if群青×黒子、違う世界の人たち

京都某所、洛山高校の1年生の教室は、俄にざわついていた。
今日、クラスに転校生がやって来るらしい。
冬休み前という、この微妙な時期での転校生。
一体どんな理由でこの時期に転校してくるのか、噂が飛び交うことも頷けるだろう。
だが、騒がしい教室の中で一人、大きくため息を吐いた生徒がいた。
赤司征十郎。
彼は手に持った本をパタンと閉じて、生徒達の噂話に耳を澄ませた。
あまりにも五月蝿くて、集中が出来ない。
……どうやら、男子生徒が二人、このクラスに来るらしい。
職員室にいたその二人を見た生徒が言うには、その内の一人がえらくイケメンなのだそうだ。

「下らないな……」

赤司の呟いた言葉は、誰に拾われる事もなく、鳴り始めたチャイムの音に掻き消されていった。

「静かにー。今日は皆さんにお知らせがあります。転校生が二人、このクラスに来ることになりました」

チャイムと共に入ってきた教師は、扉の外に声を掛ける。
すぐ後に開いたドアから入ってきたのは、二人の少年だった。
一人は背の高い、快活とした雰囲気の少年。
恐らく彼が、えらいイケメン、という奴なのだろう。
もう一人は薄い茶髪の、小柄で華奢な少年。
おどおどとした雰囲気から、消極的な性格が窺い知れる。
そんな正反対の雰囲気を持った二人が、声を揃えて同時に喋りだした。

「「東京の並盛高校から来ました!高校間交流プログラムの交換生です!よろしくお願いします!!」」

彼らの口から出てきた謎のワードに、クラス中が呆然として沈黙した。


 * * *


「ヒバリに協力を頼もうと思う」
「ヒバリさんに?」

ボンゴレ残党から『天才』達を守るために、それぞれの学校へと潜入することになった綱吉達に、スクアーロはそう言った。

「公立高校の並盛と、私立高校のそれぞれの高校とで、生徒を交換して交流させる。高校の更なる発展を目的として、……とか何とか言っておけば、周りの奴らは大して疑わねーだろぉ」
「でも、すぐに冬休みになるのに、そんな言い訳通るかな?」
「交流の期間は、冬休み明けから学期終わりまで。その準備のために行く、……これなら行けるんじゃねーのかぁ?」
「オレならそこまで言われたら納得しちゃうのなー」
「まあ、通らなくはねーだろーな。でも向こうの学校は、突然言っても受け入れねーんじゃねーか?」
「何のために術士がいると思ってんだぁ?ちょっと校長と教師の頭弄れば、すんなり進む」
「大丈夫なの、それ!?」
「後遺症とかは残らねーと思うぜぇ」

ならば、と、彼らは早速ヒバリに連絡を取り、その翌々日には、それぞれが割り振られた高校に潜入することに成功していた。
ヒバリを納得させるまでには、一騒動も二騒動もあったのだが、今は置いておくとして、綱吉は余りにも簡単に潜り込めたことに若干気が抜けてしまいながらも、いち早く溶け込むために、積極的にクラスメイトに話し掛けていた。
昔なら、知らない人に話し掛けるなんて絶対に出来なかったのに、自分も随分変わったな……、なんて感慨に浸る暇もない。
山本がたくさんの女子に囲まれる隣で、綱吉は男子に囲まれて質問攻めにあっていた。

「沢田だっけ?さっき言ってた高校間交流って何なんだ?」
「えーっと、何か色んな高校同士で生徒を交換して、それぞれのレベルを高め合おう、っていうプログラムなんだって。オレはその準備のための下見に来たって感じかなぁ。何かオレの学校の、スゲー怖い人が企画したらしくてね……」
「え、怖い人?」
「いやまあ、……何かヤバい人って言うか……ね、ハハハ」
「どんな人だよそのヤバい人って!?」
「んーと……ここだけの話だよ?」

ヒバリの武勇伝を語る綱吉は、心の中でヒバリとスクアーロに合掌して感謝していた。
何でも、固く畏まった『交換生』よりも、『何かヤバいヒバリという人』の方がインパクトがあるから、後からヒバリの話を出せば、生徒達の興味は確実にそっちに移る。
更に、少し焦らしてから『ここだけの話』などと言えば、ヒバリの話の特別感が高まるから余計に良い、という事を、ここに来る前にスクアーロに仕込まれてきたのである。

「お前の学校マジでヤバいな!?」
「思うでしょ!?しかも過ごしてる内に、それが当たり前みたいになってきちゃってるしさ!!」
「オレ、この高校で良かったわ……」
「洛山高校は何か面白い人とかいないの?」
「いやぁ……、そのヒバリってのに勝てる奴は、たぶんいないと思うけど」
「あ、赤司なんてどうだ?」
「赤司?」

口では疑問符を付けながら、綱吉はその名前に警戒心を強める。
自分が相手を知っている事を、知られてはいけない。
その上で、襲い来る敵から守らなければならないのだ。
結構ストレス溜まりそう、なんて思うけれども、スクアーロなんかはほぼ一人で、しかも教師の仕事をこなしながら、任務を全うしなければならないのだ。
それを思えば、自分の状況はまだマシな方である。

「赤司ってのはさ、今教室の一番前の席で本読んでる、赤髪の奴の事でさ。家が金持ちの財閥?とかで、成績優秀な上に、バスケ部では史上初の一年生主将!それであの顔だろ?だから女子達にも結構騒がれててな」
「まあ、スゲーストイックな性格してるから、オレ達は話し掛けることも出来なくて、正直アイツの事は噂でくらいしか知らねーんだよなー……」

大勢の生徒が綱吉と山本を取り巻いている中、彼は一人、俯き加減で読書に勤しんでいる。
彼の周りだけは、酷く静かな空気に満ちており、まるでそこだけ、世界が違っているようであった。

「すごい人なんだね、赤司君って」
「ヒバリよりはインパクト少ねーだろ」
「あはは、それはそうかも知れないんだけどさ……」
「お前の学校、他にも有名人とかいねーのか?」
「そうだな……」

そうして自分の話をしている内に、一時間目を知らせるチャイムが鳴り、赤司の話はほとんど聞けないまま、授業へと進んでいった。
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