闇に映える白銀
オレ様は、スクアーロという少年は剣士だと思っていた。
だが実際は、少し違うようだった。
剣だけでなく、銃、ナイフ、槍、ワイヤーなどの暗器に至るまで、様々な武器を使いこなす奴を見て、オレ様は思う。
こいつは天性の暗殺者だ。
絶対に、絶対にヴァリアーに入れる。
オレ様の手元に置く。
体力面には多少の問題はあるが、そんなものはこれから鍛えていけばいい。
こんな才能の塊を、手放すなんて考えられない。
この手元に置き、更にその力を育て、伸ばしてやりたい。
こいつを、この少年を、最強の暗殺者に、育ててやりたい。
隊員の100人抜きをさせたり、毒への耐性をつけさせたり、逆に隊員を鍛えさせたり、そんな無茶振りばかりさせたのも、全ては奴を育てる為だった。
……途中からは何でもこなしてしまう奴が、一体どこまで出来るのか見極めるのが楽しくなって、要らんことまでさせたりもしたが。
オレ様の思惑通りに、順調に強くなっていくスクアーロ。
奴と、肩を並べて戦う日も、そう遠くはないかもしれない。
そう思うと、嬉しくなった。
「酒だ、酒が飲めねばマフィアじゃない」
ある日、大きな仕事を終えて隊員達と共に酒を飲んでいたオレ様は、気紛れに奴に酒を飲ませようとした。
「未成年の飲酒、ダメ絶対!」
酔っ払った隊員達を冷めた目で見ていたスクアーロは、怒ったような顔でオレ様の酒を拒絶する。
それがどうにも気に食わず、オレ様はずずいと奴に近寄ると、持っていたウィスキーのボトルから無理矢理酒を流し込んだ。
「知るか!飲め、オレ様の酒を飲めないとは言わせないぞ」
「こいつ酔ってやがるガボォ!?」
「新人が潰されたー!」
今思えば、酔って自制心が無くなっていたのだろう。
溺れた人間のようにごぼごぼと酒に噎せて、口の周りだけでなく、首や服までベタベタに汚して、スクアーロはべしゃりと床に突っ伏した。
そこでようやく、流石にやり過ぎたかと気付いて、奴の肩を揺する。
「おい餓鬼、大丈夫か?」
「ら、らいろーぶにゃわけにゃいらろ……ばかぁ……」
「何言ってるのか素晴らしい程に訳わからんぞ」
仰向けに起こしてやって、ぺちぺちと頬を叩いてやる。
どうやらこのガキんちょは、メチャクチャ酒に弱いらしい。
顔を真っ赤にさせて呻くスクアーロを、介抱するために仕方なく抱き上げて運んでやる。
まったく、面倒の掛かる奴だ。
「マフィアになるんだ、酒の1本や2本、今の内に飲めるようになっておけ」
「ぅう……ん……」
「まったく……大人しくここで休んでおけ。何故オレ様が酔っ払いの介抱などしてやらねばならんのだ……」
奴に与えてやっている部屋のベッドに降ろして、溢れた酒をタオルで拭く。
そして、首元をくつろげてやるために手を伸ばした。
だがボタンを1つ外した所で、奴の手がオレ様の手首を掴む。
「……何だこの手は」
「てゅーる……」
恐らく、奴は睨んでるつもりなのだろう。
オレ様を見上げて、精一杯眉間にシワを寄せている。
だがその顔はアルコールが回っているせいで真っ赤だし、その瞳には涙の膜が張って潤んでいる。
怖くない、むしろ弱そうだ。
スクアーロはオレ様の手を押し退けるようにしながら、睨み付けてくる。
「えっち……」
「……はあ?」
「おれのふく、ぬがす……の……?」
「違うぞこの馬鹿が!介抱してやってるんだ!!ふざけたこと言うな!!」
「ゔぅ~……?」
いきなり何を言い出すのかと思ったら……何がエッチだこの馬鹿は。
首を傾げる馬鹿の頬を抓りながら、奴の手を引き剥がす。
加減が出来ないのか、矢鱈と力が強い。
痕が残ってしまうかもしれないな……。
「ほら、大人しく寝てろ、下戸」
「ん゙ぅ……まりゃへいきらもん……」
「あ゙~くそ、煩わしいな!」
何とか手首を掴んでいた手を引き剥がしたオレ様が、ベッドから離れようとしたとき、今度は後ろから、服の裾を強く引かれる。
いい加減イラついて、怒鳴りながら振り返ると、スクアーロは眉を下げてオレ様を見上げていた。
「いくなよ……」
「はあ?」
「ひとりじゃやだ……」
「何を……うおっ!?」
馬鹿みたいに強い力で服を引き摺られ、思わずベッドに尻餅を着く。
すぐに背中に、高い体温と重みが掛かる。
腹に腕が回され、スクアーロが後ろから抱き付いてきているのだと分かった。
「おい、何を……」
「ぅん……」
「おい耳元で変な声出すな!」
「んんー……」
「クソこの離れろガキんちょ!!」
「やぁ……だ…………」
少年特有の、男らしくない高い声。
熱い吐息が耳に掛かり、思わず心臓が跳ねた。
「本当にっ……!いい加減にしろ!!」
「うぁ……!?」
無理矢理力任せに奴の体を掴んで引き離し、ベッドの上に放り投げる。
きょとんとした顔で、呆然とオレ様を見上げた奴に、小さくため息を吐いて近付く。
「男がそんな顔をしているんじゃあない」
「……ごめ、ん」
スクアーロの顔は、悲しげに歪んでいた。
ああ、クソ、訳がわからない。
そんな顔、こいつがするはずないと思っていたのに……。
グシャグシャと頭をかき回し、オレ様は靴を脱いでベッドに座り込んだ。
「てゅー、る……?」
「そんなに言うならここにいてやる。まったく、剣帝たるこのオレ様に、そんなワガママ言うのはお前くらいだ……」
悲しげだったスクアーロの顔が、気付けば嬉しそうに笑っていて、らしくもなく、ほっと胸を撫で下ろしていた。
「さっさと寝ろ、スクアーロ」
「ん゙……」
オレ様の言葉に頷いて、奴は瞼を閉じる。
すぐに聞こえてきた寝息。
ようやく眠りに落ちたらしい。
オレ様を逃がさないようにか、上着の裾がまた掴まれていた。
それを脱いで、上掛けを掛けてやってからようやく離れる。
眠る少年の顔は、いつもよりも一層あどけなく見えた。
「14歳、か……」
まだ、そんなに幼かったのか。
そんな歳の少年が、何故剣豪狩りなどをしているのか、オレ様は知らない。
何かがあったのだろう。
それを、わざわざ聞く気はないが……。
「寂しいのか、お前は……?」
しばらくは、オレ様が傍にいてやっても良いかもしれない。
気紛れにそんなことを思った。
だがこれから先、こいつに酒は飲ませないようにしよう。
こいつの酔い方は何と言うか、心臓に悪いからな……。
だが実際は、少し違うようだった。
剣だけでなく、銃、ナイフ、槍、ワイヤーなどの暗器に至るまで、様々な武器を使いこなす奴を見て、オレ様は思う。
こいつは天性の暗殺者だ。
絶対に、絶対にヴァリアーに入れる。
オレ様の手元に置く。
体力面には多少の問題はあるが、そんなものはこれから鍛えていけばいい。
こんな才能の塊を、手放すなんて考えられない。
この手元に置き、更にその力を育て、伸ばしてやりたい。
こいつを、この少年を、最強の暗殺者に、育ててやりたい。
隊員の100人抜きをさせたり、毒への耐性をつけさせたり、逆に隊員を鍛えさせたり、そんな無茶振りばかりさせたのも、全ては奴を育てる為だった。
……途中からは何でもこなしてしまう奴が、一体どこまで出来るのか見極めるのが楽しくなって、要らんことまでさせたりもしたが。
オレ様の思惑通りに、順調に強くなっていくスクアーロ。
奴と、肩を並べて戦う日も、そう遠くはないかもしれない。
そう思うと、嬉しくなった。
「酒だ、酒が飲めねばマフィアじゃない」
ある日、大きな仕事を終えて隊員達と共に酒を飲んでいたオレ様は、気紛れに奴に酒を飲ませようとした。
「未成年の飲酒、ダメ絶対!」
酔っ払った隊員達を冷めた目で見ていたスクアーロは、怒ったような顔でオレ様の酒を拒絶する。
それがどうにも気に食わず、オレ様はずずいと奴に近寄ると、持っていたウィスキーのボトルから無理矢理酒を流し込んだ。
「知るか!飲め、オレ様の酒を飲めないとは言わせないぞ」
「こいつ酔ってやがるガボォ!?」
「新人が潰されたー!」
今思えば、酔って自制心が無くなっていたのだろう。
溺れた人間のようにごぼごぼと酒に噎せて、口の周りだけでなく、首や服までベタベタに汚して、スクアーロはべしゃりと床に突っ伏した。
そこでようやく、流石にやり過ぎたかと気付いて、奴の肩を揺する。
「おい餓鬼、大丈夫か?」
「ら、らいろーぶにゃわけにゃいらろ……ばかぁ……」
「何言ってるのか素晴らしい程に訳わからんぞ」
仰向けに起こしてやって、ぺちぺちと頬を叩いてやる。
どうやらこのガキんちょは、メチャクチャ酒に弱いらしい。
顔を真っ赤にさせて呻くスクアーロを、介抱するために仕方なく抱き上げて運んでやる。
まったく、面倒の掛かる奴だ。
「マフィアになるんだ、酒の1本や2本、今の内に飲めるようになっておけ」
「ぅう……ん……」
「まったく……大人しくここで休んでおけ。何故オレ様が酔っ払いの介抱などしてやらねばならんのだ……」
奴に与えてやっている部屋のベッドに降ろして、溢れた酒をタオルで拭く。
そして、首元をくつろげてやるために手を伸ばした。
だがボタンを1つ外した所で、奴の手がオレ様の手首を掴む。
「……何だこの手は」
「てゅーる……」
恐らく、奴は睨んでるつもりなのだろう。
オレ様を見上げて、精一杯眉間にシワを寄せている。
だがその顔はアルコールが回っているせいで真っ赤だし、その瞳には涙の膜が張って潤んでいる。
怖くない、むしろ弱そうだ。
スクアーロはオレ様の手を押し退けるようにしながら、睨み付けてくる。
「えっち……」
「……はあ?」
「おれのふく、ぬがす……の……?」
「違うぞこの馬鹿が!介抱してやってるんだ!!ふざけたこと言うな!!」
「ゔぅ~……?」
いきなり何を言い出すのかと思ったら……何がエッチだこの馬鹿は。
首を傾げる馬鹿の頬を抓りながら、奴の手を引き剥がす。
加減が出来ないのか、矢鱈と力が強い。
痕が残ってしまうかもしれないな……。
「ほら、大人しく寝てろ、下戸」
「ん゙ぅ……まりゃへいきらもん……」
「あ゙~くそ、煩わしいな!」
何とか手首を掴んでいた手を引き剥がしたオレ様が、ベッドから離れようとしたとき、今度は後ろから、服の裾を強く引かれる。
いい加減イラついて、怒鳴りながら振り返ると、スクアーロは眉を下げてオレ様を見上げていた。
「いくなよ……」
「はあ?」
「ひとりじゃやだ……」
「何を……うおっ!?」
馬鹿みたいに強い力で服を引き摺られ、思わずベッドに尻餅を着く。
すぐに背中に、高い体温と重みが掛かる。
腹に腕が回され、スクアーロが後ろから抱き付いてきているのだと分かった。
「おい、何を……」
「ぅん……」
「おい耳元で変な声出すな!」
「んんー……」
「クソこの離れろガキんちょ!!」
「やぁ……だ…………」
少年特有の、男らしくない高い声。
熱い吐息が耳に掛かり、思わず心臓が跳ねた。
「本当にっ……!いい加減にしろ!!」
「うぁ……!?」
無理矢理力任せに奴の体を掴んで引き離し、ベッドの上に放り投げる。
きょとんとした顔で、呆然とオレ様を見上げた奴に、小さくため息を吐いて近付く。
「男がそんな顔をしているんじゃあない」
「……ごめ、ん」
スクアーロの顔は、悲しげに歪んでいた。
ああ、クソ、訳がわからない。
そんな顔、こいつがするはずないと思っていたのに……。
グシャグシャと頭をかき回し、オレ様は靴を脱いでベッドに座り込んだ。
「てゅー、る……?」
「そんなに言うならここにいてやる。まったく、剣帝たるこのオレ様に、そんなワガママ言うのはお前くらいだ……」
悲しげだったスクアーロの顔が、気付けば嬉しそうに笑っていて、らしくもなく、ほっと胸を撫で下ろしていた。
「さっさと寝ろ、スクアーロ」
「ん゙……」
オレ様の言葉に頷いて、奴は瞼を閉じる。
すぐに聞こえてきた寝息。
ようやく眠りに落ちたらしい。
オレ様を逃がさないようにか、上着の裾がまた掴まれていた。
それを脱いで、上掛けを掛けてやってからようやく離れる。
眠る少年の顔は、いつもよりも一層あどけなく見えた。
「14歳、か……」
まだ、そんなに幼かったのか。
そんな歳の少年が、何故剣豪狩りなどをしているのか、オレ様は知らない。
何かがあったのだろう。
それを、わざわざ聞く気はないが……。
「寂しいのか、お前は……?」
しばらくは、オレ様が傍にいてやっても良いかもしれない。
気紛れにそんなことを思った。
だがこれから先、こいつに酒は飲ませないようにしよう。
こいつの酔い方は何と言うか、心臓に悪いからな……。