Vista mare con te

「やだぁ、スクちゃんまだむくれてるの?」
「だって……」
「どっちにしろデート出来るんだから良いじゃなーい?それより、あんたもうちょっと女らしい格好とか出来ないの?」
「……女らしいって……」

翌日の事である。
ヴァリアー邸の門の前で、ディーノが来るのを待っているスクアーロに、ルッスーリアは呆れたように言う。
今日の格好もまた男物の服で、洒落てはいるのだが、女らしさは見えない。

「折角私が、あんたの代わりに仕事してあげて遊びに行けるのに~、もっとお洒落して行きなさいよぉ」
「……お洒落はしてる」
「男のお洒落じゃないの、あんたのは!」
「ゔぅ……!」

ルッスーリアに何かを言われる度に心なしか小さくなっていくスクアーロだったが、それでも必死にルッスーリアに言い返す。

「お前の方は大丈夫なのかよ……。オレの仕事、全部やるなんて言ってたがぁ……お前に出来んのかよ」
「私だってやれば出来るってとこ、見せてあげるわぁ♡」
「……心配だなぁ」
「あんたは何にも気にしないで、デート楽しんで来なさいよぉ。じゃ、私は戻るからね」
「ん゙っ!?お゙う……」

ルッスーリアは励ますようにスクアーロの背を叩いて、仕事をするためにヴァリアー邸の中に入っていく。
叩かれた場所を痛そうに擦りながら、その後ろ姿を見ていたスクアーロだったが、彼女の耳はこちらに近付いてくる音に気付いた。
パッと振り向いて道の先を見る。
その先にあったのは黒塗りの高級車で、その運転席から降りてきた人を見て、スクアーロは体を緊張させる。

「スクアーロ!待たせたか?」
「い、いや……全然待ってない」
「良かった……。折角二人で出掛けるんだもんな!最初から嫌な思いさせちゃダメだもんなー。んじゃあ車乗れよ!早く行こーぜ♪」
「あ、おう……」

今日のディーノはとても上機嫌で、スクアーロの手を引きながらニコニコと笑って彼女を車に誘う。
スクアーロはと言うと、突然手を繋がれたことに驚いたり緊張したりして、いつも以上に表情が固い。
デート、という認識が、必要以上に相手の存在を意識させているようだった。

「こちらのドアからどうぞ、お嬢さん?」
「え……あ、はい」
「なんだよ?折角遊びに行くのに、何か固くないか?」
「っ……そんなこと、ねーよ」

だってデートだと思うと、緊張してしまうに決まってる。
自分の為にドアを開けてくれるディーノを見ると、更に緊張してしまうスクアーロだったが、車に乗り込もうとしたときになってハッと気が付いた。
ディーノは一人だ。
車の中には誰もいない。
……どうやってへなちょこディーノが事故も起こさずに車を運転してきたんだ?

「……なあ、今日は部下は誰も来てないのかぁ?」
「ん?さっきまではロマーリオが乗ってたけど、今はオレ一人だぜー?」
「……跳ね馬、歩いていこう。車は置いていって良いから」
「え?でも、」
「歩いていこう」
「は、はい……?」

何とか未来の交通事故を回避したスクアーロとディーノは、そのまま歩いて街へと向かう事になったのであった。
ディーノはしっかりとスクアーロの手を掴んで、隣に寄り添って歩く。
カチコチに固まって緊張しているスクアーロを見て、クスクスと笑った。

「ふふ……緊張しすぎだろ」
「っさいな……!」
「いつもだって手ー繋いだりしてんのに、今日はどうしたんだ?」
「何でもない……!」
「んーそうは見えねーけど……」

不思議そうに頭を傾げながらも、やっぱり機嫌は良いようで、ディーノはにへにへと顔を綻ばせながら、スクアーロの頭に擦り寄る。

「でもこうしてるとさ、デートみたいで楽しいな!!」
「え……」
「あ、スクアーロの事だからさ、本当に用事があって、それのついでにオレを誘ってくれただけなんだろうけど、たまにはこういうのも楽しいなーってさ」

ディーノの輝くような笑顔と、デートという言葉。
スクアーロは思わず目を逸らして俯き、ぼそぼそと声を出す。
ディーノは不思議そうにスクアーロの顔を覗き込む。

「スクアーロ?どうかしたか?」
「…………つもり、だった」
「え?」
「は、初めから……デートに誘った、つもりだった、から」
「……え?」
「っ……分かりづらくて、悪い」
「え……えっ!?」

そこでやっとスクアーロの言葉の意味に気付いたディーノは、ぼふっと音が出そうな程、一気に顔を赤く染める。
それに釣られるようにスクアーロの顔も赤く染まっていき、二人は真っ赤な顔をしながらお互いから顔を逸らした。

「あ……あの、ごめんな?か、考えてみればそうだよな!デートのお誘いだったよなあれ!」
「オレの、誘い方が悪かっただけだから……お前が謝ることねーよ」
「そ、そんなことない……!あっ、そうだ!お詫びに色んな所連れてってやるよ!そしたら、デートっぽくなると思うし、さ……」
「あ、りがと……な」
「いや……その、なんか改めてデートって、こっ恥ずかしいな……あはは……」
「っ~~~!!」

真っ赤になった顔を、手のひらで仰いで冷まそうとしている二人を、遠くの茂みで覗いている男達がいた。

「くっそ!オレ達の隊長に恥掻かせやがってあの馬野郎がぁあ!!」
「ああ……隊長の赤い顔……麗しい……!」
「スクアーロ様……何故あんな男と……!!」
「あんた達も好きよねぇ……」

スクアーロ親衛隊こと雨部隊の隊員数名と、ルッスーリアだった。
ため息を吐いて彼らを見るルッスーリアの顔は心なしかげっそりしている。
スクアーロの事しか見えていない彼らを見れば、精神的に打撃を受けるのは必至だが、この程度で疲れていてはこの先生きていけない。

「オレ達には無事と幸せを祈ることしか出来ないのか……!!」
「隊長……どうかご無事で!!」
「敬礼!」

全員でスクアーロに敬礼を送る彼らを見て、ルッスーリアは早くも心折れ掛けたとか……。
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