夜は短し、遊べよマフィア
「しし、結構楽しかったなー」
「ム……そうだね、割りと、楽しかった、かな」
空は既に日が暮れかけている。
コーヒーカップ、ゴーカート、その他もろもろのアトラクションで遊びまくって、気付くともう閉園の時間が迫ってきていた。
後一つ、最後に何に乗るかを相談する。
「最後は一番でっけーの乗ろーぜ!」
そう言ってベルが指差したのは、大きな大きな観覧車だった。
その頂上からはきっと、オレンジと藍色の入り雑じった美しい空が見えることだろう。
全員異論はないようで、ベルを先頭に短い列に並ぶ。
観覧車のゴンドラには、人数制限のために二人ずつ三組に別れて入ることになる。
XANXUSやレヴィ、ルッスーリアは体が大きいため、それぞれ分かれて入った方が良さそうだ。
並び順から考えれば、ベルとレヴィ、ルッスーリアとマーモン、XANXUSとスクアーロ……と言ったところだろうか。
流石に自分とXANXUSではキツいと言うことが分かっているのか、レヴィは悔しそうに顔を歪めたものの、文句を言う様子はない。
だがベルは不満そうに唇を尖らせた。
「オレこいつと一緒かよ!スクアーロー、交代しねー?」
「もう順番来るんだから文句言うな」
「えー……」
「何がそんなに不満なのだ!!」
「全部」
「ぬおーっ!」
「ゔお゙ぉい、さっさと前進めぇ!」
揉める二人を見てやれやれと肩を竦めて呆れながら、他の四人は二人がカゴに乗るのを見守っている。
ポップな色やデザインの観覧車に、レヴィが有り得ないほど似合っていない。
というか、図体のでかい3人は3人とも皆、泣きたくなるほど観覧車が似合わない。
それでも周りが何の反応も示さないのは、マーモンの幻術のお陰である。
マーモン万歳、幻術万歳といったところか。
ルッスーリアとマーモンがゴンドラに入っていくのを見送り、直ぐにXANXUSとスクアーロが次のゴンドラに入っていく。
真っ赤な塗装のゴンドラ。
XANXUSの炎の色と同じ色だ。
二人だけの観覧車に、初めの内は沈黙が重たく二人を包んでいた。
窓から外の景色を眺めるXANXUSを見て、スクアーロがふっと口許を緩ませた。
「観覧車乗ったのは初めてだなぁ。案外、面白いもんだな」
「……そうか」
「お前が目覚めてからも、ずっと、戦い続きだったけどよ、こうやって息抜きに遊びまくるのも、悪くねーな」
「……」
額を窓ガラスに押し当てて眼下を見下ろすスクアーロは、まるで子供のように目を輝かせている。
その様子をボンヤリと見詰めながら、XANXUSは口を開いた。
「満足か……これで」
「ん、ん゙ー……そうだな、満足だ」
少ない言葉から言いたいことを推測し、苦笑を浮かべながら答える。
これだけ思いっきり遊べて、満足か、と。
したいようにして、満足したのか、と。
「もう、十分楽しんだよ。この後何があっても、へーき、だ」
スクアーロは目を閉じる。
9代目は、ヴァリアーに大した処罰も与えないつもりだと言っていた。
だが、他のボンゴレ幹部……9代目の守護者や古株の者達等は、その結果にきっと反感を抱く。
いくらXANXUSが強くても、自分達が恐ろしくても、頭の堅い馬鹿どもならば、ヴァリアーを潰そうとしてこない、とは言い切れない。
直ぐにでも、殺しに来るかもしれない。
もしかしたら、正々堂々真っ正面から理屈をこねて9代目の判断にケチをつけ、ヴァリアーを取り潰そうとするかもしれない。
スクアーロは、そうなることは、むしろ当然だと思っていた。
9代目の判断の方が異常である。
あれだけの事を犯したヴァリアーを放置するなんて、頭がおかしいとしか思えない。
スクアーロは自分達が間違ったことをしたとも思っていないし、後悔もしてはいない。
だが自分達のした事が、ボンゴレの者達には受け入れられない事だと言うことも、よくわかっているつもりだった。
だから誰かに殺意を向けられても、それを受け入れるつもりだし、結果殺されたって文句を言うつもりもなかった。
ただ……
「もし殺されるような目に合うのなら、その前に仲間達と、お前と、少しくらい楽しい思いしておきたかった。……って、あ゙ー、女々しいよな?なんかわりぃな」
目を細めて、薄い唇から吐息を溢すように笑うスクアーロを、XANXUSは冷たく見据えて、言葉を放つ。
「ボンゴレの老害どもがオレ達を殺そうとして来たとして、そうしたらお前は、また一人で責任負って、今度こそ死のうってのか」
「……」
「8年前のクーデターの時も、テメーが企てたとか騙ってたらしいな」
「……そう、言ったな」
「ドカスが」
「ああ」
外の景色から目を離して、スクアーロは、彼を困ったように見詰め返して、それに対してXANXUSは、眼光鋭く睨み返した。
「テメーは、何様のつもりだ、カス」
「……何様、っつうか、ただオレは、巻き込んだ仲間を守らなきゃならねぇと思って、それにお前の事も、出来るだけ守りたいって思っただけで……」
「それが、何様だと言ってる。テメー、オレ達を舐めてんのか」
「でも、」
「黙れ」
威圧感たっぷりに放たれた言葉に、スクアーロは口をつぐむ。
怒気がゴンドラの中を包んでいくのを感じ、思わず唇を尖らせて、後退るように身を引く。
狭い個室で、対して距離が広がった訳ではなかったが、XANXUSはスクアーロを追ってヌッと手を伸ばした。
「っ……」
「オレは自分のしたことの責任を、部下に押し付ける気なんざねぇ。それともテメーには、オレが平然と責任転嫁するような小者に見えるってのか」
「そんなこと……!」
「テメーのやってることは、そう言ってることと同じだ」
「!!」
後頭部を引っ付かんで、鼻が付くのではないかというほど顔を近付けて、XANXUSは酷く静かに怒っていた。
今までの彼は、激情に身を任すような激しい怒り方ばかりしていたから、スクアーロは驚いて目を見張る。
XANXUSも、こんな怒り方をするのか、そして、その怒りが自分に向くとは、そんな考えが脳裏に浮かぶ。
「オレも、他のカスどもも、自分の尻は自分で拭う。テメーに庇われるほど、オレ達ゃ弱くねぇ。思い上がるな」
「……っ、ごめん……」
「……ただ、」
「ぇ……」
「オレが戻るまで、この席を守り通したことは誉めてやる、……スクアーロ」
「……っ!?」
XANXUSは掻き回すようにスクアーロの頭を撫で、ドッカリと席に座り直す。
一方撫でられたスクアーロは、まさに唖然という言葉がしっくり来る表情になっていた。
まずは頭が真っ白になり、その直後に事態を把握して、混乱のあまりに顔を赤くしたり青くしたりと、目まぐるしく表情を変える。
口を開いたり閉じたりと繰り返しているが、言葉はなかなか出てこない。
それほど衝撃が大きかったらしい。
長い空白の後、ようやく絞り出したのは、目の前の男の名前だった。
「ザン、ザス……?」
「あ?」
「い、今の、なに……」
「下僕が成したことは誉める。……裏切った事は、後々取り戻せば良い」
裏切った事、とは、きっと沢田綱吉達を皆殺しにするために待機させていた部下を、退却させてしまった事を指しているのだろう。
たっぷりと時間をかけてその言葉を飲み込み、スクアーロは一瞬泣きそうな顔をした後、力強く頷いた。
「また、必ずお前の役に立つ。……だがもう、独り善がりな事は、しねぇ。ありがとう」
「……ふん」
「オレさ、まだお前の事、全然わかってなかったんだろうなぁ」
「カスザメ程度に理解されて堪るか」
「いや、それ以前に、オレら何だかんだで一緒にいた時間って、一年にも満たねぇだろ?お前は8年間ずっと、封印されていたしな……」
「……なら、これからオレを理解しろ」
「そうだな、時間かけて、これからじっくり、理解してくぜ」
「ふん、……まあ、悪くねぇ」
ふいっと顔を逸らして外を見たXANXUSに倣い、スクアーロも外を見る。
観覧車は天辺へと到達していた。
西の地平線には仄かにオレンジ色が残っているが、東を向けば、既に夜の帳が下りて、星々が優しい輝きを灯している。
スクアーロは安心したように目を眇めて、窓ガラスに頬を寄せた。
地平線のオレンジは、もう時おり鈍く光る程度である。
夜が……社会の闇に潜む者達の時間が、始まろうとしていた。
「ム……そうだね、割りと、楽しかった、かな」
空は既に日が暮れかけている。
コーヒーカップ、ゴーカート、その他もろもろのアトラクションで遊びまくって、気付くともう閉園の時間が迫ってきていた。
後一つ、最後に何に乗るかを相談する。
「最後は一番でっけーの乗ろーぜ!」
そう言ってベルが指差したのは、大きな大きな観覧車だった。
その頂上からはきっと、オレンジと藍色の入り雑じった美しい空が見えることだろう。
全員異論はないようで、ベルを先頭に短い列に並ぶ。
観覧車のゴンドラには、人数制限のために二人ずつ三組に別れて入ることになる。
XANXUSやレヴィ、ルッスーリアは体が大きいため、それぞれ分かれて入った方が良さそうだ。
並び順から考えれば、ベルとレヴィ、ルッスーリアとマーモン、XANXUSとスクアーロ……と言ったところだろうか。
流石に自分とXANXUSではキツいと言うことが分かっているのか、レヴィは悔しそうに顔を歪めたものの、文句を言う様子はない。
だがベルは不満そうに唇を尖らせた。
「オレこいつと一緒かよ!スクアーロー、交代しねー?」
「もう順番来るんだから文句言うな」
「えー……」
「何がそんなに不満なのだ!!」
「全部」
「ぬおーっ!」
「ゔお゙ぉい、さっさと前進めぇ!」
揉める二人を見てやれやれと肩を竦めて呆れながら、他の四人は二人がカゴに乗るのを見守っている。
ポップな色やデザインの観覧車に、レヴィが有り得ないほど似合っていない。
というか、図体のでかい3人は3人とも皆、泣きたくなるほど観覧車が似合わない。
それでも周りが何の反応も示さないのは、マーモンの幻術のお陰である。
マーモン万歳、幻術万歳といったところか。
ルッスーリアとマーモンがゴンドラに入っていくのを見送り、直ぐにXANXUSとスクアーロが次のゴンドラに入っていく。
真っ赤な塗装のゴンドラ。
XANXUSの炎の色と同じ色だ。
二人だけの観覧車に、初めの内は沈黙が重たく二人を包んでいた。
窓から外の景色を眺めるXANXUSを見て、スクアーロがふっと口許を緩ませた。
「観覧車乗ったのは初めてだなぁ。案外、面白いもんだな」
「……そうか」
「お前が目覚めてからも、ずっと、戦い続きだったけどよ、こうやって息抜きに遊びまくるのも、悪くねーな」
「……」
額を窓ガラスに押し当てて眼下を見下ろすスクアーロは、まるで子供のように目を輝かせている。
その様子をボンヤリと見詰めながら、XANXUSは口を開いた。
「満足か……これで」
「ん、ん゙ー……そうだな、満足だ」
少ない言葉から言いたいことを推測し、苦笑を浮かべながら答える。
これだけ思いっきり遊べて、満足か、と。
したいようにして、満足したのか、と。
「もう、十分楽しんだよ。この後何があっても、へーき、だ」
スクアーロは目を閉じる。
9代目は、ヴァリアーに大した処罰も与えないつもりだと言っていた。
だが、他のボンゴレ幹部……9代目の守護者や古株の者達等は、その結果にきっと反感を抱く。
いくらXANXUSが強くても、自分達が恐ろしくても、頭の堅い馬鹿どもならば、ヴァリアーを潰そうとしてこない、とは言い切れない。
直ぐにでも、殺しに来るかもしれない。
もしかしたら、正々堂々真っ正面から理屈をこねて9代目の判断にケチをつけ、ヴァリアーを取り潰そうとするかもしれない。
スクアーロは、そうなることは、むしろ当然だと思っていた。
9代目の判断の方が異常である。
あれだけの事を犯したヴァリアーを放置するなんて、頭がおかしいとしか思えない。
スクアーロは自分達が間違ったことをしたとも思っていないし、後悔もしてはいない。
だが自分達のした事が、ボンゴレの者達には受け入れられない事だと言うことも、よくわかっているつもりだった。
だから誰かに殺意を向けられても、それを受け入れるつもりだし、結果殺されたって文句を言うつもりもなかった。
ただ……
「もし殺されるような目に合うのなら、その前に仲間達と、お前と、少しくらい楽しい思いしておきたかった。……って、あ゙ー、女々しいよな?なんかわりぃな」
目を細めて、薄い唇から吐息を溢すように笑うスクアーロを、XANXUSは冷たく見据えて、言葉を放つ。
「ボンゴレの老害どもがオレ達を殺そうとして来たとして、そうしたらお前は、また一人で責任負って、今度こそ死のうってのか」
「……」
「8年前のクーデターの時も、テメーが企てたとか騙ってたらしいな」
「……そう、言ったな」
「ドカスが」
「ああ」
外の景色から目を離して、スクアーロは、彼を困ったように見詰め返して、それに対してXANXUSは、眼光鋭く睨み返した。
「テメーは、何様のつもりだ、カス」
「……何様、っつうか、ただオレは、巻き込んだ仲間を守らなきゃならねぇと思って、それにお前の事も、出来るだけ守りたいって思っただけで……」
「それが、何様だと言ってる。テメー、オレ達を舐めてんのか」
「でも、」
「黙れ」
威圧感たっぷりに放たれた言葉に、スクアーロは口をつぐむ。
怒気がゴンドラの中を包んでいくのを感じ、思わず唇を尖らせて、後退るように身を引く。
狭い個室で、対して距離が広がった訳ではなかったが、XANXUSはスクアーロを追ってヌッと手を伸ばした。
「っ……」
「オレは自分のしたことの責任を、部下に押し付ける気なんざねぇ。それともテメーには、オレが平然と責任転嫁するような小者に見えるってのか」
「そんなこと……!」
「テメーのやってることは、そう言ってることと同じだ」
「!!」
後頭部を引っ付かんで、鼻が付くのではないかというほど顔を近付けて、XANXUSは酷く静かに怒っていた。
今までの彼は、激情に身を任すような激しい怒り方ばかりしていたから、スクアーロは驚いて目を見張る。
XANXUSも、こんな怒り方をするのか、そして、その怒りが自分に向くとは、そんな考えが脳裏に浮かぶ。
「オレも、他のカスどもも、自分の尻は自分で拭う。テメーに庇われるほど、オレ達ゃ弱くねぇ。思い上がるな」
「……っ、ごめん……」
「……ただ、」
「ぇ……」
「オレが戻るまで、この席を守り通したことは誉めてやる、……スクアーロ」
「……っ!?」
XANXUSは掻き回すようにスクアーロの頭を撫で、ドッカリと席に座り直す。
一方撫でられたスクアーロは、まさに唖然という言葉がしっくり来る表情になっていた。
まずは頭が真っ白になり、その直後に事態を把握して、混乱のあまりに顔を赤くしたり青くしたりと、目まぐるしく表情を変える。
口を開いたり閉じたりと繰り返しているが、言葉はなかなか出てこない。
それほど衝撃が大きかったらしい。
長い空白の後、ようやく絞り出したのは、目の前の男の名前だった。
「ザン、ザス……?」
「あ?」
「い、今の、なに……」
「下僕が成したことは誉める。……裏切った事は、後々取り戻せば良い」
裏切った事、とは、きっと沢田綱吉達を皆殺しにするために待機させていた部下を、退却させてしまった事を指しているのだろう。
たっぷりと時間をかけてその言葉を飲み込み、スクアーロは一瞬泣きそうな顔をした後、力強く頷いた。
「また、必ずお前の役に立つ。……だがもう、独り善がりな事は、しねぇ。ありがとう」
「……ふん」
「オレさ、まだお前の事、全然わかってなかったんだろうなぁ」
「カスザメ程度に理解されて堪るか」
「いや、それ以前に、オレら何だかんだで一緒にいた時間って、一年にも満たねぇだろ?お前は8年間ずっと、封印されていたしな……」
「……なら、これからオレを理解しろ」
「そうだな、時間かけて、これからじっくり、理解してくぜ」
「ふん、……まあ、悪くねぇ」
ふいっと顔を逸らして外を見たXANXUSに倣い、スクアーロも外を見る。
観覧車は天辺へと到達していた。
西の地平線には仄かにオレンジ色が残っているが、東を向けば、既に夜の帳が下りて、星々が優しい輝きを灯している。
スクアーロは安心したように目を眇めて、窓ガラスに頬を寄せた。
地平線のオレンジは、もう時おり鈍く光る程度である。
夜が……社会の闇に潜む者達の時間が、始まろうとしていた。