太陽は夜にも昇る

目が覚めたとき、私は隣に人のぬくもりを感じて、不思議に思った。
今まで、起きるときはいつも一人だった。
誰かと一緒に起きたのって、たぶん修学旅行とか、そんなとき以来。
不思議に思って隣を見ると、そこにはどこかで見たような、銀髪の青年……いや、少年が寝ていた。
……なにぃっ!?

「わ、私はついにイケメンと寝てしまったのか!?」
「ん゙……るさい……」
「……!」

だ、黙ります。
というか寝起き突然のことには驚いたけど、何があったのか、ちゃんと思い出せた。
この少年に抱っこされて、運ばれている途中に、確か私、気絶してしまったんだった。
でもそれがなぜ、この状況に繋がるのかはわからない。
ふと、自分の手が何かを握っていることに気が付いた。
私が握っていたのは、彼のシャツ。
反対の手は、自分を包んでいる大きな黒い布……いや、これは、コート?
彼のコートだろうか。

「……もしかして、私が離さなかったから、こんな状況に?」

まだ眠り続けている彼の、細い首筋を眺めながら、ちょっとだけこの状況に納得した。
あと、もう一つ、気が付く。

「この子、……男?」

彼の顔立ちは中性的だ。
今は閉じられているけど、彼の瞳は切れ長で鋭かったし、言葉遣いも男性的。
だから今までは男だと思ってたんだけど……、隣で寝ている姿を見ると、少し違和感を感じる。
全体的に、体がほっそりしている。
首も肩も、腰も細い。
そこで私は、簡単な確認方法を取ることにした……。
つまり、胸を触ったのだ。

「……」

何だろう。
何か、固い。
彼に、……いや彼女に?
とにかく気付かれないように、Yシャツのボタンを外していく。
でもたった2つ外したところで、手首を誰かに掴まれた。
もちろん、掴んだのは目の前の人である。

「……何する気だ?」
「え!?いや、あの、確認を……」
「なんの」
「そ、それは~……」

男か女か確かめようとしてました~、なんて、言えるわけない!
笑って誤魔化そうとする私に、彼女はため息をついて起き上がった。
シャツのボタンも、すぐに閉めてしまう。

「目が覚めたなら、オレは行く」
「へ……、行くって、どこに?」
「……仕事」
「わ、私はどうすれば……!」
「この修道院に世話になれ」
「しゅ、修道院!?」

私達のいる部屋は、こじんまりとしていて、かなりの年代物らしいが、それでも綺麗に整えられていて、まるでどこかのホテルの一室のようだった。
……私が、捕らえられていた部屋とは違う、暖かい、部屋だった。
出ていこうとする彼女の、服の裾をガシッと掴む。
反射的にそうしてしまったため、怪訝そうに振り向く彼女に、咄嗟には何も答えられなかった。

「あ……」
「……なんだ?」
「あの……、ひ、一人は、嫌です。お、置いていかないで……!」
「……」

なんとか絞り出した答えに返ってきたのは、長い沈黙。
彼女の顔は無表情で、怖くなった私は、その視線から逃れるように、下を向いた。

「……ご、ごめんなさ」
「おい、行くぞ」
「え、行くって、どこに?」
「シスターのところに」

謝ろうとしたけど、その言葉は遮られた。
そしてさっきと似たやり取りをして、さっきとは違う答えを提示される。
と言うか、今度はたぶん、私も一緒に行くみたいだった。
手を引かれて、一緒に部屋を出て、階段を降りて、さっきの部屋よりも一回り大きな部屋に入る。

「シスター、入るぞ」

彼女が短く声を掛けて、扉を開ける。
中にいたのは、壮齢の女性で、よく漫画やアニメで見るようなシスターの格好をしていた。
シスター……ってことは、ここは本当に修道院なんだ。

「ああ、お待ちしておりましたよ」
「頼んでたもの、彼女に渡して」
「はいはい」

と、二人の会話が突然イタリア語になる。
何言ってるのかさっぱりわからない。
でもシスターさんが、近くの紙袋から何かを出して、私に手渡してくれたから、たぶんそれを渡すように指示したんだと思う。

「……服?」

渡されたのは、質素な服一組。
下着や靴下までついている。
そういえば、コートの下の体は裸だった。
この格好じゃまるで変態だ。
服がもらえるのは凄く助かる。
でも、この服、新品じゃない?

「あの、これ……?」
「お前のだ。着て良い」
「で、でも、これ新品ですよね!?」
「それがどうした?」
「え、いや……買ってもらっちゃったのかな、って……。私、お金なんか持ってないし、返せないです」
「金のことも、返すことも心配しないで良いから、さっさと着ろ。オレは出ていってやるから」

踵を返して出ていこうとする彼女を、私はまた引き止めた。
いや、だってあまりにも一方的だし、それに何で彼女が出ていこうとするのかわからなかったし。
だから取り合えず、疑問な事を聞いてみる。

「本当にこの服、もらっちゃって良いの?何か、……代わりに体を差し出せとかない?大丈夫?」
「心配ない」
「あと、何であなたが出ていくの?」
「何でって……異性に着替え見られたくないだろぉ」
「え?異性?」

うん?何を言っているんだろう?
言葉は通じているんだけど、意味がよくわからない。
私は自分の横に一旦服を置いて、彼女のYシャツをバッと捲り上げた。

「なっ!!何する!」
「黙ってなさい!」
「っ!?」

私が怒鳴ると、驚いたのか、彼女は固まる。
シスターさんは、穏やかに笑いながら見ているだけで、止める気はないみたいだ。
Yシャツの下には、真っ黒なタートルネックの長袖シャツ。
それを捲ると、その下にはノースリーブのハイネックシャツ。
それを捲った下に、やっと肌色が見える。
過剰包装か、おい。
どれだけ着込んでるのよ。
最後の1枚をバサバサと捲り上げる私に、ようやく正気に戻ったのか、彼女は驚いて止めようとする。
でも、何だろう。
火事場の馬鹿力じゃないけど、咄嗟にその手を避けた私は、彼女の胸に巻かれた、サラシの上から触った。
布で絞めて巻かれているせいで固いけど、その上ちょっと小さめだけど、確かに女の子の胸がある。

「やっぱり女の子じゃない」
「っ……!」
「なんで嘘つくの?」
「……あ、あんたには、関係ない!」
「助けてもらったんだから関係ある!色々教えてよ!あの男がどうなったのか、なんであなたがあそこにいたのか、あそこで何してたのか、なんで女の子が男のふりしようとしてるのか!全部を!」
「……っ!」

勢いよくそう尋ねる雰囲気は思いっきりどシリアス。
でも私の手は未だ彼女の胸を触っているから、何となくシリアスになりきれてない。
彼女も困ったようにこちらを見たり、シスターさんを見たりしている。
そんな私達二人にシスターさんは言った。

「まずは、二人とも着替えておいでなさいな?」
「……」
「……」

ごもっともな言葉であった。
ちなみにシスターさんは、少し訛った日本語を使っていた。
6/11ページ
スキ