前で呼ばれ、綱吉は動揺した。
なんだか、突き放されているようで、だが同時に、懐に潜り込まれているような、矛盾した感覚を覚える。
距離感が、取りづらい。
赤司と離れて、山本と共に他の生徒に囲まれてからも、その気持ちの悪い感覚を拭うことは出来なかった。
赤司征十郎、彼は一体、何なんだろう。
綱吉は新しいクラスメイト達と明るく話ながらも、その裏で悶々と考え続けたのだった。
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