夜は短し、遊べよマフィア

「着いたぜイタリアぁ!」
「テンション高くないかい、スクアーロ」
「良いだろ、久々の自由時間なんだから」

そんなことを言うスクアーロの休日はほぼ、ない。
XANXUSが目覚める前などは更に自由時間はなかった。
接待以外で遊びにいく経験などゼロと言っても過言ではない。
そんな彼らが、今日この日は、この日だけは、ボンゴレも、戦いも、仕事も忘れて遊ぶのだと、故郷イタリアへと降り立った。
少し気の抜けた表情のスクアーロに、周りの幹部達も浮き足立っているようだ。

「さて、どこに行きたい?」
「しし、王子遊園地行ってから飲み屋行きてー」
「貴様の意見など聞いてはいない!ボス、どこに行きたいですか!?」
「るせぇ」
「はがっ!」
「んもー!あんまり暴れちゃダメよー!!私達ボンゴレに見付かったら、ヴァリアーの屋敷まで強制送還よ~?」
「ム、じゃあベルの案を採用してとっとと行こうよ」
「じゃあ遊園地だなぁ」

携帯で近くのテーマパークの場所を調べる。
そう遠くない位置にありそうだ。
しかしそこまでどうやって行くのか、というのが問題であった。

「どうやって行く?」
「ム……、公共機関は無理だね。何せボスにボコボコにされたせいで、僕達かなり目立つし」

日本で飛行機に乗る前に、XANXUSに殴られた彼ら。
スクアーロは後頭部にたんこぶができ、恐らく鳩尾に青あざができており、更に服も若干焦げている。
マーモンやベルも同じ様にボロボロだった。

「その上人が多いと暴れちゃいそうだしなー、うししっ!!」
「そうだな、お前以外にもヤバイ奴が2、3人いるよな」

主にザンザスレヴィルッスーリアである。

「スクアーロ、諦めたらそこで試合終了だよ」
「なんだそれ」
「日本における魔法の言葉らしいよ」
「いい言葉なんじゃねーか?」

スクアーロが投げやりに心にも無いことを言うのに肩を竦め、マーモンは他の方法を提案する。

「ヴァリアーなんだから、走ってけばすぐ着くんじゃないの?」
「……まあ、目立つがな」
「それくらい僕が消すよ?」
「報酬は?」
「そうだな、手付けで15万」
「却下だぁ」
「チッ」

そうなると方法はあと1つか。
スクアーロはため息を吐いて電話を掛けた。

「タクシーでも呼ぶの?」
「いや、知り合いに頼んで大型のリムジン持ってきてもらう」
「それならボスも噴火はしないだろうね」

日本出立前の惨事を思い出して、マーモンは軽く身震いをする。
あれは恐ろしかった。
魔神と言うのは、きっと彼のような者の事を言うのだろう。
その電話から数分、適当に駄弁りながら時間を潰していると、リムジンはすぐに来た。
運転はスクアーロがするらしい。
日本でもイタリアでも、怪我があると言うのにご苦労な事である。

「王子考えてみりゃ遊園地行くのはじめて。なーマーモン、遊園地ってどんなとこ?」
「僕だって今まで行ったことないよ。目立つからね」
「あらん?みんな行ったことないの?」
「ないな」
「……」
「みんな無いみたいねぇ」
「オレはあるぞぉ。お偉いさんの接待だったがな」
「遊園地の思い出がそれだけなんて、御愁傷様ね、スクちゃん」

接待で遊園地とはどういうお偉いさんだったのだろう、という疑問はさておいて、ベルは遊園地についてルッスーリアから聞き出すべく質問攻めをする。

「遊園地、って何があんの?」
「んー、そうねぇ。ジェットコースターとかメリーゴーランドとか……コーヒーカップとか?」
「観覧車とか、ミラーハウスとか、パレードがあったり、土産物屋とか、レストランがあったりするな」
「コーヒーカップって……なんだよ?」
「大きなカップに乗ってクルクル回るのよ!早く回せばスリリングでなかなか面白いわよ~!!」

と、まあこんな調子で車内はそこそこ盛り上がりながら、……と言ってもXANXUSやレヴィはほぼ無言だったがそれでも盛り上がりながら、気付けば車は遊園地の駐車場に着いていた。

「着いたぞぉ」
「しし、遊園地!最初はジェットコースター行こーぜ!!」
「あんまりはしゃがないでねベル」
「ボスもレヴィも置いてっちゃうわよぉ?」
「貴様らに置いていかれようとオレには関係ない!ボス、オレが側にいます!!」
「散れ、ドカス」
「ぐはぁ!?」

レヴィを満足するまで殴るXANXUS。
それを見て全員が引き気味である。
そして充分満足いったのか、地面にポイっとレヴィを捨てて、XANXUSは静かにスクアーロに近寄った。

「おい、カスザメ、遊園地は良い。ただし貸しきりにしろ」
「今さら無茶言うなドアホが」
「こんな人混みの中でオレが耐えられると思ってんのか」
「耐えろ!そもそもそんな事を胸張って言うなぁ!!」

流石はXANXUS、とんでもない横暴ぶりだ。
とりあえず、スクアーロはXANXUSに伊達眼鏡を掛ける。
間近で見て再認したが、XANXUSの顔は狂暴すぎる。
そしてそのまま頭を掻き回して、いつもオールバックにしている彼の髪を全て下ろして前髪を作った。

「これであんまり目立たねぇだろ」
「目立たねぇこととオレの言ったこととが関係あるのか」
「面倒な奴が寄ってこねぇ」
「……ちっ」

どうやらこれで手を打つらしい。
思っていたより殊勝である。
前髪を下ろしたXANXUSは、いつもよりも少し雰囲気が柔らかく見える。
少しオタクっぽく見えるのはご愛嬌だ。
そしてスクアーロは、ベルにも続けてサングラスを手渡す。
少し派手な色合いのグラスだ。

「このサングラス掛けてりゃあ、顔の特定もされねぇだろぉ」
「お、サンキュ」
「ティアラも取っとけ」
「えー……まあ、ジェットコースターとか乗ると危なそーだし、仕方ねーか」

サングラスは諸事情で顔バレNGなベルには丁度良いし、ティアラは目立つし危ない上に、盗まれたりしたら危ない。
盗んだ奴の命的な意味で。
因みに眼鏡もサングラスも、普段スクアーロが変装用に持ち歩いている品である。
彼もまた、髪や顔が目立つ為に変装は必須であった。
今日は髪をハンチング帽の中に隠し、首に巻いたスカーフを口許まで引き上げて覆い隠している。

「ああ、それとレヴィ、ルッスーリア、二人は……目立つから少し後ろに離れて着いてきてくれるかぁ?」
「絶対に!嫌だ!!」
「私だって嫌よぉ!!二人ぼっちなんて酷いじゃない!!」
「……マーモン」
「ム……特別サービスだよ。今日だけ10万で誤魔化しといてあげる」
「痛い出費だぁ……」

普段のマーモンから考えれば格安であるが、それでも高いものは高い。
だが、これで全員そこそこ目立たない格好になれた……はずだ。
こうして6人は、意気揚々と遊園地に入っていったのである。



 * * *



「しし!まずはあのジェットコースターっての乗ろーぜ!」
「マーモンは乗れねーな……。どうする?オレと待ってるかぁ?」
「良いよ、一人で待ってるし」
「いや、そりゃ目立つだろ」
「それならオレが待っている……!!ボス、楽しんできてください!!」

レヴィの顔は青い。
間違いなく絶叫マシンが苦手なのだろう。
ヴァリアーの面々から見ると、赤子と強面ゴリゴリマッチョの何とも言えない危険な組み合わせだが、マーモンの幻術のお陰で、周囲の人々は大して疑問は抱いていないようだった。
そんなレヴィに言われたXANXUSは、面倒くせぇという言葉がありありと顔に書いてある。

「身長制限とかあんの?メンドクセー。しし、残念だったなマーモン」
「別にジェットコースターに乗りたかった訳じゃないからね。残念なんて思わないよ」
「つっまんねーの!」

ふんっと鼻を鳴らして、ベルはジェットコースターの待機列に移動する。
それぞれがマーモンに声を掛けてからそれに着いていき、最後XANXUSがスクアーロに引き摺られるようにして着いていった。

「もっと丁重に扱えスクアーロ!!」
「なんか今日はいつもよりパワフルだね?」
「そんなこと知るか!」
「そうかい」

彼らが帰ってくるまで、二人は無言だったと言う。



 * * *



「お、やっとオレ達の番だぜ!!」
「長かったわねぇ」
「平日の昼間だし、まだ短い方なんじゃねーのかぁ?」
「……かえ」
「帰るのは無しだ」
「……」

仏頂面のXANXUSは何やらどす黒いオーラを放っており、前後の客はアトラクションに乗るより前から放心状態になっている。
だがヴァリアー達はそんな細かいことは気にせず、やっと来たコースターに乗り込んだ。
体格の良いルッスーリアやXANXUSは少しキツそうである。

『――それでは皆様、行ってらっしゃいませ!!』

係員の言葉と共にコースターは動き出す。
因みに席順は、XANXUSとスクアーロが隣同士、その前にルッスーリアとベルが座っている。
彼らはコースターの一番前の席だった。
ベルは後ろからでも分かるくらいワクワクしているようだ。
スクアーロはゆっくりと動き出したコースターに身を預けながら、外から見たレールを思い出す。
かなり高い位置からの急角度の落下が何ヵ所かあり、更にその先には1回転する場所もあった。
ベルはあまり怖がらなそうだ。
むしろ物足りないとまで言いそうな気がする。
ルッスーリアは……どうだろう。
微妙に反応が想像しづらい。
ザンザスは……。
それこそ全く想像が出来ない。
怖がる、ことは無さそうだが……。
終始無表情なのだろうか。
それとも余裕で笑ってしまったりとかするのだろうか。
そうこう考えている内に、コースターはゆっくりと初めの落下地点へと近付いていく。

「しし!落ちるぜ!」
「お゙ー、そろそろだなぁ!」

前から流れてくるベルの声に、スクアーロはよく聞こえるように大声で返す。
そして、彼らが最初の山の頂点に達した時だった。
スクアーロは異様な気配を感じて、ハッと隣を振り向く。

「っ!!?」

XANXUSは何故か前方を凝視して、カッと目を溢れ落ちんばかりに見開いていた。
そしてその体からは怒ったときによく感じるような、凶悪なオーラが立ち上っている。
スクアーロがあんぐりと口を開けるのと、コースターが落ち始めるのは、同時だった。

「ヒャッフー!!」
「ギャァァアアアア!!」
「どうしたザンザァァァアアア!!?!?」
「……!!」

3人の悲鳴がジェットコースターの最後列まで響いていた……。
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