misyou.go様(群青主原作トリップ)

「……てめぇ、いつまでオレのこと見てやがるんだぁ?」
「いや、まあ」
「まあ、じゃねぇ。鬱陶しいからこっち見んなぁ」
「うん」

言われてようやく目を逸らす。
目の前にいるのは、オレに気味が悪いほどよく似た男だ。
……いや、オレがこいつに似ているのか。
やつの名前はS・スクアーロ。
オレの、云わばオリジナルである。
銀の長髪、鋭い顔つき、服の上からだとわかりづらいが程よくついた筋肉、でかいダミ声。
本当によく似ている。

「テメーら、オレの部屋で騒いでんじゃねぇ」
「あ"あ!?心配して見に来てやってんだからもっと塩らしくしたらどうだてめぇ!」
「今すぐこいつのこと追い出す」
「何様だぁてめぇ‼」
「……さあ」

肩をすくめてため息を吐いた。
オレも、スペルビ・スクアーロ。
ただし本物ではない偽物。
ザンザスの包帯を取り替えてやりながら、オレはまたじっとりとオリジナルを観察し出す。
オリジナルはザンザスが怪我して辛そうだってのに、大声で五月蝿く話す(注射針が彼を襲った)。
オレに張り合ってか包帯を取り替えようとした手付きは不器用そのものだった(花瓶を投げ付けられていた)。
水を差し出したり、汗を拭いてやったりとやることはたくさんあるはずなのに、気付かない、気が利かない(今まさにベッドの角に叩き付けられている)。

「オレ、こんなのに成りたかったのか……」
「あ"あ!?何か言ったかぁ?」
「なんもねぇよ」
「けっ!気に食わねぇなぁう"ぉい!」
「うるせぇ」
「ごは!」

今度はお見舞いの花を耳に突っ込まれている。
何で避けねぇんだこいつ。
バカなの?なんなの?スクアーロなの?

「S・スクアーロってバカだったんだなぁ……」
「どういう意味だぁ!オレがバカならてめぇもバカだろうがぁ‼」

言い返されて、そんなもんなのかと首を傾げる。
オレが本物じゃねぇってことは彼らには話していない。
流石に、オリジナルと比べると高い声とか細い体格とかで女であることには気付かれてしまったが、彼らは割りとすんなり、異世界やら同一人物やらの存在を受け入れているようだった。
おんなじだと言われたことが、オレには少し受け入れがたい。
オレはこんなにバカっぽくねぇ。

「……そうだなぁ。あんたがバカならオレもバカだ」
「……何不満そうな顔してやがるてめぇ!そんなにオレが気に食わねぇのかよ!」
「気に食わねぇってことはねぇけどよぉ、何か……ショック……」
「三枚に卸すぞてめぇ‼う"ぉい!」
「黙れドカス」
「ぐお!?」

そんな会話をしている内に、ザンザスの包帯を替え終わった。

「ザンザス、キツくねぇかぁ?」
「ふん、ちょうど良い」
「オレの癖に随分と手が器用じゃねぇかぁ」
「まあ……うん」
「今何言いかけたてめぇごらぁ!」

あんたと比べたら大抵の人間は器用だ、と思った言葉は飲み込んで、何でもねぇと首をふる。
手を握ったり開いたりしているザンザスは、どうやら満足したらしく、再び布団に沈み込んだ。
数秒もしない内に寝息が聞こえてくる。
寝付きが良いのはどの世界でも変わらねぇらしい。

「……お前よぉ、本当にオレ、なんだよなぁ?」
「あ"?」

ザンザスの布団をかけ直してやってたら、突然オリジナルに話し掛けられた。
本当にS・スクアーロなのか。
……答えは『No』。
オレは、本当のS・スクアーロではない。

「あんたは、どう思う」

答えたくはなかった。
オレの方が器用なのに。
オレの方が気が利くのに。
オレの方がずっと、ザンザスのことを大事にしてきたのに。
なのにオレは、こいつの偽物なのだ。
悔しい。
納得できねぇ、だろう。

「……オレにしちゃあ、器用すぎる。頭も良いように見えるし、……あ"ー、その、お前は女だぁ」
「……」

オレ自慢のポーカーフェイスが歪んだ。
じろりと睨み付けると、あーだのうーだのと唸りながら、オリジナルは言いづらそうに話を続けた。

「お前は、オレじゃあねぇ」
「……あ"あ、そうだな」
「でもどっか似てる気がすんだよなぁ」
「?」
「……お前もしかして、オレの兄弟、か?」
「……」
「そ、そうだろぉ!当たりだろぉ!やっぱりよぉ、どっかでそれっぽさを感じてたんだよなぁ‼女だし、姉貴って感じでもねぇから……妹かぁ!?」
「……」

オリジナル、お前……なぜそんなところで勘が冴えてるんだ?。
もし本物が生きていたら、オレはS・スクアーロの妹だった。
でも違う。
すっげぇ気に食わない。
誰がてめぇの妹だ。
オレの絶対零度の視線に気付くことなく、彼は自信たっぷりに自分の推論を繰り広げている。
そのどや顔がとてつもなくウザい。
やっぱりちげぇ。
オレとこんなバカが同一?兄弟……?
駄目だ、自分のプライドがそれを許さない。

「ふへへ……妹かぁ。オレのことはお兄ちゃんって呼んでも構わねぇぜ……へべ‼」
「おぶっ!ちょっ……何でオレまで‼」
「うるせぇ、黙ってしゃべれカスザメども」
「んな無茶苦茶なぁ!?」

嬉しそうに騒いでいたオリジナルが突然体を仰け反らした。
ザンザスに思いっきり殴られたらしい。
しかし鼻血も何も出てない。
強いて言えば鼻の頭が僅かに赤い。
こいつ……ロボットか何かか?
そしてとばっちりを受けてオレまで殴られた。
オレはオリジナルほど丈夫ではない。
当たり前だが鼻血が出た。
痛みで目も潤んでいる。
不満げにザンザスを見たら、舌打ちと共に頭を撫でられた。

「悪かったな」

絶句した。
オレの知ってるザンザスじゃねぇ。
悪い夢でも見ているんじゃあないだろうか。
頬をつねった。

「いでででで」

間違えてオリジナルの頬をつねってしまった。
いたがっているところを見るに夢じゃないらしい。

「おい、カスザメ2号」
「お"い何だその呼び方ぁ」
「喉が渇いた」
「え?……あ、うん、カレーで良い?」
「言っとくがカレーは飲み物じゃあねぇぞぉ」
「え、ライスの方が良いかぁ?」
「こいつもう駄目だぁ」

しばらくの間、ザンザスショックが抜けることはなかった。
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