夏目鬼灯様(群青おまけ)




「……よし、じゃあ真剣勝負で決めよう!」
「臨むところだぁ!」

それは確か、まだ付き合い初めてからそれほど経たない頃の話だったと思う。
何が切っ掛けだっただろうか。
それはもう記憶の彼方だったが、とにかくオレはちょっとばかしイラついていて、ディーノの馬鹿も珍しく本気で怒っていた。

「勝った方が負けた方の言うことを聞く!
手加減しない!
ズルもしない!
武器も使わない!
ルールはこれでいいな?」
「それで良いぜぇ。
今日という今日は、テメーのその生意気な面ぶっ飛ばしてやる!!」
「恋人に向かってそれは酷くないか!?」

まあそんな流れで、オレ達は真剣勝負をすることになったのであった。
審判は……そうだ、確かロマーリオがやっていた。

「ぎったぎたにしてやらぁ!」
「そっちこそ、泣いても知らないからな!!」

お互いに向き合って、それぞれの得物を構えて、ギッと睨み付ける。
先に地面を蹴ったのは、相手の方だった。
身を低く構えて間合いを詰めるディーノを、ギリギリまで静止したまま待ち構えた。
手前まで迫った奴が拳を引いたと同時に、オレもまた動き始めた。
拳から逃れるように、上体を後ろへと倒す。

「くっ……!」

空振った拳を引き戻し、ガードに入る隙を与えないように、地面に手をつき、逆に脚を思いきり持ち上げた。
勢いよく、ディーノの顔面に向けて蹴りを繰り出したのだ。
迫る安全靴を見たディーノは、反射的にほんの少し体を捩る。
首を狙って蹴りを放ったのだが、オレの脚は惜しいことに肩を直撃する形で終わった。
ディーノは痛みに顔をしかめたが、引き下がることはせず、そのまま更に腕を伸ばしてきた。

「ぐ……!」

伸びてきた腕がオレの胸元を掴む。
バランスを崩す……よりも早く、肩に当てた脚をディーノの腕に絡めた。

「う、わ!?」
「くそっ……!」

その結果、結局二人してバランスを崩して、縺れ合いながら地面に転がる。
このままだと力尽くで動きを固められるかもしれない。
そう思って慌てて体を解き、距離をとって構え直した。

「ってて……。
やっぱりやるな……!」
「てめぇの方こそ、鞭がなくても意外とやるじゃあねぇかぁ。」

挑戦的にニヤリと笑うディーノに、こちらもにたりと笑って返す。
と言っても、あくまでその笑みは強がりでしかなくて、冷静に考えてみれば、成人男性である上に、しっかりと鍛えているディーノに、どれだけ鍛えているといったって、女である自分がそう簡単に勝てるはずもない。

「さっさと片をつけるぞぉ。」
「へ……、望むところ!」

今度はオレの方から先に仕掛ける。
長引けば長引くほど、こちらが不利になることは嫌でもわかる。
ならば、ここで勝負をつける……!

「お゙らぁ!いくぞぉ!!」
「こい!」

真正面から突っ込んでいく……と、見せ掛けて、迎え撃たれる直前で飛び上がった。
ディーノもオレの行動は読んでいたらしく、オレの鳩尾目掛けて拳を突き出してくる。
だがこちらとて、その攻撃は読んでいた。
拳を手のひらで受け止めて、吹っ飛ばされないように腕にしがみつく。
その体勢のまま、限界まで脚を伸ばして、ディーノの肩を蹴りつけた。

「ぁぐっ……!」

先程同じように蹴った箇所だ。
思わず痛みに呻いた奴の腕を離して、落下しながらディーノの髪を掴んだ。
負けじとディーノも、オレの服の襟刳りを掴んで引き寄せる。
お互いに腕を引いて、拳を固く握る。

「ゔらぁ!!」
「おりゃあ!」

オレの拳が、ディーノの側頭を打ち抜く。
ディーノの拳が、オレの鳩尾を穿つ。

「しょ……勝負あり!」

どさりと倒れた2つの音を聞いて、ロマーリオがそう宣言したのだった。
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