Vista mare con te
きっかけは些細な事だった。
ボンゴレで大きな集まりがあったときのことである。
「キャア!キャバッローネのディーノ様よ!」
「やっぱりイケメンねぇ……」
どこぞのマフィアの箱入り娘、と言ったところか、可愛らしく着飾った娘達が、ディーノを見て黄色い悲鳴を上げる。
彼女達に軽く手を振り返すディーノを見て、スクアーロは不機嫌そうに鼻を鳴らした。
「へなちょこが、持て囃されて調子乗ってんなよぉ」
「んだよ、妬いてんのか?」
「はっ、誰が」
イライラと荒い足音を立てながら、スクアーロが料理を取りに離れた。
その隙を狙った……訳ではないのだが、ディーノの周りに女性達が集まる。
「ディーノ様ぁ、私とワインでも飲みながら、ゆっくりお話、いたしませんか?」
「こんな三流マフィアの女は放っておいて、私とお茶でも如何ですかディーノ様?」
「ちょっと!誰が三流よ!!」
「あら?言わなくてもお分かりでしょう?」
「あ、ははは……まあ落ち着けって……」
争って自分に寄ってくる女性達を宥めるディーノだったが、ふと目を上げて気付く。
「あれ?スクアーロは……?」
「もー、ディーノ様どこ見てるんですかぁ?私の事も見てくださいよぉ!」
「え、ああ……でもオレ、ちょっと行くところが……」
「後で良いじゃないですかぁ!」
ディーノが不安そうに周囲を見回してスクアーロの姿を探しながらも、女性達の輪から抜け出せずにいるその時、スクアーロはルッスーリアの元に居た。
「ゔー……」
机に突っ伏してむくれているスクアーロに呆れたように、ルッスーリアはため息を吐いた。
「んもう!突然来たと思ったら何むくれてんのよぉ」
「だって……」
「どうせ跳ね馬ちゃんが女の子と話してて嫉妬してるんでしょ~?さっき見たわよぉ、ガツガツした感じの娘達に絡まれてたわね?」
「……しっと、かな」
「あら、あんた嫉妬してる自覚無かったの?本当こういう方面は疎いんだからぁ」
「……っせぇ」
ふん、と鼻を鳴らしながらも、むくれたままのスクアーロは自分の姿を見下ろす。
黒のスーツに、深緑のネクタイ、黒いシャツ、そしてピカピカの革靴も真っ黒。
上から下まで黒ばかりで、唯一色の違うネクタイも、落ち着いた濃い緑色で、特別派手な雰囲気は出ない。
イケメンには見えても、女にはとても見えない、男物のスーツ姿。
「こんな格好ばかりじゃ……嫌われてもおかしくないかもな……」
「あの子は格好なんて気にしないと思うけどぉ~……、気になるなら、私が可愛いお洋服、コーディネートしてあげるわよん?」
「……お前に任せると少女趣味みたいな……こう、コテコテな服になるだろぉ」
それは幾らなんでも嫌だ、と言うスクアーロはもう一度自分の体を見下ろす。
毎日シャワーを浴びるわけだから、自分の素肌がどんなものかは良くわかってる。
傷だらけのボロボロで、とても誰かに見せられるような代物じゃない。
あの女性達みたいに肌をさらけ出して堂々と出歩いている自分なんて、悲しいことに想像もつかない。
「まあ、いつも通りの格好でも何でも良いじゃない!大事なのはハートよ!は・あ・と!今からガツーンと行ってデートにでも誘ってきなさいよぉ」
「は……デート……?」
「もう付き合いはじめて1ヶ月は経ったわよねん?何回かデートとかはしたんでしょお?どうなのよぉ、跳ね馬ちゃんは?」
「……ない」
「え?」
「デート、してない……」
「は……はあ!?」
ルッスーリアに言われてハッとする。
そう言えば計画してデートに行くとか、したことがない。
たまたま会って二人行動とか、仕事のついでに会ったり、向こうから押し掛けてきたりとか、そんなのばっかりで、デートなんて考えたことがなかった……。
「あんた……それは不味いわよぉ」
「そ、そうなのか……?」
「だって付き合って1ヶ月でまともなデート回数0って……相手も冷めるわよそんなの!」
「冷め……!?」
「よし!ルッス姉さんからスクちゃんに司令よん!」
「な……なんだ!?」
「今すぐ跳ね馬ちゃんをデートに誘ってきなさい!!」
「んなっ!?」
ガーンと言う効果音が背景に浮かんでいるような顔をして、スクアーロは目を見開いた。
そしていつも以上に大きな声で叫ぶ。
「無理に決まってんだろぉ!!せめて場所を改めてだなぁ……!」
「甘えてねぇでさっさと行ってこいやゴルァァア!!」
「ゔお゙ぉ!?」
しかしスクアーロの訴えは速攻で却下され、地声で怒るルッスーリアに蹴り飛ばされる。
そのままヨロヨロと歩いたスクアーロは何かにぶつかって止まる。
ぶつかったのは、ディーノの胸だった。
「おっと……大丈夫かスクアーロ?やっと見つけたと思ったら、何してんだ?」
「は、跳ね馬……!」
ディーノの周りにはまだ取り巻きの女達がいて、新たに輪に飛び込んできたスクアーロを狙って、ぎらりと目を光らせていたのだが、スクアーロはそれに気付くどころではなかった。
アワアワと落ち着きなくディーノの顔を見たり、地面に視線を落としたりする彼女に、ディーノ達も怪訝そうな顔をする。
「スクアーロ?」
「どうかなされたのですか?」
「私達に何かご用でしょうか?」
「スクアーロ様のお力になれるのなら、ワタクシ何でも致しますわ!」
「やだ、貴女に何が出来るっていうのよ。スクアーロ様、私がお力になりますわ?」
「い、いや、大したことじゃないから平気だが……」
媚を売る女達に笑顔を張り付けて柔らかく断り、スクアーロはもう一度ディーノに向き直る。
キョトンとした顔で見つめ返してくる彼に口を開いて喋ろうとするが、言葉がなかなか出てこなかった。
「あっ……あのっ!」
「うん?」
「オレ……と……っ!」
「スクアーロと?」
「い、いや……オレに……?」
「オレに聞かれても……」
「その……あの……あ、明日1日……だけ、で、良いから……」
「明日?」
「オレと、ちょっと……付き合え……!!」
かなり言い淀んだ後、何とか言葉を絞り出す。
ディーノの顔を見るのも恥ずかしくて、そっぽを向いているスクアーロに、彼は平然とした様子で返事を返した。
「おー、良いぜ!」
「……あ、そう、か?」
「ん、で、どこ行くんだ?」
「え?」
「え?どっか行きたいところあるんだろ?」
「あ、……そ、そう!行きたいところがあるんだよ!」
思っていたより軽く返されて混乱する。
どうやらディーノは用事に付き合ってほしいのだと思っているらしく、楽しそうに笑う彼を前に、スクアーロは必死で脳を動かす。
行きたいところなんてあったか?
いや、なくても絞り出さなくては。
「あ……え、映画!見たい映画があって!」
「そうなのか?めずらしーな!オレで良ければ好きなだけ付き合うぜ」
「そ、そうか……。ありがとな」
「気にすんなって!じゃあ明日、スクアーロの所に迎えに行くからな!」
「……ん」
約束は取り付けられた、が、何となく納得がいかない。
ロマーリオに呼ばれたディーノは、スクアーロの頭を軽く撫でると、手を振って去っていく。
その背中を見ながら、スクアーロは少しだけ頬を膨らませた。
「あの鈍感バカ……」
「え、えーと、スクアーロ様?」
「今の……どういう……?」
「え゙……あ……!」
スクアーロと共に取り残されたのは、ディーノを取り巻いていた女性達である。
驚きを隠すそぶりも見せずに、呆然とした様子でスクアーロに問い掛けた。
「あ、いや……今のは……何でもなくて!」
「で、でも今のって……あの、デートのお誘いのようにも聞こえましたけど……?」
「そ、そそそそれは勘違いだと思うぞ!?オレは戻るからパーティー楽しめよなぁ!」
「ええっ!?」
ぎこちなさ過ぎる笑顔で、そう言ったスクアーロが走り去っていき、暫くの沈黙の後、一人の女性がポツリと溢した。
「……それはそれでアリね」
「っ!?」
アリらしい。
とにかく、こうして二人のデートが決まったわけである。
ボンゴレで大きな集まりがあったときのことである。
「キャア!キャバッローネのディーノ様よ!」
「やっぱりイケメンねぇ……」
どこぞのマフィアの箱入り娘、と言ったところか、可愛らしく着飾った娘達が、ディーノを見て黄色い悲鳴を上げる。
彼女達に軽く手を振り返すディーノを見て、スクアーロは不機嫌そうに鼻を鳴らした。
「へなちょこが、持て囃されて調子乗ってんなよぉ」
「んだよ、妬いてんのか?」
「はっ、誰が」
イライラと荒い足音を立てながら、スクアーロが料理を取りに離れた。
その隙を狙った……訳ではないのだが、ディーノの周りに女性達が集まる。
「ディーノ様ぁ、私とワインでも飲みながら、ゆっくりお話、いたしませんか?」
「こんな三流マフィアの女は放っておいて、私とお茶でも如何ですかディーノ様?」
「ちょっと!誰が三流よ!!」
「あら?言わなくてもお分かりでしょう?」
「あ、ははは……まあ落ち着けって……」
争って自分に寄ってくる女性達を宥めるディーノだったが、ふと目を上げて気付く。
「あれ?スクアーロは……?」
「もー、ディーノ様どこ見てるんですかぁ?私の事も見てくださいよぉ!」
「え、ああ……でもオレ、ちょっと行くところが……」
「後で良いじゃないですかぁ!」
ディーノが不安そうに周囲を見回してスクアーロの姿を探しながらも、女性達の輪から抜け出せずにいるその時、スクアーロはルッスーリアの元に居た。
「ゔー……」
机に突っ伏してむくれているスクアーロに呆れたように、ルッスーリアはため息を吐いた。
「んもう!突然来たと思ったら何むくれてんのよぉ」
「だって……」
「どうせ跳ね馬ちゃんが女の子と話してて嫉妬してるんでしょ~?さっき見たわよぉ、ガツガツした感じの娘達に絡まれてたわね?」
「……しっと、かな」
「あら、あんた嫉妬してる自覚無かったの?本当こういう方面は疎いんだからぁ」
「……っせぇ」
ふん、と鼻を鳴らしながらも、むくれたままのスクアーロは自分の姿を見下ろす。
黒のスーツに、深緑のネクタイ、黒いシャツ、そしてピカピカの革靴も真っ黒。
上から下まで黒ばかりで、唯一色の違うネクタイも、落ち着いた濃い緑色で、特別派手な雰囲気は出ない。
イケメンには見えても、女にはとても見えない、男物のスーツ姿。
「こんな格好ばかりじゃ……嫌われてもおかしくないかもな……」
「あの子は格好なんて気にしないと思うけどぉ~……、気になるなら、私が可愛いお洋服、コーディネートしてあげるわよん?」
「……お前に任せると少女趣味みたいな……こう、コテコテな服になるだろぉ」
それは幾らなんでも嫌だ、と言うスクアーロはもう一度自分の体を見下ろす。
毎日シャワーを浴びるわけだから、自分の素肌がどんなものかは良くわかってる。
傷だらけのボロボロで、とても誰かに見せられるような代物じゃない。
あの女性達みたいに肌をさらけ出して堂々と出歩いている自分なんて、悲しいことに想像もつかない。
「まあ、いつも通りの格好でも何でも良いじゃない!大事なのはハートよ!は・あ・と!今からガツーンと行ってデートにでも誘ってきなさいよぉ」
「は……デート……?」
「もう付き合いはじめて1ヶ月は経ったわよねん?何回かデートとかはしたんでしょお?どうなのよぉ、跳ね馬ちゃんは?」
「……ない」
「え?」
「デート、してない……」
「は……はあ!?」
ルッスーリアに言われてハッとする。
そう言えば計画してデートに行くとか、したことがない。
たまたま会って二人行動とか、仕事のついでに会ったり、向こうから押し掛けてきたりとか、そんなのばっかりで、デートなんて考えたことがなかった……。
「あんた……それは不味いわよぉ」
「そ、そうなのか……?」
「だって付き合って1ヶ月でまともなデート回数0って……相手も冷めるわよそんなの!」
「冷め……!?」
「よし!ルッス姉さんからスクちゃんに司令よん!」
「な……なんだ!?」
「今すぐ跳ね馬ちゃんをデートに誘ってきなさい!!」
「んなっ!?」
ガーンと言う効果音が背景に浮かんでいるような顔をして、スクアーロは目を見開いた。
そしていつも以上に大きな声で叫ぶ。
「無理に決まってんだろぉ!!せめて場所を改めてだなぁ……!」
「甘えてねぇでさっさと行ってこいやゴルァァア!!」
「ゔお゙ぉ!?」
しかしスクアーロの訴えは速攻で却下され、地声で怒るルッスーリアに蹴り飛ばされる。
そのままヨロヨロと歩いたスクアーロは何かにぶつかって止まる。
ぶつかったのは、ディーノの胸だった。
「おっと……大丈夫かスクアーロ?やっと見つけたと思ったら、何してんだ?」
「は、跳ね馬……!」
ディーノの周りにはまだ取り巻きの女達がいて、新たに輪に飛び込んできたスクアーロを狙って、ぎらりと目を光らせていたのだが、スクアーロはそれに気付くどころではなかった。
アワアワと落ち着きなくディーノの顔を見たり、地面に視線を落としたりする彼女に、ディーノ達も怪訝そうな顔をする。
「スクアーロ?」
「どうかなされたのですか?」
「私達に何かご用でしょうか?」
「スクアーロ様のお力になれるのなら、ワタクシ何でも致しますわ!」
「やだ、貴女に何が出来るっていうのよ。スクアーロ様、私がお力になりますわ?」
「い、いや、大したことじゃないから平気だが……」
媚を売る女達に笑顔を張り付けて柔らかく断り、スクアーロはもう一度ディーノに向き直る。
キョトンとした顔で見つめ返してくる彼に口を開いて喋ろうとするが、言葉がなかなか出てこなかった。
「あっ……あのっ!」
「うん?」
「オレ……と……っ!」
「スクアーロと?」
「い、いや……オレに……?」
「オレに聞かれても……」
「その……あの……あ、明日1日……だけ、で、良いから……」
「明日?」
「オレと、ちょっと……付き合え……!!」
かなり言い淀んだ後、何とか言葉を絞り出す。
ディーノの顔を見るのも恥ずかしくて、そっぽを向いているスクアーロに、彼は平然とした様子で返事を返した。
「おー、良いぜ!」
「……あ、そう、か?」
「ん、で、どこ行くんだ?」
「え?」
「え?どっか行きたいところあるんだろ?」
「あ、……そ、そう!行きたいところがあるんだよ!」
思っていたより軽く返されて混乱する。
どうやらディーノは用事に付き合ってほしいのだと思っているらしく、楽しそうに笑う彼を前に、スクアーロは必死で脳を動かす。
行きたいところなんてあったか?
いや、なくても絞り出さなくては。
「あ……え、映画!見たい映画があって!」
「そうなのか?めずらしーな!オレで良ければ好きなだけ付き合うぜ」
「そ、そうか……。ありがとな」
「気にすんなって!じゃあ明日、スクアーロの所に迎えに行くからな!」
「……ん」
約束は取り付けられた、が、何となく納得がいかない。
ロマーリオに呼ばれたディーノは、スクアーロの頭を軽く撫でると、手を振って去っていく。
その背中を見ながら、スクアーロは少しだけ頬を膨らませた。
「あの鈍感バカ……」
「え、えーと、スクアーロ様?」
「今の……どういう……?」
「え゙……あ……!」
スクアーロと共に取り残されたのは、ディーノを取り巻いていた女性達である。
驚きを隠すそぶりも見せずに、呆然とした様子でスクアーロに問い掛けた。
「あ、いや……今のは……何でもなくて!」
「で、でも今のって……あの、デートのお誘いのようにも聞こえましたけど……?」
「そ、そそそそれは勘違いだと思うぞ!?オレは戻るからパーティー楽しめよなぁ!」
「ええっ!?」
ぎこちなさ過ぎる笑顔で、そう言ったスクアーロが走り去っていき、暫くの沈黙の後、一人の女性がポツリと溢した。
「……それはそれでアリね」
「っ!?」
アリらしい。
とにかく、こうして二人のデートが決まったわけである。