if群青×黒子、違う世界の人たち

「さて、それぞれ皆、対象に接触し始めているみたいだね」
「ああ、そのようだ。敵も動き始めている。ウチらも頑張らないとな」
「うん」

入江正一は、スパナの言葉に強く頷いて、目の前の監視モニターに向き直った。
匣アニマル達のカメラから送られてくる映像には、見知った仲間と、カラフルな頭の少年達が写っている。
彼らの仕事は送られてくる映像の分析。
ここ2年の間で、彼らの技術力は劇的に変化してきた。
主にヴェルデの功績なのだが、入江やスパナだって負けてはいない。

「僕らの幻術発見技術を使って、綱吉君達の役に立つ!!綱吉君や骸さん達なら兎も角、ほとんどの人間は幻術を、特に霧の炎を使った幻術を見破ることは難しい!僕達の働きに掛かってる訳だからね!!」
「わかってる、ウチも頑張る。でもまずは飴でも舐めて落ち着け」
「あ、ああ……ありがとうスパナ」

スパナお手製の飴を受け取った正一は、モニターに向き直って映像の解析をし始める。
彼らの作りあげた幻術発見技術、それはリアルタイムの映像を、ソフトを使って解析することで、僅かな違和感や炎の痕跡を見付け出し、幻術を見破る為のモノである。
発見率は95%と高く、並みの幻術士では騙しきることは不可能だった。

「ベストな形は、内側の護衛対象に気付かれずに、外側から警護しているヴァリアーや、守護者の皆が、敵を討伐すること」
「ついでに捕獲出来たら、色々と聞き出さないとな」
「うん、なるべく早い内に頭を潰して、彼らを一刻でも早く安全な日常に帰してあげなければ……」
「ああ」

当たり前の高校生活を送る彼らを見て、正一は難しい顔でモニターを操作した。

「はあ、僕らがまさかこんなことしてるなんて……数年前は考えもつかなかったな」
「ウチは機械が弄れるなら、どこでも良い」
「あはは……スパナはそうだろうけど、さっきの会話とかさ、丸っきりマフィアみたいだよね。なんか自分が怖いよ……」

もし、もし自分の家にランボが飛び込んで来なかったら、もし、十年バズーカの弾を落とさなかったら、こんなことにはならなかったんだろうな。
正一は、ここ以外にもたくさんあるはずのパラレルワールドへと思いを馳せる。
自分がただの一般人の世界。
すごい科学者になってるかも知れない世界。
売れないミュージシャンになってる世界もあるのかもしれないし、あるいは、本当にマフィアになってるかも知れない世界だって、あるかもしれない。

「この世界は、」
「え?」

おもむろに口を開いたスパナに、正一は間の抜けた声で問い返す。
スパナは一端手を止めて、正一に向き直る。

「この世界は、ちゃんと正一の選んで進んだ世界なんだろ?」
「!……そうだ。僕は自分で選んで、この世界にいる」
「なら、何も怖がることはない。それに、ウチらはマフィアじゃなくて、自警団なんだろ?」
「そうだね!人を守るための自警団。僕の選んだ、僕の世界だ」

だからこそ、仲間のために、そして自分のように裏の世界に巻き込まれる人間が出ないためにも、僕はここで精一杯に働く。
気合いを入れ直し、画面を見た正一は、ハッと息を飲んだ。

「スパナ!洛山高校……綱吉君達の映像を見てみて!!」
「っ!術士がいる。裏門付近の木の上だ」
「獄寺君!!今の聞こえたかい!?」

二人のつけているヘッドフォンから、獄寺の声が聞こえる。
どうやら敵の元へ向かったようだ。
綱吉達にもその報告をし、正一は祈るように目を閉じた。

「……やっぱり、術士を積極的に使ってくるつもりのようだね」
「奴らも一般人に見付かりたくはないだろうしな」
「今の作業と平行で、黒幕を探し出すよ。ヴァリアーの情報部隊も動いてる。必ず見付け出して、彼らの罪に見合った罰を受けてもらわなければ」

そう言った正一の目は、気の弱い高校生のそれではなく、未来の世界でメローネ基地に君臨していた時のような、強い覚悟の光を宿したモノであった。
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