夜は短し、遊べよマフィア

「ん……ざんざす……?」

XANXUSに抱き着いてウトウトとしていたスクアーロが、アジトに着く寸前にムクリと起き上がった。
眠そうな目が不思議そうにXANXUSに向けられる。
居心地悪そうにモゾモゾと動くスクアーロに、マーモンが疲れたように声をかけた。

「今度はどうしたんだいスクアーロ」
「んっ……あしに、なんか……んぁ」
「え、脚?」

マーモンが視線を下げて、スクアーロの脚を見下ろした。
ピッタリとした黒のパンツ、その上から太股を撫でている手があった。
恐る恐る視線を上げる。
上げた先には、厳しい目でスクアーロを見下ろすXANXUSがいた。

「な、何してるんだいボス?」
「……腰から下は、イイんだがな」
「ボスーーー!!!!!」

言っている内にも、ゴツい大きな手が太股や尻を撫で回している。
いやいやと首を振って、スクアーロが手を振り払おうとする。
だがそんな抵抗などモノともしないで、撫で続けている。
慌てて止めようとしたレヴィは、XANXUSの体から、濃いアルコールの匂いを感じた。

「ボスまさかっ!酔っていらっしゃるのでずぶふぉおっ!?」
「えぇ!?でもボスいつもより飲む量少なかったぐらいよ!?」
「もしかして……病み上がりのせいでいつもより早く酔ったとか?」
「しし、つまりマジでヤバい酔っ払いが二人いるってことか?」
「……というより、スクアーロ様の体の危機なのではないですか?」

物凄く言いづらそうに、運転席に座る隊員が指摘する。
幹部達はハッとして二人を見る。
今のところXANXUSは脚を撫でるだけしかしていないが、このまま放っておけば何をしでかすかわからない。
なんせ酔っ払いなのだ。
次の行動など読めるはずがない。
とりあえず穏便に済ませるべく、マーモンとルッスーリアが遠慮がちに話し掛けた。

「あの、ボス……?スクアーロ嫌がってるみたいだし、離してあげたらどうかな?」
「そうよぉ~。絶対後で後悔すると思うしぃ……」
「カッ消すぞ」
「「ゴメンなさい!!」」

ギンッと睨まれ、二人は飛んで返ってくる。
あの眼光に射抜かれれば、誰だってそうするだろうが、今回に限ってはバッシングの嵐だった。

「諦めんのはやくね?」
「もっとしっかり止めんか!!」
「この車を盛り場にするつもりですか!?早く止めてきて下さいよ!!」
「無茶言わないでよ!最強の酔っ払いだよ!?僕達に止められる訳がないじゃないか!」
「そうよぉ!下手したら車ごとカッ消されちゃうわよ!?」

彼らが揉めている内にも、XANXUSの手はスクアーロの腰をイヤらしく撫で続けている。
スクアーロは眠いのか、段々と動きが鈍くなってきていた。

「ん、……ぁ、んん……」
「と、兎に角スクアーロを救出しよう!」

マーモンの言葉に全員がコクコクと頷き、全員でジリジリと動き間を詰め始める。
際どいところに触れられて、ピクピクと反応するスクアーロは、また涙目になって、キュッとXANXUSのYシャツを握り締める。
胸板に顔を押し付けて、時々声を漏らすスクアーロを見て、運転を続ける隊員は思った。
この様子を、もし雨部隊の誰かが見たら発狂するのだろうな、と。
彼自身は霧部隊の隊員だが、同僚の雨部隊の奴は、隊長への愛が行き過ぎて狂信の域に達していたし、見たところ他の隊員も同じ様な状態だった。
アイツらならば、ボスを討ち果たそうとしたっておかしいことはない。
もちろん彼だってスクアーロの事は尊敬しているが、あそこまではちょっと……と思う。

「ぅ……や、め……っ」
「スクアーロ!こっち!こっちおいで!」
「スクちゃん!そこにいたらボスに襲われちゃうわよ!!」
「スクアーロー、王子のとこ来いよー」
「ボス!ソイツを離してください!!」
「ふん」

スクアーロもXANXUSも、仲間達の呼び掛けに応じる様子はない。
XANXUSはプイッとそっぽを向いてしまう。
そしてスクアーロは……スクアーロは、XANXUSの胸に凭れて目を閉じていた。

「……あれ?スクアーロ、寝てる?」
「こんな時に!?こんな所で!?」
「しし、どーすんの?」
「どーするもこーするもない!ボスから引き剥がっはぁあ!?」
「カッ消すぞドカス」
「引き剥がしちゃダメみたいねぇ……」

寝てしまったらしく静かに寝息を立てるスクアーロを、XANXUSは無表情に見詰めた。
ももを撫でていた手を止めて、力の抜けた体を、脇に手を入れて持ち上げる。
そしてそのまま、スクアーロの体を枕のように抱えて、そのまま横になってしまった。

「ボスまで!?」
「ちょっとどうしましょうコレ!?」
「このまま放っとけば良いんじゃね?寝かしとけばこれ以上悪化はしねーだろ」

すぐに、クピーと可愛らしい寝息が聞こえてきて、XANXUSも寝てしまったのだとわかった。
ベルの言う通り、確かに下手にいじって暴れられるよりはこのまま寝かせておいた方が良いだろう。

「……着きました」

アジトに車が到着し、待ち構えていたらしい隊員が何人か集まってくる。
もちろんその中にはスクアーロ狂信者の雨部隊隊員もいる。
その後の惨状は……言葉にせずとも想像はつくだろう……。

翌日、XANXUSに抱き枕にされたままベッドで目覚めたスクアーロが、混乱のあまりに悲鳴を上げたことだけ、ここに記しておく。
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