Vista mare con te

「んっくぅ……!……っあ!そこっ……!」
「だいぶ凝ってますねぇ……。書類仕事も多いんですか?」
「ゔっ……ん、そ、だなぁ。ん゙んっ……書類も外回りも多くて……んぅっ……!」
「あら……大変なんですねぇ……」

二人のマッサージはカーテンを挟んで同じ部屋で行われることになった。
スクアーロはだいぶマッサージを楽しんでいるようだが、ディーノはタオルに顔を埋めて、死んだように動かない。
店主はその背中を揉み解しながら遠慮がちに声を掛けた。

「ディーノ様……あの、どうかなさいましたか?」
「声がさ……」
「は?」
「スクアーロの声、が……何か……!」
「……あ、ああ……声、大きいですよね」
「確かにいつも声は大きいけどさ……。そんな声、出さないでも……さぁ!」
「……あはは」

ぐすぐすと泣きそうな声で愚痴るディーノに、店主は愛想笑いを返すしか出来なかった。
店主的には、スゴく凝ってそうだな~、以上の感想は抱かなかったのだが、ディーノは思考が危うい方向に走りかけているらしく、うんうん唸りながらマッサージを受けている。

「お二人ともだいぶお疲れのようでしたし、今日はこちらで寛いでいってくださいね」
「あ゙~、そうだな。うん、頼むな……ってあれ?さっきから声聞こえなくねぇか?」
「……そう言えばそうですね。寝てしまわれたんでしょうかね」

しばらくすると、カーテンの向こうからの声が聞こえなくなる。
途端にソワソワと落ち着かなくなるディーノに、店主も流石に呆れている様子だった。

「……と、終わりですよ」
「あ、おう!ありがとな!」
「あ、ちょっ……そんなに慌てたら……」
「ふぐっ!?」
「あぁ……転びますよ……?」

既に転んでしまったディーノに手を差し伸べて立ち上がらせると、いつものように笑顔で礼を言われ、いつもとは違い、慌てた様子でカーテンを捲って駆けていく。

「どれだけ好きなんですか……」

呆れ気味な店主の声に気付かず、ディーノはスクアーロの元に駆け寄ったのだった。

「スクアーロー!」
「あ……スクアーロ様は……」
「寝てるのか?」

ディーノはスクアーロの顔を覗き込んで、そっと額の髪を退ける。

「疲れてたんだな……」
「リラックスして頂けたようで何よりです。……ですがそろそろ起こしていただきませんと……」
「あ、そうだよな!スクアーロー、起きろー」
「……ん゙、うん」

ディーノが控え目にスクアーロの肩を揺すり、起こそうと試みる。
暫く呻いていたスクアーロだったが、やっと目を開けると、目の前のディーノを見て固まった。

「お前……なんつぅ格好して……」
「え?あ、服着ないで来ちゃったから……。と、とにかく、さっさと起きろって!さっさと着替えて、次のとこ行こうぜ!」
「次?」
「おう!」

ご機嫌なディーノに首を傾げながら、スクアーロもゆっくり身を起こす。

「じゃあ、直ぐに着替えるから……」
「…………うん」
「……何見てんだぁ跳ね馬。テメーもさっさと着替えてこい」
「え~」
「さっさと行け」
「ちぇっ、しょうがねーなぁ……」

マッサージはオイルを使ったもので、まあテレビなんかでよく見るような服を脱いで受けるような物だった。
体を起こしたスクアーロはタオルで体を隠していたのであるが、ディーノは何か期待するようにじっと見ていた。
彼の期待することなど起こるはずもない。
呆れたようにディーノを追い返したスクアーロは、ため息を吐きながら立ち上がり、マッサージをしてくれた女性に会釈をすると、服を着始めた。

「スクアーロー、着たかー?」
「ん、着た」

待ち合い室で落ち合い、ディーノはスクアーロの姿をざっと見る。

「うん、さっきよりちょっと血色良くなったんじゃねーか?」
「そうかぁ?」
「おー、いつもよりもっと綺麗になった!」
「……そう言うの、素で言えるところは、少し尊敬する」
「?」

首を傾げるディーノと、呆れながらも少し嬉しそうなスクアーロが店を出て行く。
それを見送った店主は、少し困ったように言ったのだった。

「仲睦まじいようで、何よりです」

店主の男は背中が見えなくなるまで見送り、店へと戻る。
自分も何だか人恋しくなってきた。
支え合うように寄り添い歩く二人を思い出し、彼は思わず笑いを溢したのであった。
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