夜は短し、遊べよマフィア

「頭が……頭が痛い……」
「まさかビール3分の1杯飲んだだけで二日酔いにまでなるとはね……」
「だから、オレはいらねぇって言ったんだぁ……」

翌日の事である。
談話室で頭を抱えているスクアーロを、マーモンが励ましていた。
酒を飲んでから目が覚めるまでの記憶がないらしく、XANXUSの部屋から飛び出してきたスクアーロは、何よりも真っ先に前日に何があったのかをマーモンに問い質した。

「何か、スゴく脚を触られたような気がするんだが……」
「そこ、詳しく聞きたい?」
「……聞きたくねぇ」
「兎に角、ボスがアジトに帰って直ぐに門外顧問を追い返しちゃったから、今日中にでも行って謝ってきた方が良いね」
「あ゙~、めんどくせぇ!!」

深夜、スクアーロを抱き枕認定したXANXUSは、阻止すべく立ちはだかる隊員達を凪ぎ払い、そのついでとばかりに肩を怒らせながら迫ってきていた家光に容赦なく銃口を向け、憤怒の炎をぶっ放したのだった。
マーモン達の必死の懇願を受けて、家光はその場を退いてくれたが、服の至るところに焦げ痕をつけた彼の背中は、明らかに怒りを背負っていた。
その話を聞いた、スクアーロは項垂れて溜め息を吐く。

「ム、でも君以外だとこれ以上に面倒くさいことになるよ」
「わかってっけどよぉ……」
「まあ、君が疲れてるのは僕らも良くわかってるから、もう少しゆっくりしてから行っても良いんじゃない?」
「そうだな……そうするか」

朝、スクアーロが起きてからも、一騒動があった。
昨日の出来事について、部下達に問い詰められたのである。
まさかボスに掘られたんですか、などとふざけたことを聞いてくる部下をぶん殴ったり締め上げたりして揉みくちゃになっている内に、一人の部下がポツリと溢した。

「……隊長、何かホッソリしましたか?」

スクアーロはハッとして体を触る。
着ていたはずの防弾チョッキやら暗器やらが見当たらない。
実はXANXUSにより(抱き心地を良くするために)取り上げられてしまっていたのだが、そんなことは知らないスクアーロは、部下を加減なしにブッ飛ばして自分の部屋に逃げ帰ったのだった。
お陰で殴られた部下は全治1週間の怪我である。
その事にも、マーモンから聞いた出来事にも、滅茶苦茶落ち込みながら、今現在、こうして頭を抱えているのである。

「今度からはお酒飲ませないよ、絶対」
「そうしてくれると助かる……」
「ていうか、自分がお酒に弱いことは知ってたんだね」
「……昔な、先代のボスに飲まされて、同じように記憶ブッ飛んで禁酒令出された」
「え、先代ってまさか……剣帝かい!?」

マーモンが驚くのも無理はない。
先代ヴァリアーボス、初代剣帝テュールと言えば、スクアーロがヴァリアーに入る際に殺した、と聞いていたからである。
スクアーロは面倒くさそうに顔を歪めながらも、剣帝との事を話してくれた。

「アイツとは、決闘するまでに少しの間、色々教わってたんだよ」
「色々……って?」
「あ゙ー……、マフィアの事について、か?まあ、教わったっつーよりかは、やらされたって感じだな。毒への耐性つけさせられたり、動物の調教させられたり、殺し屋バトルロイヤルとか抜かして100人切りやらされたり……数え上げれば切りがねぇ」
「……剣帝なんて言うから、どんな奴かと思ってたけど、滅茶苦茶な奴だったんだね」
「斬り殺した時はちょっと清々したぜぇ。……なんてな」

乾いた声で力なく笑うスクアーロに、マーモンは同情して肩を叩く。
思い返せば本当に滅茶苦茶な野郎だった。
剣帝なんて大層な名前を掲げていたが、剣の腕以外は酷いものであった。
性格は悪いし、常識もない。
だが奴の前で酒を飲んだ後、何故か頭を抱えて絶対に酒を飲むなと厳命されたのである。
大まかな出来事は聞かされたのだが、剣帝が何故頭を抱えていたのかはわからないままであった。

「というか、結局部下達には気付かれちゃったのかい?その……君の秘密について」
「……どうなんだろうなぁ」

モヤシ体型を誤魔化すために隠してるとでも勘違いしてくれたら良いのだが、もし女だと気付かれてしまったらどうなるだろうか。

「隠し続けるのかい?」
「隠すも何も、オレは……。……いや、オレは何も話す気はねぇよ」

わかっている、いつまでも隠し通せるような嘘ではない。
だが、それでも、自分の事は男として見ていてほしい。
今と変わらず、男として、スペルビ・スクアーロとして、今まで作り上げてきた人物を見ていてほしい。

「……CEDEFに行く」
「え、もうかい?もっと休んでから行ったら……」
「嫌な事は早く終わらせるに限るだろぉ」

そう言って、スクアーロは部屋を出ていく。
マーモンはその背を見送りながら、小さく眉をしかめた。

「……いつかは必ずわかってしまうのに、どうしてそこまで拘るんだか、ね」

その後、CEDEFで鉢合わせた跳ね馬ディーノと待ち構えていた沢田家光に、揃って一時間説教をされた事は、また別の話である。
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