たんたんめん様(群青×泥棒if)
その日、仕事中のオレの元に、珍しくスペルビから電話が掛かってきた。
『……なんか最近、変なんだよなぁ』
「え?変って?」
珍しく歯切れの悪い彼女に、オレも仕事の手を止めて聞き返した。
『誰かに見られてるような感じが……。つっても、証拠もねぇし、周りの奴らもそんなことないって言ってるし、オレも確信はねぇんだけど』
「でも、見られてるって思ったんだろ?」
『まあ』
「なら、今日泊まりに来いよ。そしたらオレも何か感じるかもしれないだろ?」
『迷惑、じゃないかぁ?』
「そんなこと思わないよ。仕事が終わったらおいで」
『……ありがとな』
「これくらいお安い御用だぜ」
少し憔悴したように聞こえる彼女の声に、一抹の不安がよぎる。
人に恨まれる心当たりは、それこそ数えきれないほどあるだろう。
だが、その視線の主が敵意を持っているのなら、彼女に限って気が付かないと言うことはないだろうが。
それとも、彼女よりも優秀な人間が……?
気のせいならばそれで良いのだが、もし本当に誰かに狙われているのだとしたら、すぐにでも対処したい。
「スペルビ……」
心配そうに呟いて、窓の外に視線を落とす。
ーースペルビ・スクアーロと、彼女の感じた視線の主が出会ったのは、一ヶ月ほど前のことであった。
* * *
闇の中に立つ黒服の集団。
彼らはヴァリアー。
そして先頭で彼らを率いているのは、作戦隊長スペルビ・スクアーロだった。
「ターゲットはオークション主催者とスタッフ、客は殺さずに捕らえろ」
「は!」
「商品の中には人間もいる。そちらは保護して施設に運べ」
「畏まりました!」
「散!」
合図を聞いて男達が散っていく。
宝石も、珍しい品物も、果ては人間までもを取り扱う、悪趣味下劣極まりないオークション。
ボンゴレからの命を受けて、ヴァリアーはそのオークションを潰しに来ていた。
オークションの開始までには、まだ少しだけ時間がある。
その僅かな時間で、ヴァリアーは主催者、スタッフを始末して、客を捕まえ、商品にされている人間を保護しなければならない。
そんな難易度の高いミッションにも怯む様子を見せず、スクアーロは毅然とした態度で指示を出す。
そして自身もまたオークション会場へと潜り込み、ヴァリアーへ反抗し武器を振るうガードマン達を切り倒していく。
そして辿り着いた最奥の部屋で、彼らは捕らえられた商品達と出会ったのだった。
* * *
私としたことが、しくじった……。
はっとして目を覚ますと、彼女は分厚い鉄の扉に閉ざされた部屋にいた。
服はいつの間にか、無地の清潔なワンピースに変えられている。
掛けられた首輪は、鎖で壁に繋がれており、手には固く手錠が掛けられている。
ここから逃げ出すのは、どう見ても困難を極める。
周りには自分と同じように捕らわれている人々が見える。
闇のオークションに出品される宝石を盗もうとして、それを守るガードに油断を突かれた。
しかしこの服に、部屋。
どうやらミイラ取りがミイラになったらしい。
彼女はオークションに出される商品に加えられてしまっていた。
「どうしようかしら」
絶体絶命のこの状況。
しかしそんな現状を理解しながらも、彼女は余裕を崩さなかった。
艶っぽく息を吐き、その長い脚を組んで座り込む。
その時だった。
天井……いや、通気孔から缶のような物が投げ込まれた。
その中から白い煙が溢れ出す。
「これは……催眠ガス……!?」
ここに来て初めて、彼女は焦ったような声を出した。
狭い部屋をあっという間に煙が満たしていく。
通気孔や換気扇はまるで機能していないようだった。
すぐにその場にいた全員が意識を失い、そして鉄の扉を破って黒服の者達が侵入してきたのだった。
* * *
「これで全員だなぁ」
「はい、取り零しはありません」
「よし、では保護した者達を連れて離脱するぞぉ」
「御意」
保護した数人の男女を、それぞれ腕や背に抱えて、オークション会場を離れていく。
スクアーロもまた、一人の女を横抱きにして、離れた場所に止めてある車へと向かっていた。
部下の一人が、ほんの些細なことだが、失敗をしていた。
大きな音を立てたせいで、警察がこちらへ向かっているとの報告が入っている。
すぐにでもここを離れなければならない。
彼らに出せる限りのスピードで走り、そろそろ車に着こうかと言う頃だった。
「ん……ぅん……」
「ん"、起きたかぁ?」
一般人に顔を見られるのはあまり良いことではないが、どちらにせよ後で彼らの記憶は少しばかりいじる予定だった。
問題はない。
部下達を先に車に乗り込ませ、スクアーロは彼女の顔を覗き込む。
「じっとしてなぁ、もう、大丈夫だからなぁ」
「……あ、貴方……」
「ん"ぁ?」
「……いいえ、何でもないわ」
言われた通り大人しくする彼女を、スクアーロは車の中へと入れる。
そしてそれから1時間後、スクアーロの元へ、彼女が脱走したという報告が入った。
* * *
目を覚ましたその時、視界を覆った美しい銀色。
月の光を映して煌めく不思議な虹彩の瞳と、長く伸びる睫毛。
滑らかな頬が、寒さからかほんのりと赤く染まっている。
顔の造作、色、雰囲気、彼のその全てが、優れた芸術品のように彼女を魅了する。
「じっとしてなぁ、もう、大丈夫だからなぁ」
「……あ、貴方……」
まるで宝石のようなその人に、息が詰まるようだった。
「ん"ぁ?」
「……いいえ、何でもないわ」
ぞくぞくとした欲が胸を占めていく。
欲しい。
欲しい。
この人のことが堪らなく欲しい。
心ときめく宝石に出会ったときのように、胸が躍る。
飽きるまで側に置いて眺めていたい。
彼の胸に着いた紋章には見覚えがあった。
ボンゴレの保有する暗殺者集団、ヴァリアー。
服装から見るに、彼はその中でも幹部格にあるらしかった。
1時間後、保護された施設から無事に脱出した彼女は、恍惚とした微笑みを浮かべながら、灯りの付いた窓に向けて囁いた。
「必ず貴方を手に入れて見せるわ……女泥棒、峰不二子の名に懸けてもね」
ウインクをひとつ残し、彼女……不二子は建物から離れていったのだった。
『……なんか最近、変なんだよなぁ』
「え?変って?」
珍しく歯切れの悪い彼女に、オレも仕事の手を止めて聞き返した。
『誰かに見られてるような感じが……。つっても、証拠もねぇし、周りの奴らもそんなことないって言ってるし、オレも確信はねぇんだけど』
「でも、見られてるって思ったんだろ?」
『まあ』
「なら、今日泊まりに来いよ。そしたらオレも何か感じるかもしれないだろ?」
『迷惑、じゃないかぁ?』
「そんなこと思わないよ。仕事が終わったらおいで」
『……ありがとな』
「これくらいお安い御用だぜ」
少し憔悴したように聞こえる彼女の声に、一抹の不安がよぎる。
人に恨まれる心当たりは、それこそ数えきれないほどあるだろう。
だが、その視線の主が敵意を持っているのなら、彼女に限って気が付かないと言うことはないだろうが。
それとも、彼女よりも優秀な人間が……?
気のせいならばそれで良いのだが、もし本当に誰かに狙われているのだとしたら、すぐにでも対処したい。
「スペルビ……」
心配そうに呟いて、窓の外に視線を落とす。
ーースペルビ・スクアーロと、彼女の感じた視線の主が出会ったのは、一ヶ月ほど前のことであった。
* * *
闇の中に立つ黒服の集団。
彼らはヴァリアー。
そして先頭で彼らを率いているのは、作戦隊長スペルビ・スクアーロだった。
「ターゲットはオークション主催者とスタッフ、客は殺さずに捕らえろ」
「は!」
「商品の中には人間もいる。そちらは保護して施設に運べ」
「畏まりました!」
「散!」
合図を聞いて男達が散っていく。
宝石も、珍しい品物も、果ては人間までもを取り扱う、悪趣味下劣極まりないオークション。
ボンゴレからの命を受けて、ヴァリアーはそのオークションを潰しに来ていた。
オークションの開始までには、まだ少しだけ時間がある。
その僅かな時間で、ヴァリアーは主催者、スタッフを始末して、客を捕まえ、商品にされている人間を保護しなければならない。
そんな難易度の高いミッションにも怯む様子を見せず、スクアーロは毅然とした態度で指示を出す。
そして自身もまたオークション会場へと潜り込み、ヴァリアーへ反抗し武器を振るうガードマン達を切り倒していく。
そして辿り着いた最奥の部屋で、彼らは捕らえられた商品達と出会ったのだった。
* * *
私としたことが、しくじった……。
はっとして目を覚ますと、彼女は分厚い鉄の扉に閉ざされた部屋にいた。
服はいつの間にか、無地の清潔なワンピースに変えられている。
掛けられた首輪は、鎖で壁に繋がれており、手には固く手錠が掛けられている。
ここから逃げ出すのは、どう見ても困難を極める。
周りには自分と同じように捕らわれている人々が見える。
闇のオークションに出品される宝石を盗もうとして、それを守るガードに油断を突かれた。
しかしこの服に、部屋。
どうやらミイラ取りがミイラになったらしい。
彼女はオークションに出される商品に加えられてしまっていた。
「どうしようかしら」
絶体絶命のこの状況。
しかしそんな現状を理解しながらも、彼女は余裕を崩さなかった。
艶っぽく息を吐き、その長い脚を組んで座り込む。
その時だった。
天井……いや、通気孔から缶のような物が投げ込まれた。
その中から白い煙が溢れ出す。
「これは……催眠ガス……!?」
ここに来て初めて、彼女は焦ったような声を出した。
狭い部屋をあっという間に煙が満たしていく。
通気孔や換気扇はまるで機能していないようだった。
すぐにその場にいた全員が意識を失い、そして鉄の扉を破って黒服の者達が侵入してきたのだった。
* * *
「これで全員だなぁ」
「はい、取り零しはありません」
「よし、では保護した者達を連れて離脱するぞぉ」
「御意」
保護した数人の男女を、それぞれ腕や背に抱えて、オークション会場を離れていく。
スクアーロもまた、一人の女を横抱きにして、離れた場所に止めてある車へと向かっていた。
部下の一人が、ほんの些細なことだが、失敗をしていた。
大きな音を立てたせいで、警察がこちらへ向かっているとの報告が入っている。
すぐにでもここを離れなければならない。
彼らに出せる限りのスピードで走り、そろそろ車に着こうかと言う頃だった。
「ん……ぅん……」
「ん"、起きたかぁ?」
一般人に顔を見られるのはあまり良いことではないが、どちらにせよ後で彼らの記憶は少しばかりいじる予定だった。
問題はない。
部下達を先に車に乗り込ませ、スクアーロは彼女の顔を覗き込む。
「じっとしてなぁ、もう、大丈夫だからなぁ」
「……あ、貴方……」
「ん"ぁ?」
「……いいえ、何でもないわ」
言われた通り大人しくする彼女を、スクアーロは車の中へと入れる。
そしてそれから1時間後、スクアーロの元へ、彼女が脱走したという報告が入った。
* * *
目を覚ましたその時、視界を覆った美しい銀色。
月の光を映して煌めく不思議な虹彩の瞳と、長く伸びる睫毛。
滑らかな頬が、寒さからかほんのりと赤く染まっている。
顔の造作、色、雰囲気、彼のその全てが、優れた芸術品のように彼女を魅了する。
「じっとしてなぁ、もう、大丈夫だからなぁ」
「……あ、貴方……」
まるで宝石のようなその人に、息が詰まるようだった。
「ん"ぁ?」
「……いいえ、何でもないわ」
ぞくぞくとした欲が胸を占めていく。
欲しい。
欲しい。
この人のことが堪らなく欲しい。
心ときめく宝石に出会ったときのように、胸が躍る。
飽きるまで側に置いて眺めていたい。
彼の胸に着いた紋章には見覚えがあった。
ボンゴレの保有する暗殺者集団、ヴァリアー。
服装から見るに、彼はその中でも幹部格にあるらしかった。
1時間後、保護された施設から無事に脱出した彼女は、恍惚とした微笑みを浮かべながら、灯りの付いた窓に向けて囁いた。
「必ず貴方を手に入れて見せるわ……女泥棒、峰不二子の名に懸けてもね」
ウインクをひとつ残し、彼女……不二子は建物から離れていったのだった。