お礼とそして、
「スクアーロさんは、お世話になった人たちへお礼を言うために、並盛町に来てたんですよね?」
「あ゙あ」
ファミレスを出た後、京子にそう尋ねられ、スクアーロは素直に首を縦に振った。
お礼を言うだけでは納得がいかないのか、昨日の内に買った土産物を、誰かに会う度に渡している。
こんなもので借りを返せるなどとは思えないが、それでも、少しでも良いから気持ちを伝えたいのだと、彼女はそう言っていた。
「次は誰に会いに行くんだ?」
「あ゙ー……、シモンの奴らに会いに行く」
少し考えてから、そう答えたスクアーロ。
きっと頭の中に、並盛町の地図を展開させていたんだろう。
山本は店の手伝いがあるとかで帰るらしい。
でも手伝いをするには時間が中途半端だったし、もしかしたら気を使ってくれたのかもしれない。
「じゃあオレ達は、炎真達の泊まってるなみもり民宿に行こうぜ」
「ああ」
山本達と別れて歩き出したオレ達。
前を行くスクアーロの手を絡めとり、さっきみたいに恋人繋ぎになって隣を歩く。
スクアーロには嫌な顔をされた。
「……跳ね馬」
「んー?」
「手ぇ離せよ」
「やだ」
「……チッ」
さっきと同じ様に、左手の義手はポケットに突っ込んで、諦めたようにため息を吐いたスクアーロは、オレの隣を歩いている。
自分の横に集中してしまっているせいだろうか、オレは何度も転びかけたが、その度にスクアーロはオレの手を力強く握って支えてくれる。
呆れたような顔と、それでも繋がれたままの手を見て、オレは嬉しくなってしまう。
ずっとこうして歩いていたかったのに、あっという間にオレ達はなみもり民宿に到着してしまう。
風情のある外観の民宿の中に入ると、シモンファミリーが出迎えてくれた。
「あなたは……、もう体は大丈夫なんですか?」
「あ゙あ、もうだいぶ回復したぁ。今日は……、この間の礼と、ちょっとした差し入れを持ってきてな」
スクアーロが持っていたバックの中から出したのは、洋菓子の詰め合わせ。
大山らうじや水野薫はたくさん食べるかもしれないから、一箱ではなく、なんと三箱。
これだけあれば民宿の女将さんにもお裾分けできそうだ。
そして、驚きながらも受け取ったアーデルハイトと、その後ろのファミリー達に、スクアーロは深く頭を下げた。
「ありがとう。お前らのお陰で、助かった」
スクアーロの感謝の言葉に、彼らは暫く、目を見開いて驚いていたが、すぐに我を取り戻していた。
「そんな、我々はただ……」
「……僕達、もっとあなたと話してみたかったんだ。それにあなたは、僕達が継承式を襲ったときに、一人で真剣に向き合ってくれようとしたから……」
「……そう、だったのか」
「だから、あなたを助けたのは、僕達の都合なんです。お礼なんて、良いんですよ」
炎真の言葉を受けて顔をあげたスクアーロは、嬉しそうに口元を綻ばせて、もう一度だけ、ありがとうと言っていた。
そんな顔、オレにはしないくせに、と呆れたような、……寂しいような気持ちになる。
その後、二言三言会話を交わし、シモンの連中とは別れた。
オレはまた、スクアーロの手を握って、隣を歩く。
「次は恭弥のところ、行くのか?」
「そうだぁ」
彼女の返事は短くて、何だかつれない。
腕を絡ませると、やっぱり嫌そうに、身動ぎをしていた。
数日前、彼女に好きと言われたが、こんな態度ばかり見てると、不安になってくる。
オレの事、本当に好いてくれているのか。
オレの気持ちは、一方的ではないか。
「スクアーロ、オレと手を繋ぐの、嫌か?」
気付けば、オレはそう聞いていた。
スクアーロが驚いたように俺を見る。
「それはっ……!……っ、人前で誰かと馴れ馴れしくするのが、嫌なだけだ。お前が嫌とか、手を繋ぐのが、嫌とか、そういう訳じゃ……」
あたふたと、そんな言葉が似合う様子で言い訳をするスクアーロ。
次第に声が萎んでいって、次の瞬間、オレはスクアーロに狭い路地に引っ張り込まれていた。
オレと繋いだ手をぎゅっと握ったまま、スクアーロは俯いて何も言わない。
見かねて、オレから話し掛けた。
「……人に見られたり、聞かれたりするのが、嫌なのか?」
「そ、……そう、だ」
「そっか。でも、そしたらオレは、ずっとお前に触れられない……」
「え……」
「お前はいっつも、仕事で忙しくて、オレだって暇な訳じゃねぇし、二人っきりになれる時間なんてほとんどない。見られるのが嫌とか、そんなこと言ってたら、オレはお前に触れることも出来なくなっちまう」
驚いたような顔してオレを見上げるスクアーロの、頬に手を添える。
滑らかな頬の感触、手に触れる体温が少しずつ上がっていくのを感じながら、オレはスクアーロの体を壁に押し付けた。
「普段そんなこと思ってるオレが、こんな所に連れ込まれて、何にもしないと思ったか?」
「は……」
「オレの事、もっと意識してくれよ」
「なっ……ちょっ!?」
胸が、ドキドキする。
切れ長の目が見開かれて、その銀灰の瞳にオレの顔が映るのが見える。
薄桃色の唇を親指でなぞると、ビクッと震えて、その口が真一文字に結ばれる。
「スクア……」
「っ!避けろぉ!!」
オレが更に近寄った、その時。
突然スクアーロが叫んで、オレの体を突き飛ばし、すぐに自分もその場から飛び退く。
続けざまに、誰かがオレ達の居た場所に現れ、コンクリートの壁に向かって腕を振った。
ガキンという音、パラパラと散るコンクリートの欠片、そして小さな舌打ちの音。
「……ちょっと、何避けてるの」
「なっ!恭弥!?」
並盛の孤高の浮き雲、雲雀恭弥がそこには立って居た。
「あ゙あ」
ファミレスを出た後、京子にそう尋ねられ、スクアーロは素直に首を縦に振った。
お礼を言うだけでは納得がいかないのか、昨日の内に買った土産物を、誰かに会う度に渡している。
こんなもので借りを返せるなどとは思えないが、それでも、少しでも良いから気持ちを伝えたいのだと、彼女はそう言っていた。
「次は誰に会いに行くんだ?」
「あ゙ー……、シモンの奴らに会いに行く」
少し考えてから、そう答えたスクアーロ。
きっと頭の中に、並盛町の地図を展開させていたんだろう。
山本は店の手伝いがあるとかで帰るらしい。
でも手伝いをするには時間が中途半端だったし、もしかしたら気を使ってくれたのかもしれない。
「じゃあオレ達は、炎真達の泊まってるなみもり民宿に行こうぜ」
「ああ」
山本達と別れて歩き出したオレ達。
前を行くスクアーロの手を絡めとり、さっきみたいに恋人繋ぎになって隣を歩く。
スクアーロには嫌な顔をされた。
「……跳ね馬」
「んー?」
「手ぇ離せよ」
「やだ」
「……チッ」
さっきと同じ様に、左手の義手はポケットに突っ込んで、諦めたようにため息を吐いたスクアーロは、オレの隣を歩いている。
自分の横に集中してしまっているせいだろうか、オレは何度も転びかけたが、その度にスクアーロはオレの手を力強く握って支えてくれる。
呆れたような顔と、それでも繋がれたままの手を見て、オレは嬉しくなってしまう。
ずっとこうして歩いていたかったのに、あっという間にオレ達はなみもり民宿に到着してしまう。
風情のある外観の民宿の中に入ると、シモンファミリーが出迎えてくれた。
「あなたは……、もう体は大丈夫なんですか?」
「あ゙あ、もうだいぶ回復したぁ。今日は……、この間の礼と、ちょっとした差し入れを持ってきてな」
スクアーロが持っていたバックの中から出したのは、洋菓子の詰め合わせ。
大山らうじや水野薫はたくさん食べるかもしれないから、一箱ではなく、なんと三箱。
これだけあれば民宿の女将さんにもお裾分けできそうだ。
そして、驚きながらも受け取ったアーデルハイトと、その後ろのファミリー達に、スクアーロは深く頭を下げた。
「ありがとう。お前らのお陰で、助かった」
スクアーロの感謝の言葉に、彼らは暫く、目を見開いて驚いていたが、すぐに我を取り戻していた。
「そんな、我々はただ……」
「……僕達、もっとあなたと話してみたかったんだ。それにあなたは、僕達が継承式を襲ったときに、一人で真剣に向き合ってくれようとしたから……」
「……そう、だったのか」
「だから、あなたを助けたのは、僕達の都合なんです。お礼なんて、良いんですよ」
炎真の言葉を受けて顔をあげたスクアーロは、嬉しそうに口元を綻ばせて、もう一度だけ、ありがとうと言っていた。
そんな顔、オレにはしないくせに、と呆れたような、……寂しいような気持ちになる。
その後、二言三言会話を交わし、シモンの連中とは別れた。
オレはまた、スクアーロの手を握って、隣を歩く。
「次は恭弥のところ、行くのか?」
「そうだぁ」
彼女の返事は短くて、何だかつれない。
腕を絡ませると、やっぱり嫌そうに、身動ぎをしていた。
数日前、彼女に好きと言われたが、こんな態度ばかり見てると、不安になってくる。
オレの事、本当に好いてくれているのか。
オレの気持ちは、一方的ではないか。
「スクアーロ、オレと手を繋ぐの、嫌か?」
気付けば、オレはそう聞いていた。
スクアーロが驚いたように俺を見る。
「それはっ……!……っ、人前で誰かと馴れ馴れしくするのが、嫌なだけだ。お前が嫌とか、手を繋ぐのが、嫌とか、そういう訳じゃ……」
あたふたと、そんな言葉が似合う様子で言い訳をするスクアーロ。
次第に声が萎んでいって、次の瞬間、オレはスクアーロに狭い路地に引っ張り込まれていた。
オレと繋いだ手をぎゅっと握ったまま、スクアーロは俯いて何も言わない。
見かねて、オレから話し掛けた。
「……人に見られたり、聞かれたりするのが、嫌なのか?」
「そ、……そう、だ」
「そっか。でも、そしたらオレは、ずっとお前に触れられない……」
「え……」
「お前はいっつも、仕事で忙しくて、オレだって暇な訳じゃねぇし、二人っきりになれる時間なんてほとんどない。見られるのが嫌とか、そんなこと言ってたら、オレはお前に触れることも出来なくなっちまう」
驚いたような顔してオレを見上げるスクアーロの、頬に手を添える。
滑らかな頬の感触、手に触れる体温が少しずつ上がっていくのを感じながら、オレはスクアーロの体を壁に押し付けた。
「普段そんなこと思ってるオレが、こんな所に連れ込まれて、何にもしないと思ったか?」
「は……」
「オレの事、もっと意識してくれよ」
「なっ……ちょっ!?」
胸が、ドキドキする。
切れ長の目が見開かれて、その銀灰の瞳にオレの顔が映るのが見える。
薄桃色の唇を親指でなぞると、ビクッと震えて、その口が真一文字に結ばれる。
「スクア……」
「っ!避けろぉ!!」
オレが更に近寄った、その時。
突然スクアーロが叫んで、オレの体を突き飛ばし、すぐに自分もその場から飛び退く。
続けざまに、誰かがオレ達の居た場所に現れ、コンクリートの壁に向かって腕を振った。
ガキンという音、パラパラと散るコンクリートの欠片、そして小さな舌打ちの音。
「……ちょっと、何避けてるの」
「なっ!恭弥!?」
並盛の孤高の浮き雲、雲雀恭弥がそこには立って居た。