夜は短し、遊べよマフィア

「ルッスーリアじゃなくて襟巻きのファーが目当てなの!?」
「酷いじゃないスクちゃん!!私の事は遊びだったって言うの!?」
「戯れ言言ってないでちょっと黙っててよルッスーリア!!」

今日のマーモンはツッコミが冴えている。
そんなことはさて置いて、羽毛に顔を埋めてもふもふと感覚を楽しむスクアーロの肩を、紅葉の手でペチペチと叩き、マーモンは怒ったように言葉を浴びせる。

「どうやって引き剥がそうかスゴい考えてたのによりにもよって襟巻き!?そもそも普段からストイックでバカ真面目な君が何でよりにもよって襟巻き!?そんなキャラじゃないだろ!!ギャップでも狙ってんの?悪いけど全然得した気分にならないからね!?むしろ損した気分だよ!!」

一息に言い切り、ムンッ!とへの字口になったマーモン。
だが当のスクアーロは聞いているのかいないのか、嫌がるように首を振りながらルッスーリアの肩に頭を押し付けている。
肩で息をするマーモンと、未だ離れそうにないスクアーロを、呆れたように見て、ルッスーリアはため息を吐いた。
全く、いつもなら頼れる二人だと言うのに、酒の席ではこんな風になってしまうのか。

「二人とも落ち着きなさいよぉ。とりあえずスクちゃん、その襟巻き貸してあげるから、いい加減離れなさい!」
「……れも、ルッス……オレ、」
「んー?どうしたのかしらん?」
「このまんまじゃ、いや……?」
「……マモちゃん、私この子持って帰るわ。後の事はよろしく」
「うん、まずは落ち着いて座るべきだね」

何だかんだで、その場所も居心地が良いのか、スクアーロはしょんぼりと眉を下げて、ぎゅうっと抱き着く力を強める。
まあ確かに、ルッスーリアの腕は筋肉でかなり太くて、無理をすれば抱き枕のように見えなくも……ない、か?
だからと言って、このオカマに抱き着くなんてそれこそ酔っ払ってでもいない限り無理だな、などとマーモンは思う。
ルッスーリアの様子を見て少しは落ち着いたのか、マーモンはスクアーロの腰を撫でようとする変態、もとい、ルッスーリアの米神を殴り、腕を縛り上げた。
お金が発生するわけではないが、同僚が変態に襲われるのはマーモンとしても不本意なのである。
その変態も同僚であるということは、この際横に置いておく。

「んもう!良いところだったのにぃ!!」
「良くないからね?……とにかくスクアーロの為にもさっさと引き剥がそう」

マーモンはチラリと自分の周囲に目をやる。
XANXUSは先程から変わらず酒を煽り続けている。
レヴィは既に酔い潰れて突っ伏している。
ベルは自棄食いのつもりなのか、机の上の料理を食い尽くさんばかりのスピードで掻き込んでいた。

「……」

自分がどうにかしなければ。
マーモンが密かに決意する。
しかしどうしたものか……。
全員なんとかしなければならないけれど、一番優先しなきゃならないのはスクアーロだよね。
ムム、と悩むマーモンが、チラリと視線を向ける先には、酒をカッ食らうXANXUSの姿が。
この中でスクアーロをどうにか出来そうなのは彼だけである。
だが、XANXUSが率先して動くなんて……想像することができない。
それでも一応、声を掛けてみる。

「あの、ボス……」
「あ?」
「スクアーロの事、なんとか……いや、ゴメン、やっぱ良いよ」
「言いたいことはハッキリ言え」
「ヒィッ!?あ、あの、スクアーロの事、どうにかしてくれないかなぁ……って!」

XANXUSの鋭い眼光に射抜かれて、マーモンはビクゥッと肩を跳ねさせながらしどろもどろに答える。
XANXUSはそれを聞いて、ググっと眉をしかめ、立ち上がると、ルッスーリアにしがみついて離れないスクアーロの頭を、スパンっと小気味良い音を立てて叩いた。

「カスザメ、用意しろ。帰るぞ」
「ふぇ……ん」
「歩け」
「ん゙ー」

興が冷めたのか、そのまま席を立って出ていこうとするXANXUSを追って、スクアーロは驚くほどアッサリとルッスーリアから手を離して、フラフラと体を揺らしながら席を立つ。
あまりにもアッサリと引き剥がすことに成功し、マーモンは開いた口が塞がらない。
立った立ったクララが立ったとネタをブッ込む暇もなく、XANXUSの元まで辿り着いたスクアーロは、そこでフラリと倒れ込む。
しかし地面と衝突する前に、XANXUSがその脇腹を抱えて抱き止めた。

「ざんざす……?」
「チッ……、おい、車用意しろ」
「ム!?わ、わかったよ!!」

抱き止めたそのまま、XANXUSは肩の上にスクアーロを担ぎ、店を出ていった。
慌ててマーモンは、他の仲間達を叩いて後を追い掛けた。
こんなに簡単に解決するなら、さっさとボスに頼めば良かった!!
人を担いで歩くXANXUSや、憤って後を追うマーモン、その更に後ろを歩く者達を、店員が不審そうに見ている。

「んっ……くすぐった……」
「暴れんなカス。……車は」
「ム、すぐ来るって……あ、来たよ!」

モゾモゾと動くスクアーロを抱えたまま、XANXUSがマーモンに聞く。
タイミング良く、呼んでいた車が到着する。
中から何人かのヴァリアー隊員が現れた。

「ボス!一体今までどこに……えっ!?」
「ム、何にも聞かないで。兎に角車に乗せて。あと向こうの車、ヴァリアーのアジトまで運んでおいてね」
「え、でも、」
「良いから良いからぁ~」
「は……か、畏まりました」

戸惑う隊員をかなり無理矢理黙らせて、車のドアを開けさせる。
XANXUSが一番始めに車内に入り、シートにスクアーロを放り投げた。

「って……」
「うるせぇ、黙って乗れカス」
「んぅー……」

唸るスクアーロを更に奥に引きずり込む。
一瞬XANXUSが誘拐犯に見えたマーモンは、ブンブンと首を振ってそのイメージを振り払う。
残った四人も車に乗り込み、ようやく車が発車した。

「えーっと……、ヴァリアーアジトに、門外顧問沢田家光が居座っているのですが、……一体何があったのですか?」
「ちょぉ~っと病院抜け出して遊んでただけよぉ~」
「スクアーロの事は気にしないで。っていうか聞かないで」
「は、はぁ……」

沢田家光、ということは恐らく、病院を逃げ出したヴァリアー達に説教でもする気なのだろう。
意識のある全員が心の中でくたばれと悪態を吐いているのは、神のみぞ知ることである。
そしてぐでんぐでんに酔っ払っているスクアーロは、沢田家光の名にピクリと反応する。

「……家光、いるのか……?」
「あ、スクアーロ!正気に戻った!?」
「……きょー、帰りたく、ねー。ざんざすぅ……」
「ダメだね!そんなに早く酔いって抜けないよね!」

スクアーロは相変わらず酔っ払ったまま、今度はXANXUSの腰に手を回す。
XANXUSは嫌そうな雰囲気を出すが、振り払うことはしなかった。
運転席に座る隊員の顔がひきつる。
大方、あの人(スクアーロ)何やってんだとばっちりがこっちに来たらどうするんだ、とでも思っているのだろう。
その事に関しては他の幹部も同意である。
重たい雰囲気を乗せたまま、車はヴァリアー邸へと向かっていった。
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