Vista mare con te

「で、次に服かぁ?」
「おう!とびっきり可愛いのにしようぜ!」
「……あんまり派手なのは」
「スクアーロの嫌なようにはしねーって!」

と、二人がそんな会話を交わすのは、とあるブティックの入り口前だった。
渋るスクアーロを急かして入ったディーノは、店員の女性にニコッと笑った。

「ちょっと洋服見たいんだけど……」
「は、はい!」

話し掛けられた女性はぶわっと顔を赤くして、嬉しそうに笑いながら接客を始める。
それを見たスクアーロは、その人相をいつも以上に近寄りがたいものにして、ディーノの脇腹をど突いた。
当然、ディーノは痛みに悶絶する。

「い゙ってぇ!?何すんだよ!」
「うるせーな……服選ぶなら早くしろぉ」
「わーかってるって!せっかちだなもう!」

促されるままに婦人服売り場に向かっていったディーノの後ろ姿を眺めて、スクアーロは小さくため息を吐く。
これはもう、疑いようもなく、ただのヤキモチなんだろう。
いつからこんなにみみっちくなったのだか。
でも、そんな自分がいることを、心地よく思っていることも確かだった。

「スクアーロ、こっち来いよ!」
「あ゙ー、わかったわかった」

ディーノの急かす声にゾンザイな返事を返しながらも、気付けば口元に微笑みが浮かんでいた。
スクアーロは、ゆっくりと脚を進める。

「どんな感じのが良いかな……このシャツと、このシャツ、どっちのが良いと思う?」
「はあ?どっちだってそう変わんねぇだろぉ」
「変わるって!あ、下はロング丈のスカートで……いや、いっそワンピースってのもありかな?」
「さあなぁ……」
「スクアーロのだろ?もっと意見とか言ってくれよ」
「パンツが良い」
「却下!」

残念ながらスクアーロの要望は取り下げられてしまったが、それでも楽しそうに服を見るディーノを、スクアーロは満ち足りた表情で眺めていたのだった。

「これとー、これとー……あとこれも!」
「そんなに?」
「色々合わせて選ぶの!」
「ふぅん……」
「じゃあまずはこれ着てくれよな!」
「は?」
「だから、試着だよ試着!」
「え~……」

背中を押されて試着室に入るスクアーロ。
それを見て、慌てて近付いてきたのは先程の女性店員だった。

「あのっ!その服は女性用で……!」
「え?知ってるけど……」
「え?でも、あの方、男性ですよね?」
「アイツは女だよ?」
「え?」
「え?」

ディーノにとってはどこからどう見ても女でも、スクアーロの事情を知らない人間が見たら男にしか見えないのだ。
先程の店主はよく受け入れられたと思う。
スクアーロは聞こえてきた二人の会話に苦笑いを浮かべながら、ディーノに渡された服に着替えた。

「……ディーノ、どうだ?」
「っ!良い!すごく良い!!」
「う、うそ……本当に女……?」
「スカートスゲー合ってるぜ!次これも着てみてくれよ!」
「はあ!?」

着替えては誉められ、誉められては着替えての繰り返しで、そして10回は繰り返した後、ディーノの決断により、どの服にするのかが決まったのである。

「……本当に、これで大丈夫かぁ?」
「大丈夫だって!スッゲー可愛い!」
「っ……嬉しくない」
「うんうん、嬉しいんだなー」
「嬉しくないってば!」
「はいはい。あんまり怒ると美人が台無しだぜ?」
「っゔ~~!」

スカートをぎゅっと握って、顔を赤くして怒るスクアーロをディーノがクスクスと笑いながら宥める。
黒いタイツに茶色のレースアップブーツ、濃い紅色のミモレ丈スカート、トップはゆるめの黒いニットに、灰色のドロップショルダーコート、首にはチェックのマフラーを巻いていて暖かそうだ。

「やっぱ着替える。オレなんかには分不相応だろ」
「ダメダメ!そもそも服返さないし!」
「そもそも何でテメーが服持ってるんだよ!!返せ!」
「嫌だ!」

追いかけっこをするように店を出ていく二人を、唖然とした表情の店員が見送ったのであった。
6/11ページ
スキ