太陽は夜にも昇る

「……着替えた、けど」

あの子、どこに行ったの。
一人部屋に戻って着替えて、シスターの部屋に戻って来たとき、彼女はいなくなっていた。
まだ着替えてるのかと思ったけど、シスター曰く、もう着替え終わってどこかに行ってしまったらしい。
シスターはそこに案内してくれる、と言ってくれた。

「あの子の事ですから、きっと礼拝堂よ。案内します」

シスターのその申し出に、有り難く甘えさせてもらうことにした。
廊下には、いくつもの扉がある。
修道院、ってもっと小さいモノかと思っていたけど、意外と大きいんだ。
シスターに従って進んでいくと、私達は大きな礼拝堂に出た。
明るく室内に光を投げ掛けるステンドグラス、立ち並ぶ長椅子の群れ。
そして祭壇の前に、彼女はいた。
祈りを捧げるわけでも、懺悔をするわけでもなく、ただじっと立ち尽くして、キリストの像を眺めている。
肩甲骨辺りまで伸びた銀髪は、今は後頭部で纏められていたけれど、窓から注がれる陽射しを受けて、キラキラと美しく光輝いている。
黒い服に包まれたその体と、血のように赤いマフラーだけが、この礼拝堂から酷く浮いていた。

「綺麗……」

思わず口をついて出た、その言葉に、彼女が振り向いた。
でもその口が開くよりも前に、たくさんの足音が、彼女の背後から響いてきた。
歓声を上げて現れたのはたくさんの子供で、彼女はその子達に囲まれて、驚いたように目を見開いた。

「え、な、なに!?」
「この修道院は、児童養護施設も兼ねているのです……。主に、マフィアの被害にあった子供達の為の、児童養護施設です」
「マフィアの、被害……?」
「ええ、マフィアに捕まり、酷い目に遇わされた、子供達なんです」

驚きながらも、子供達に優しく笑いかける彼女に視線を向ける。
先程までの神秘的な雰囲気はなくなって、だいぶ砕けた様子の彼女に、子供達はよく懐いているようだった。
優しく子供達の頭を撫でて、撫でる度に、次から次へと子供達が飛び付いてきて、我も我もと催促する。

「……仲良しなんですね」
「みんな、あの子に助けられましたから」
「みんな?」
「貴女と同じですよ」

シスターはニコニコと笑って、私に言った。

「あの子は、人を殺すの。でも殺すと同時に、たくさん守ってきた。マフィアに暴行を受けている子供、人体実験を受けていた人、……体を良いように弄ばれた女の子。仕事でマフィアを殺したときに、そんな子達を拾ってきては、ここに預けていくんです。たまにあんな風に、子供達と遊んでくれたりもして……。本当に、優しい子よ」

人を、殺す人。
きっと、あの男達は殺されたんだろう。
何故、人を殺すのか。
それはわからないけど、あの子達と同じように、私も彼女に助けられたんだ。

「でも、何で男のふりなんか……?」
「そうね、それは……貴女には話しても良いかしらね……」

シスターは、彼女の昔話をしてくれた。
家族のこと、父のこと。
親に、自分を殺して、他人になることを望まれて生きてきた。
そんなのって、……辛い。

「あの子、……幸せなんでしょうか」
「……どうでしょうか。でも、子供達に囲まれて、笑えている。仕事でもね?大切な部下がたくさんいるんですって……。だから、きっと、あの子は不幸せではないと思うの」
「……そう、ですか」
「でもね、あの子、友達と言える友達もいなくて……、だから貴女が友達になってくれると、私とっても嬉しいわ」
「そうなんだ……ん?え?友達?」
「そう!きっと、とても仲良くなれると思うの!」
「な、なんで!?」

驚いて思わず叫んじゃった私に、何かあったと気付いたみたいで、彼女は子供達を腰にくっ付けながら近付いてきた。

「シスター、また何か変なこと言ったのか?そいつ、固まってるけど」
「お友達になったらどう?って、言っただけですよ?」
「……そうか」

彼女はため息を吐いただけだった。
何度もこんなことがあったのかもしれない。
私は、彼女の目をしっかりと見つめる。

「あの、私のこと、助けてくれて本当にありがとう」
「……仕事だからだ。礼を言われることじゃねぇ」
「仕事は、あいつらを消すことなんでしょ?私のことなんて、放っておいても、……殺してしまっても良かったんじゃないの?」
「……」
「あと、さっきはごめんなさい。隠してるとか、知られたくないとか、考えも付かなくて……」
「っ!?クレア!話したのか!?」
「あら?何の事でしょうか?」

白を切るシスターさんを、彼女は怒ったように睨み付ける。
クレアと言うのは、シスターの名前かな?
彼女が怖い顔のまま、私の方を振り返る。

「オレとお前が、親しくなる必要はねぇ。だから、今日ここで聞いたことは忘れろ。それから、オレの仕事の事も、話すな」

鋭い視線で私を射抜き、そう言った彼女に、私は素直に頷く……わけないだろバァカ!

「いやよ!」
「あ゙あ?」
「あんな重い話忘れられるわけないでしょ!?そもそも忘れろってなに!?あんたに指図される筋合いないし!だいたい親しくなる必要はないって何よ!?必要とかそんな話じゃないでしょ!!私は天の邪鬼なの!あんたの言うことなんか聞かないからね!あんたと友達?なってやろうじゃない!!舐めないでよね、私は強情なんだから!!」
「え……は?」
「あんたと私は友達!はいこれ決定!取り合えずあんた、名前教えなさいよ!」

ビシッと彼女を指差して、私はカッコよくそう言いきってやった。
彼女の足元で子供達も、何か騒いでいる。
イタリア語だからわからないけど、たぶん姉ちゃんカッコいい!とか言ってくれてるんだろう。
よろしいもっと言え!

「な、なまえ……?」
「私は荻野美奈!あなたは?」
「オレは……スペルビ・スクアーロ」
「そうか、スクアーロちゃんか……、って、はい?」
「ちゃんって呼ぶなよ」
「え、いや、それは嫌だけど」
「嫌なのかよ!?」
「スペルビ・スクアーロ?本名?」
「はあ?当たり前だろ?」

バカなの?死ぬの?って顔で見てくるスクアーロちゃんに、私は愕然とした。
今まで生きてきて、その名前を私はよく聞いたことがある。
それは確か、ネットで、友人の口から、漫画で、アニメで……。
イタリア、マフィア、スクアーロ。
その3つのワードから連想される作品は1つだけ。
でもたった1つの事実が、私を混乱に陥れていた。

「女の子、なのよね?」
「……全部話聞いて、その上触ったくせに今さら疑うのか?」
「いや、確認確認」

パラレルトリップ?
女体化?
中学時代ハマってた夢小説で、ありそうな無さそうな、……展開。
えーと、取り合えず……女体化は良くやったと思う。
スクアーロちゃんペロペロ。
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