お礼とそして、

「スクアーロちゃん、このコロッケどうかしら?美味しい?」
「お゙う、美味いぜ」
「お、この唐揚げも美味いぜ!!」
「わっ!ちょ、ディーノさん凄いこぼしてるじゃないですか!!」
「拙者こんなに美味い煮物は初めてです!」
「このちらし寿司も美味いな」
「私はこのおひたしっていうのが気に入りました!美味しいです!!」
「流石は奥方様ですね」
「あんまり誉められると照れちゃうわぁ!」

夜、奈々の作った料理を大勢で囲み、賑やかな夕餉が始まっていた。
だが一人、納得のいかない顔で不機嫌な空気を辺り構わず撒き散らしている男がいた。

「……なーんでヴァリアーが家で飯食ってんだよ……」
「どうかしましたか親方様?」
「べっつにー?何か奈々と親しそうとか思ってねーしー?何ちゃん付けで呼ばれてんだ、とか思ってねーしー?」

ふんっと鼻を鳴らして白米を掻き込む家光を、スクアーロは見向きもしないで焼き魚の身を丁寧に解していく。
その隣にいるディーノは魚の身を机の上に撒き散らして食べている。
見事な対比だ。
家光は、スクアーロのそんな器用な様子も気に入らないのか、ムスッと頬を膨らませると、気を紛らわせるように奈々にお代わりを要求した。

「な~な~ぁ!お代わり~!」
「はいはーい!ちょっと待っててくださいね!!」
「拙者もお代わりを頂けますか!?」
「オレも頂こう」
「オレも!ツナはもう食わねーのか?」
「え、いやオレはもう十分です!」
「そんなんじゃ背伸びねぇぞぉ」
「余計なお世話だよっ!」

次々と叫ばれるおかわりの言葉を受けて、奈々はあらあらと困ったように笑う。
おかわりは嬉しいことだが、こんなに一気に言われたら困ってしまう。
綱吉をからかいながらクツクツと笑っていたスクアーロは、その様子を見て自分も手伝おうと立ち上がった。

「半分寄越せ、オレも手伝う」
「あらあら、ありがとう!!お客様なのに、ごめんなさいね?」

照れたように頬を掻き、ディーノの持った器を引ったくるように受け取ったスクアーロは、いそいそと奈々の隣に立って手伝う。
その様子を見た家光は更に不機嫌になって、ついにガタッと立ち上がった。

「奈々!奈々ー!オレが手伝うぞー!」
「あら、座っててくれて良いのよ?」
「そんなに人数要らねーし」
「ならお前がオレと変われ!!」
「あ゙あ?なんでだよ?」

突っ掛かってくる家光に、スクアーロもカチンと来たのか、鋭い視線で睨み付ける。
しかし一触即発の雰囲気を出す二人を、奈々はおっとりと宥めた。

「もう!喧嘩はダメでしょ?ほら、ご飯よそったわよ!!」
「でも奈々ぁ~!」
「スクアーロちゃんはお手伝いしてくれてるのに、そんなこと言っちゃダメじゃない!あ、バジル君もご飯どうぞ!」
「かたじけない」
「奈々ー!」

奈々は夫をたしなめながらも、バジルと二人それぞれに茶碗を渡す。
可愛らしく怒る奈々に家光が泣きそうな顔をする横で、スクアーロはさっさとおかわりを渡して自分の席に戻る。
奈々の見えない所でべーっと舌を出す彼女は、なかなかにいい根性をしている。

「奈々ー!今の見たか!?あいつ俺に向かって舌出してたぞ!!スッゲー不細工な顔して!!」
「まあ!いくらあなたでも女の子の事を不細工だなんて許せないわ!ちゃんと謝りなさい!!」
「だって本当に不細工な……って、は?女の子って、誰がだ……!?」
「スクアーロちゃんに決まってるでしょ!!ゴメンねスクアーロちゃん……。今日は家光さん、何だか様子がおかしいみたいで……」
「いや、オレのせいだろうし、構わねぇ」

カチンと音を立てて家光が固まる。
いや、家光だけではない。
オレガノとターメリックも箸を止めて、ギョッと目を見開いてスクアーロを凝視していた。
サラリと爆弾を落とした奈々や当のスクアーロは、特に気にする様子もなくいつも通りに話していたが。

「な、奈々?こいつ男だぞ?」
「家光、お前の妻の言葉は正しいぞ」
「スクアーロ殿は女性ですよ!」
「あなたもしかして、知らなかったの?」
「……な、何ーーー!!?」

家光の絶叫や、オレガノ、ターメリックの絶望の呻き声をBGMに、スクアーロ達は食事を進める。
長い絶叫の後に絶句し、茫然自失となっていた家光は、後にこう語った。
『衝撃的なことを聞いた後、気付いたら朝陽が昇っていた。夢かと思った』と。
残念ながら家光の聞いた言葉は夢ではなく、正真正銘本当の事であったのだが、スクアーロはその事実で家光がそこまでのショックを受けていたとは露知らず、その日は奈々とオレガノ、ラルと一緒に同室に泊まり、朝には女性陣全員で朝食を作った。
ホテルがあるのに何故か沢田家に泊まっていったディーノが、彼女の作ったポテトサラダを絶賛したのはまた別の話である。
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