群青色のない世界
「……」
「……」
車内を沈黙が包んでいた。
憔悴した様子のディーノに、ロマーリオは哀しげに顔を歪めた。
スクアーロが死んだその日から、まるで魂が抜けてしまったように、毎日こうしてぼうっとしている。
ロマーリオは、心の中でスクアーロを恨んでさえいた。
何故、何故死んだりなんてしたのだろう。
予想できなかったんだろうか、ディーノがこうなることを。
出来て、いたのかもしれない。
それでも敢えて、まるでディーノが泣くことを前提にして、手紙を書いた。
いやむしろ、泣いてくれ、と言わんばかりに書かれていたと思う。
だがディーノは泣けないままだ。
屋敷についてからも、ディーノは口を利かないままだった。
「ボス、いつまでそうしてるつもりだ?」
「……そうして……って、オレがなんかしてるのか?」
「何にもしてねぇ、あんたは今何にもしてねぇよ。あんたは、キャバッローネのボスだろ?裏社会の一角を預かる立場だ。変えられない現実にいつまでも捕らわれて、立ち上がることも出来ずにただそうして、何もせずにいるだけ。いつまでそうしてるんだ……?」
「……」
椅子の上に力なく座っていたディーノの目が、すぅっと細められる。
「……悪い」
「オレ達が欲しいのはそんな言葉じゃねぇ!!ボス……アイツはもう死んだ!いくら否定したってその事実は変わったりしねぇ!!」
「そんなこと、そんなことオレだってわかってる……!でも、でもオレはっ!!アイツのいない世界で……どうやって生きてけば良いのか……わからねぇ……!」
ディーノは頭を抱えてそう叫ぶ。
その様子はまるで迷子の子供のようだった。
「ボス……いや、ディーノ坊っちゃん。今のあんたは跳ね馬じゃねぇ。ただの泣き虫の、へなちょこディーノだ」
「なん……だと……」
「あんたの体は、あんた一人のもんじゃねーんだ。いい加減、立って歩け!どうやって生きてけば良いのかだと?そんなのは誰も知らない!!知らなくても生きてかねーとならねーんだよ!!」
ロマーリオがディーノに掴み掛かる。
胸ぐらを掴まれ、苦しそうに顔を歪めたディーノが口を開いた。
その瞬間の事であった。
―― ティリリリリリリ……
「え……、でん、わ?」
「いや、こりゃアラーム、か?」
「オレの携帯……からか」
二人の視線が、棚の上に置きっぱなしのディーノ携帯に集中する。
ロマーリオがディーノに視線を送る。
ディーノは首を振った。
ディーノ自身に、アラームを掛けた覚えはなかった。
一体、誰が……?
恐る恐る、手にとって見てみる。
そのアラームは、どうやらスケジュールを知らせるモノのようだった。
スケジュールには、メモと写真、と書いてある。
訳がわからないまま、メモを開いた。
そこに書いてある文字に一度疑問符を浮かべ、そしてハッとして直ぐに画像フォルダを開く。
そこにあった、一番新しい画像を見て、ディーノは思わず手で口を覆って座り込んだ。
「っ……ああ!」
「ど、どうしたボス!?何があったんだ!?」
「アイツ……ホントっ、馬鹿だ……!こ、こんなモノ……残して……!」
「ボス?」
そこにあったのは、一枚の写真だった。
眠るディーノの横で、満面の笑みを浮かべているのは、髪の短いスクアーロ。
メモには一言、「短いのもなかなか似合うだろ?」と書いてある。
アラームに、その写真、メモ。
最後まで酷いんだから、と、入江は言っていたっけ。
ディーノも今、同じ様な気持ちだった。
最後まで、全部アイツの掌の上だったんだ。
こんなジャストなタイミングでアラームが鳴って、ずっと見たかったアイツの顔を、こんな形で見ることになるなんて……。
「ロマ……アイツは、笑って死ねたかな」
「……さあな。だが、アイツの書いた、『幸せだった』って言葉は、本当だろうぜ」
「ああ……。アイツが、幸せで、良かった……。顔見て分かるくらい幸せって……、どんだけだよっ、ほんと……」
苦笑を浮かべて、脱力した笑い声が彼の口から漏れる。
それと同時に、小さな嗚咽が聞こえてきた。
その震える肩を、優しく叩き、ロマーリオはそっと部屋から出ていった。
「全く……最後まで食えねぇ奴だったな」
はあ、とため息を吐いて、ロマーリオは廊下を歩く。
写真に移った女性の、輝くような笑顔を思い出し、ロマーリオはつい、愚痴を溢した。
「ったく、こっちの気も知らねえで、楽しそうに笑いやがってよ……」
チェッ、という小さな舌打ちの音は、廊下に木霊しながら消えて、後にはロマーリオの軽い足音だけが残っていた。
「……」
車内を沈黙が包んでいた。
憔悴した様子のディーノに、ロマーリオは哀しげに顔を歪めた。
スクアーロが死んだその日から、まるで魂が抜けてしまったように、毎日こうしてぼうっとしている。
ロマーリオは、心の中でスクアーロを恨んでさえいた。
何故、何故死んだりなんてしたのだろう。
予想できなかったんだろうか、ディーノがこうなることを。
出来て、いたのかもしれない。
それでも敢えて、まるでディーノが泣くことを前提にして、手紙を書いた。
いやむしろ、泣いてくれ、と言わんばかりに書かれていたと思う。
だがディーノは泣けないままだ。
屋敷についてからも、ディーノは口を利かないままだった。
「ボス、いつまでそうしてるつもりだ?」
「……そうして……って、オレがなんかしてるのか?」
「何にもしてねぇ、あんたは今何にもしてねぇよ。あんたは、キャバッローネのボスだろ?裏社会の一角を預かる立場だ。変えられない現実にいつまでも捕らわれて、立ち上がることも出来ずにただそうして、何もせずにいるだけ。いつまでそうしてるんだ……?」
「……」
椅子の上に力なく座っていたディーノの目が、すぅっと細められる。
「……悪い」
「オレ達が欲しいのはそんな言葉じゃねぇ!!ボス……アイツはもう死んだ!いくら否定したってその事実は変わったりしねぇ!!」
「そんなこと、そんなことオレだってわかってる……!でも、でもオレはっ!!アイツのいない世界で……どうやって生きてけば良いのか……わからねぇ……!」
ディーノは頭を抱えてそう叫ぶ。
その様子はまるで迷子の子供のようだった。
「ボス……いや、ディーノ坊っちゃん。今のあんたは跳ね馬じゃねぇ。ただの泣き虫の、へなちょこディーノだ」
「なん……だと……」
「あんたの体は、あんた一人のもんじゃねーんだ。いい加減、立って歩け!どうやって生きてけば良いのかだと?そんなのは誰も知らない!!知らなくても生きてかねーとならねーんだよ!!」
ロマーリオがディーノに掴み掛かる。
胸ぐらを掴まれ、苦しそうに顔を歪めたディーノが口を開いた。
その瞬間の事であった。
―― ティリリリリリリ……
「え……、でん、わ?」
「いや、こりゃアラーム、か?」
「オレの携帯……からか」
二人の視線が、棚の上に置きっぱなしのディーノ携帯に集中する。
ロマーリオがディーノに視線を送る。
ディーノは首を振った。
ディーノ自身に、アラームを掛けた覚えはなかった。
一体、誰が……?
恐る恐る、手にとって見てみる。
そのアラームは、どうやらスケジュールを知らせるモノのようだった。
スケジュールには、メモと写真、と書いてある。
訳がわからないまま、メモを開いた。
そこに書いてある文字に一度疑問符を浮かべ、そしてハッとして直ぐに画像フォルダを開く。
そこにあった、一番新しい画像を見て、ディーノは思わず手で口を覆って座り込んだ。
「っ……ああ!」
「ど、どうしたボス!?何があったんだ!?」
「アイツ……ホントっ、馬鹿だ……!こ、こんなモノ……残して……!」
「ボス?」
そこにあったのは、一枚の写真だった。
眠るディーノの横で、満面の笑みを浮かべているのは、髪の短いスクアーロ。
メモには一言、「短いのもなかなか似合うだろ?」と書いてある。
アラームに、その写真、メモ。
最後まで酷いんだから、と、入江は言っていたっけ。
ディーノも今、同じ様な気持ちだった。
最後まで、全部アイツの掌の上だったんだ。
こんなジャストなタイミングでアラームが鳴って、ずっと見たかったアイツの顔を、こんな形で見ることになるなんて……。
「ロマ……アイツは、笑って死ねたかな」
「……さあな。だが、アイツの書いた、『幸せだった』って言葉は、本当だろうぜ」
「ああ……。アイツが、幸せで、良かった……。顔見て分かるくらい幸せって……、どんだけだよっ、ほんと……」
苦笑を浮かべて、脱力した笑い声が彼の口から漏れる。
それと同時に、小さな嗚咽が聞こえてきた。
その震える肩を、優しく叩き、ロマーリオはそっと部屋から出ていった。
「全く……最後まで食えねぇ奴だったな」
はあ、とため息を吐いて、ロマーリオは廊下を歩く。
写真に移った女性の、輝くような笑顔を思い出し、ロマーリオはつい、愚痴を溢した。
「ったく、こっちの気も知らねえで、楽しそうに笑いやがってよ……」
チェッ、という小さな舌打ちの音は、廊下に木霊しながら消えて、後にはロマーリオの軽い足音だけが残っていた。