if群青×黒子、違う世界の人たち

「英語を担当していらっしゃった中山先生が、ご家庭の都合で休暇を取られるため、本日より代理として来ました、アルノルド・パルマーラと言います。宜しくお願いいたします」

物腰柔らかな口調で言って微笑みながら、スクアーロは内心で大きくため息を吐いていた。
まさか自分が、ヴァリアーのNo.2である自分が、日本の高校で教鞭を取ることになるなんて。
アクーラとして精力的に活動してた時だって、ここまではしなかった。
それをまさか、ヴァリアーとしてするなんて。

「今日は初めての授業ですので、皆で簡単な自己紹介をしたいと思っています。皆さんの名前も早く覚えたいので、宜しくお願いします」

スクアーロ……いや、今はアルノルドの言葉に、はーい、と元気な返事が、特に女子の間から返ってきて、ニッコリと笑いながら、アルノルドはまず自分から自己紹介を始めた。

「アルノルド・パルマーラ。出身はイタリアです。気軽にアル、とでも呼んでください。日本語は問題なく話せるので、気軽に話し掛けてきてくださいね。そうですね……何か質問はありますか?」
「アル先生は何歳なんですかー?」
「24歳です。3月には25になりますね」
「好きな食べ物はなんですかっ?」
「カルパッチョが好きですね。あとは……日本の新鮮な海産物が好きです。寿司とか、美味しいですからね」

生徒から飛んでくる質問に丁寧に返しながら、笑みを絶やさず浮かべ続ける。
表情筋がひきつりそうだ。
今回スクアーロは、アルノルドとして偽名を使って、一応変装もしているが、その見た目はそれほど大きく変わってはいなかった。
短い黒髪、碧眼など、目立つ髪や目の色は変えているが、顔の造作はほぼ変えていない。
強いていうのなら、普段からは考えられないほど笑っている事が変装、と言えなくもないが。

「アル先生、恋人はいるんですか?」
「んー、残念ながら今は居ませんね」

小首を傾げてそう言ったアルノルドに、クラス中の女子生徒が沸き立つ。
そしてスクアーロは、心の中でひっそりと言い訳をする。
だって『アルノルド』には、恋人はいないし。
まあ『アルノルド』なんて人間、そもそも存在すらしていないのだが。

「それでは皆さんにも、順番に自己紹介をしてもらいたいと思います。それじゃあ……廊下側の前の席から」

放っておけばいつまでも続きそうな質問タイムを、半ば強制的に打ち切り、生徒達の自己紹介に移る。
気合いの入った自己紹介から、緊張しているのか、言葉を詰まらせながらの自己紹介、やる気のない自己紹介まで。
色んな自己紹介を聞きながら、それぞれの名前と顔を頭の中に叩き込んでいく。
そしてその中にいる二人の生徒を、特に慎重に観察した。
火神大我、黒子テツヤ。
黒子テツヤは、順番を飛ばされそうになったところを、スクアーロが指摘して自己紹介をしてもらう。
黒子はかなり驚いていた。
事前に調べたところ、自動ドアにすら気付かれないほどの影の薄さらしく、スクアーロとて元から知っていなければ気付かなかっただろう。
そして全員が自己紹介を終えた後、スクアーロはまたニッコリと笑って、持っていたファイルの中から紙の束を取り出した。

「では、残りの時間を使って、皆さんの実力を量るためにテストを行いたいと思います」

とびきりの笑顔を添えて言ったのだが、生徒からは大ブーイングをもらってしまう。
頑張って作ってきたというのに、解せぬ。
今度は苦笑いを顔に張り付けて、スクアーロは生徒達を宥めた。

「まあ難しいテストではありませんし、皆さんの成績に関係のあるものではありませんから、そう気負わずに受けてくださいね」

優しくそう言ってテスト用紙を配り始めたスクアーロに、生徒達は渋々とテストを始めたのだった。
時間を測りながら、スクアーロはふぅ、と一息吐く。
普段の仕事、教師の仕事、それに加えて黒子や火神、他にもバスケ部二年生の面々を護衛しなければならないとは、骨が折れる……。
ベルはあの通りの人格破綻者だし、彼には外からの応援を頼んでいる。
実質内側の守りは、スクアーロ一人だけ。
マーモンがいれば……なんて愚痴ったところで、払える金が無いため、彼の力を期待することは難しい。
先が思いやられる。
そんな心情を押し隠しながら、スクアーロはニコニコと柔らかな笑みを浮かべ続けるのだった。
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