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お礼とそして、

「――それで、つい……」
「逃げ出してきちゃったの?」
「今すぐ帰りなさいガットネロ!ここに逃げ込まれても困るんですよ!ここは駆け込み寺じゃないんです‼」

ところ変わって、黒曜ヘルシーランド。
骸やクローム、千種達、黒曜組に囲まれながら、スクアーロは申し訳なさそうに肩を縮こまらせた。
苛々とした視線を向ける骸とは正反対に、クロームは心配そうにスクアーロを見遣る。

「大丈夫……?」
「大丈夫、じゃ、ねぇかも……」
「僕達には関係のないことですよクローム。さっさと追い出してしまいなさい」
「……ダメ」
「なに?」
「意地悪したら、ダメ、です」
「意地悪ではありません!元居たところに返してきなさい!」
「んな捨て猫みたいな」

骸とクロームのやり取りが言い合いのようになってきて、益々スクアーロは申し訳なさそうに体を縮める。
しょんぼりと暗い雰囲気を宿す彼女に、クロームは励ますように声を掛ける。

「鮫の人、しばらくここにいて良いよ」
「……良いのか?」
「ダメです」
「良いよ」
「どっちなんだ……」

まるで反対の事を言う二人に、スクアーロはため息を吐いた。
ずっといても、迷惑なだけだろう。
そう思って、持っていたバッグの中を探る。
中から幾つか袋を出して、その中の1つをクロームに渡した。

「とりあえず、これ」
「……?なぁに?」
「麦チョコ、好きなんだろぉ」
「わ……たくさん」

可愛らしい袋に入っていたのは、様々な味の麦チョコだった。
クロームは低いテンションながらも、嬉しそうに目を輝かせて、袋の中身を見ている。

「あの、ありがと……」
「いや……、むしろオレの方が礼を言わなきゃならねぇ」
「え?」
「この間は、ありがとな。この程度じゃ大した礼にもならねぇだろうが、まあ、気持ちってことで」
「そんな……、でも、ありがとう」

礼に礼を返されて、スクアーロは思わず苦笑を浮かべる。
少し疲れたような、でも逆に、安心したような、そんな不思議な笑い方だった。

「あと、他にも色々と日保ちのするもん買ってきた。学生ばっかりで飯作んのも大変だろぉ。レトルトだが、食わねぇよりゃましだ」
「……ありがとうございます」

千種に残りの袋を渡す。
頭を下げた千種に、今まで遠巻きにしていた奴らが集まり、袋の中身を調べ始める。
真っ先に来たのは犬だった。
それに続いて、フランとM.Mが来る。

「んお!うまそーな菓子が入ってるびょん!」
「あ、ドライフルーツもありますー」
「何よ食べ物ばっかじゃない!」

次々と中身を取り出して確かめる二人の横で、M.Mだけは不満そうである。
そんな様子に気付いて、スクアーロは男子陣に気付かれないように彼女に近付いた。

「お前にはこれ。ちょっとした化粧品のセットなんだが、わりぃな、こんなもんばっかりで」
「……へぇー、まあまあ良いブランドじゃない」
「あいつらには内緒な。たぶんすごく、怒られそうだし」

悪戯っぽく笑ったスクアーロに渡されたそれに、M.Mも満足したらしい。
そして未だ袋を漁っていた二人が、突然困惑したような声をあげた。

「あれー?師匠ー、なんか入ってますー」
「袋ん中に紙っ切れが混ざってるびょん!」
「……チョコレート展、入場チケット?」
「な、何ですって!?」

千種が読み上げたのを聞いた途端、骸は人が変わったように、勢いよく立ち上がると、その紙切れを引ったくる。
しばらくそれを食い入るように眺め、そして顔を上げてスクアーロを見た。

「これは……!」
「なんか伝でもらったぁ」
「グッジョブですよガットネロ!売り切れで手に入らなかったのです!!このチケットの代わりに少しならここにいても構いません!!」
「……おう」

スクアーロとしては、ついで、という気持ちだったのだが、思った以上のファインプレイだったらしい。
帰るつもりで渡したのだが、そう言ってくれるのなら、もう少しだけ、お邪魔していようか。
少し困ったように頬を掻くスクアーロの元に、再びクロームが近寄ってきた。

「あの、……大丈夫?」
「何がだ?」
「あの人と、仲直り、出来る……?」
「あ、あ゙ー……、どうだろうなぁ」

仲直り、と言うよりも、スクアーロが素直に謝って、理由を話せるかどうかだろう。
また沈み込むスクアーロ。
クロームは不安げにその顔を見上げた。

「どうして、ケンカしたの?」
「……オレがただ、素直じゃなかっただけ。てめぇの我が儘で、アイツの事振り回しちまってるだけだぁ」
「我が儘……?」
「何よ何よ、私にも聞かせなさいよ!」
「はあ!?」

突然割り入ってきたのはM.Mだ。
マフィアの世界に身を置いていようとも、やはり女子なのか、そういう話には興味津々らしい。

「ここだけの話にしといてあげるわ!」
「……そりゃ、その……つまり、」
「ハッキリしないわねぇ。パッと言っちゃいなさいよ」
「つ、つまり!……もっと恋人らしいことがしたいって、話になって、だなぁ……」
「はあ?それって、ヤりたいって向こうに言われたってこと?」
「ま、あ……そんなとこ、か?」
「何をやりたいの?」
「あんたは黙ってなさいよ!……で、なんて言ったのよ」
「……バカって言って逃げてきた」
「はあ?バッカじゃないの!?」

M.Mに怒られて、スクアーロには何も言い返せない。
おっしゃる通り、返す言葉が御座いません、というところか。

「あんたね、そういうのって相手がちゃんと自分を女として見てくれてるって事なのよ!?そーゆー時こそ、いっそ自分からガッと行っちゃいなさいよ!!」
「でもよ……、オレまだ一応外部には男で通ってるわけだし」
「んなもん関係ないでしょ!!」
「……ガッカリさせたら嫌だし」
「それはその時に考えれば良いのよ!」
「…………何か、恐いし」
「このへたれ!」
「ゔっ……!」

スクアーロに1000のダメージ!
M.Mにパカパカと叩かれながら、スクアーロはこれまでで一番、身を小さくする。

「こ、こっちにも心の準備ってモノが……!」
「そんなん終わる前に、向こうに愛想尽かされるのが落ちよ!」
「そ、それは……困る……!」

スクアーロが情けない顔をしたその時、突然骸が立ち上がった。
クフ、と1つ笑い声を溢し、スクアーロに声を掛ける。

「どうやらお迎えが来たようですよ」
「ほら!ウジウジしてないでさっさと行って来なさいよ!」
「よくわからないけど、頑張って……!」
「なっ……!」

クロームとM.Mにグイグイと体を押されて、為す術もなく彼らのいる部屋から追い出される。
ばたん、とドアが閉まると、どうしようもないほどの静寂が、彼女を取り巻いた。
まるで空気が、彼女を急かしているようだ。
仕方なく、1歩、2歩と歩き始め、階段を1つ降り、踊り場に着いたところで、ドタドタと階段を上る騒がしい靴音が耳に届いた。

「……っ、スクアーロ!!」
「跳ね、馬……」

約一時間ぶりの、再開だった。
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