misyou.go様(群青主原作トリップ)

「ザンザス、コーヒー淹れたぜぇ!」
「……悪くねー味だ」
「そ、そうかぁ!?ふへへ……」

もう一人のオレ、いや、オレの妹?とにかく、スペルビ・スクアーロは、今日も元気にXANXUSの周りをチョロチョロしている。
オレと全く同じ名前、よく似た顔立ち、XANXUSの右腕という立ち位置。
こいつとオレは共通する部分がたくさんあり、本人いわく、このスペルビ・スクアーロは平行世界におけるオレなのだそうだ。
くそややこしい。
あれから3日、やつは未だ、帰る気配がない。
本人も色々と試しているらしく、ボヴィーノのガキに10年バズーカを借りに行ったりもしたらしいが、どうやら不発に終わったようだ。

「にしても、本当にそっくりだなぁ、あのスクアーロとお前と」
「んなこたぁ大空戦で奴が現れたときから分かりきってたことだろうが、跳ね馬ぁ」
「はは、まあそうなんだけどさ」

いま、深い傷を負ったオレ達は、監視という名目の元、キャバッローネ所有の病院で世話になっている。
始めこそXANXUSが暴れるんじゃないのかとか、あのスクアーロは敵で戦いが起こるんじゃねぇかとか、色んなことを考えたもんだが、ここ三日間は平穏そのもの。

「でもどっちもスクアーロなんて紛らわしいよな。なんか分かりやすい名前つけた方が良いんじゃねーの?」
「え?名前?」
「あ"あ?そんなもんカスで良いだろぉ。なぁカス」
「うるせぇドカス」
「どっちもうるせぇぞカスザメ1号2号」
「「ふべっ!」」
「あっつ‼」

自分が話題にされていることに気が付いた奴は、XANXUSの肩をマッサージしながら会話に入ってきた。
お前奴隷じゃねぇんだから、何から何まで面倒見てXANXUSのバカを甘やかすんじゃねぇ。
そんな妹分とカスだなんだと呼びあってれば、ザンザスからポットによる制裁を受けた。
中から入ってたコーヒーはオレではなく跳ね馬に掛かる。
大した量は残っていなかったようだが、どうやら少し火傷したみたいだ。
妹分はボスさんの拳を受けていたが、加減されていたらしく少し顔をしかめて額を撫でている。
自分とそっくりな顔を前にして言うのもあれだが……、何か仕草の一々が庇護欲をそそられる。
つまり、オレは奴に情が湧いてるらしい。
XANXUSもまた、奴のことが気に入っているのか、もしくはオレへの当て付けか、殴っちまう度に素直に謝って殴ったところを撫でてやってる。
撫でられると背景に花を飛ばす妹分は、見ていてこちらまで和まされる。
気も利くし器量も良い、加えてオレの妹分な訳だから、跳ね馬みたいな馬の骨は鼻の下伸ばしてアイツのことを見ている。
オレはわざと跳ね馬の足を踏んだ。

「あたたっ」
「う"お、火傷したのかぁ?今湿布もらってくるから……」

妹分は跳ね馬が火傷をしたのを見て、慌てて湿布を取りに行った。
今の痛いはオレのせいだが、気付かなかったならそれで良い。
その間に、先程の提案について再び持ち出す。

「う"む、区別すんのに名前つけるってのは悪くねぇかもなぁ」
「あちち……そうだろ?例え相手がスクアーロでも女の子にカスなんて言いづらいしな」
「カスはカスだ」

XANXUSは曲げねぇが、折角だしもっと可愛い名前をつけてやりてぇ。
何故だか知らねぇが、奴はオレにスクアーロと呼ばれるとたまに哀しそうな顔になる。
そう言うところも、可愛らしい。

「ベッラ(可愛い子)とかどうだぁ」
「恋人か」
「ガッティーナ(子猫ちゃん)」
「XANXUSまで!?」
「……えーと、何の話してんだぁ?」

冗談半分に言った言葉、だが、何となく悪くないような気がした。

「よぉ、おかえりベッラ」
「……は?」
「おい、コーヒーおかわりだガッティーナ」
「はぁ!?」
「あーその……察してくれ。……プ、プリンチペッサ(お姫様)」
「なっ……!」

全員で口々に可愛がってやると、妹分は最後には顔を真っ赤にしてしまった。
こんな言葉、そう珍しいものではないと思ったのだが、奴には違ったらしい。
口をパクパクと動かすも、言葉が見つからないらしくその場で棒立ちになっている。
おもしれぇ、もっと甘やかしてやろう。

「お"ら、突っ立ってねぇでお兄ちゃんの隣に座れよベッラ」
「だ、誰がベッラだって……そもそも誰が誰の兄貴だよ!」
「あんまり騒ぐなガッティーナ」
「そ、それは、ごめん……」
「えーと、悪いけど湿布もらっても良いかプリンチペッサ」
「あ、ああ!」

顔を耳まで真っ赤に染めたままベッラは跳ね馬の前に屈み、火傷した手を取って薬を取り出した。

「く、薬ももらってきたから……その、オレが塗ってやる」
「あ、ありがと」
「別に、礼を言われるようなことじゃねぇし……」

流石、XANXUSの看病を任されているだけあって、手際が良い。
しかし何というか……XANXUSの手当をしているときとは何かが違うというか……。
オレがじっと見詰めていることには気付いていないらしく、ベッラは最後に湿布を貼ると、これでよし、と上から跳ね馬の手を撫でた。

「その、プリンチペッサ?」
「!な、なんだよ今度は‼」
「いや、あんまりオレの顔見てくれなかったから、嫌われてるのかと思ってたんだけどさ、意外とそんなことないのかなー、と思って。ありがとな、手当てしてくれて」
「っ……!か、勘違いするな馬鹿!カス!ドカス‼」
「なんで突然罵倒されたのオレ!?」

その様子を見て、はっと気が付いた。
まさか……そんなまさか……!
呆然とXANXUSに視線を向けると、奴も意外そうな顔をしている。
ば、馬鹿な!

「べ、ベッラ!こっちこい!」
「うわっ!お"い引っ張んなぁ!」
「おまっ、お前!まさかとは思うが、その、まさかそんなことはねぇと思うがなぁ!」
「うるせぇしくどいぞぉ!ハッキリ言えカス!」
「誰がカスだドカス‼だ、だからその、お前まさか、こいつ……跳ね馬のことが……」

好きなのか?そう聞こうとしていた。
なのだが、目の前の妹分は突如、濃い煙と破裂音に包まれる。

「なぁ!?」
「な、なんだ?攻撃か!?」
「……いや、違うようだな」

XANXUSの言う通りだった。
目の前からベッラは跡形もなく消え去っている。
つまり、……帰った、のか?

「っう"お"ぉおい!!あの馬鹿!肝心なこと聞く前に何帰ってやがる‼戻ってきやがれぇ!」
「いや無事に戻れたんだからよろこべよ!……ちょっと寂しくはあるけどさ」
「てめぇは黙ってろ跳ね馬ぁ!がはっ!?」
「テメーが黙ってろカスザメ」

XANXUSから飛んできた椅子を頭に受けて気を失った。
夢の中でもベッラと、アイツの世界の跳ね馬との関係を悶々と悩んでいたオレ。
二人の真実を知る日は……どうやら来ないようだ。
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