夜は短し、遊べよマフィア

ジェットコースターでの落下回数、計4回。
そして一度の一回転。
その間中叫び倒していたルッスーリアとスクアーロは、若干青褪めた顔で戻ってきていた。
ベルだけは至極楽しそうに、もう一回乗りたいと言っている。
そして彼らの背後にいるXANXUSは、今だ瞳孔をカッ開いたまま、かなり混乱した様子で、頭の上にビックリマークとクエスチョンマークを飛び交わせている。
悲鳴こそ上げなかったものの、XANXUSにとってジェットコースターはかなりのビックリ体験であったらしい。

「ボス、意外と絶叫系苦手……?」
「驚くザンザスに驚いて喉いてぇ」
「普通に怖かったわ……」
「しし、王子は楽しかったぜ」

もう一回行こうと誘うベルに、全員が首を横に振る。
一度でお腹一杯、と言うところか。
だいぶ精神に来たらしい。
まさかボンゴレの精鋭ヴァリアーがジェットコースターに屈するとは門外顧問もビックリであろう。

「しし、じゃあ次はあそこ行こーぜ!」
「あ゙あ?……ゾンビ、ハンター?」
「ああ、あれって確か、あの建物の中を歩いて、どれだけゾンビを撃てるか点数制で競うアトラクションじゃなかったかしら?」
「ム、それなら皆楽しめるんじゃない?……僕はムリそうだけど」
「マーモンはオレの肩にでも乗れ。そのまま中入ろうぜ」
「……まあ、それはそれで面白そうかな」

拗ねかけたマーモンを笑いながら肩に乗せ、ようやく復活したスクアーロはアトラクションに向かうベルを呼び止めながら後に続いた。
その後を他のメンバーも追っていく。
今度はレヴィも参戦するらしい。
意気込むレヴィの後を、今だ半分ほど放心状態のXANXUSが大人しく後を着いていった。
珍しいXANXUSのそんな様子を、こっそり写真にとるスクアーロに、マーモンが冷たい目を向けていた。



 * * *



「なるほどな、この銃を出てくるゾンビの脳天にぶっぱなせば良いのかぁ」
「合ってるけど、何か言い方が……。もっと柔らかく言いなよ」
「るせぇ」

アトラクションの入り口で、それぞれ銃を受け取りながら、やたらと手慣れた様子で構える男達に、笑顔を強張らせながら係員の女性が説明をする。

「最高得点が1000点となっております。ゾンビは緑のゾンビが10点、青のゾンビが30点、白のゾンビが50点となっていて、獲得した点数は出口の前で銃を返して頂いたときに、記念カードと一緒に発表させて頂きます。900点以上獲得されたお客様には、ここだけでしか手に入らない缶バッチをプレゼント致します」

必死に笑顔を保ったまま、早口で説明したお姉さんに、背後の控え係員からこっそりと拍手が送られる。
だがその説明を聞いた彼らが、ギラリと目を光らせた事に、係員達の拍手が止まり凍り付く。

「面白ぇ、誰が一番点数を取れるか……、勝負といこうじゃねぇかぁ」
「しし、やっぱオレが一番でしょ。だってオレ、王子だもん」
「貴様らなんぞに負けてたまるか!オレが一番をとる!見ていてくださぶはぁっふ!?」
「るせぇドカス。どう考えたってオレが一番だ」
「私銃なんて使わないから、あんまり自信ないわぁ~」

やる気……いや、殺る気満々な彼らに、流石に係員のお姉さんの顔からも笑顔が消える。
それに気付いたスクアーロは、ちょっと申し訳なさそうな顔をして彼女に話し掛けた。

「お゙う、わりぃな殺気立っちまって。一人一人順番に入ってけば良いのか?」
「いっ!?あ、そうです!はい!一人一人1分ほど間隔を開けて入って頂くことになります!」
「そうか、じゃあ案内頼むな」
「は、はい!」

愛想よく微笑んだスクアーロに、お姉さんの頬が赤くなったのは勘違いではないだろう。
スクアーロの肩の上では、マーモンが生暖かい視線を送っている。

「で、では先頭の方、中へお入りください。カーテンを潜った先から始まります」
「しし、王子いっちばーん!」

ベルが始めに入り、XANXUS、レヴィ、ルッスーリアと続き、最後にスクアーロ+マーモンが入っていく。
係員達は一行を呆然と見送る。
彼らに応対したお姉さんがポツリと呟く。

「ヤバい、持ってかれた」

スクアーロの気が付かないところで、禁断の恋が生まれていた……。



 * * *



「……さて、結果の紙はもらったな」
「ああ、因みにオレはバッチをもらった」
「それは皆もらってるよレヴィ」

アトラクションの出口にて、ヴァリアーの幹部達全員が集まって輪を作っていた。
マーモン以外の全員が、名刺大の紙を裏返して持っている。
もちろん、アトラクションの点数が書いてある紙だ。
全員バッチをもらったらしいので、どうやら900点は越えているらしい。

「じゃあせーので全員表にするぞ」
「わかったわぁん♡」
「まあ良いだろう」
「しし、いーと思うぜ」
「……」

全員が同意したのを見て、スクアーロももう一度頷く。

「せーのぉっ!」
「どうだ……ぬぉおおお!」
「しし、王子とスクアーロ一緒だな」
「いやーん!私が最下位じゃない!!」
「ふっ……」
「やっぱりテメーが一番か……」

結果……、1位は、やはりと言うか、XANXUSが勝ち取った。
点数は驚きの1000点。
この事に白目を向いた企画立案者がこの後、更に難易度を上げた激難と言われるアトラクションを作るが、それはまた別の話である。
次いで、スクアーロとベルが990点で2位。
次にレヴィが930点。
最後にルッスーリアが920点と僅差で破れている。
頭を抱えて地面をのた打ち回るレヴィは置いておき、ベルとスクアーロはお互いを称え合う。
XANXUSが分かりづらいが、少し得意気な顔をしているのを嬉しそうに見て、スクアーロは次の提案をする。

「一勝負終えたし、何か食わねぇか?確か向こうにホットドッグの出店があったと……」
「えぇー!?あそこメチャメチャ並んでたとこだろ?王子並ぶのとかマジ無理」
「今すぐあそこに群がるカス共をカッ消して飯にするぞ」
「それはダメよボスー!!」

ルッスーリアの言う通りである。
だが、彼(彼女?)の言っていることは正論のはずなのに、何故か思いっきり脳天に拳がめり込む。
あれは痛そうだ……。
その拳を避けるためにも、スクアーロが直ぐに案を出した。

「オレが並んで人数分買っといてやる。テメーらはもう一勝負してきたらどうだ?」
「しし、なら王子行ってくる。オレの分マスタード抜きな!!」
「カスザメ、肉は確り入れろ」
「オレはピクルス抜きだ!!」
「私はとくにないわよん♡よろしくね、スクちゃん!!」

それぞれ好き勝手な注文をつけ、最後にルッスーリアが(サングラスのせいでわからないが恐らく)ウィンク付きでそう言って、再びアトラクションの入り口に向かう。
係員が遠目に彼らを確認し一斉に舌打ちしたが、彼らには関係のないことだ。

「そう言えば、ルッスーリアってアトラクションの中でもずっとサングラス外してなかったけど、見えてるのかな……」
「と言うか、マーモンお前行かなくて良かったのかぁ?」
「僕はスクアーロの手伝いするよ。あんまり興味ないしね、あーいうアトラクションって」

アトラクションに入る前から、すっかりスクアーロの肩の上が定位置になりつつあるマーモンがそう言うのを聞いて、スクアーロは顔色を曇らせた。

「あー……、もしかして遊園地来るの、嫌だったか?」
「……そう言うわけじゃないよ。見てる方が好きってだけ。さっきのスクアーロの銃捌きも、結構楽しかったしね」
「……なら、良いけどよぉ」

ちょっと納得のいかない顔で、それでも納得の言葉を返したスクアーロに、今度はマーモンが問い掛ける。

「スクアーロこそ、楽しめてるかい?結局皆の間取り持って、こんなパシリみたいな事してるけど」
「パシリって……ひでぇな。まあオレはこういう役回りが一番落ち着くしなぁ。それに、仲間と遊びに行くことって初めてだし、さ。結構、楽しいぜ」
「……そっか」

スクアーロもマーモンも、普段は仕事以外の事には、興味すらも持たないような人種だったりする。
だからこそ、お互いこんな経験は初めてにも等しくて、時々戸惑いつつも何だかんだで楽しんでいる。
ただ、やはり慣れないことをする時は、しっかり休憩を挟まなければならないわけで。
二人はポツリポツリと会話を交わしながら、ホットドッグ屋に並んでいた。
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