夏目鬼灯様その2(群青×)

◆第5ステージ? 地獄の鬼ごっこ

「ゔおおお!!」
「クフ……クフハハハ!!
いい加減諦めろください師匠!」
「絶対指環を手に入れるのよさ!」
「ぜんっぜん聞こえてねぇ!!」

六道骸とスペルビ・スクアーロ。
彼らは人っ子一人いない町中を、二人並んで走っていた。
理由は簡単。
骸の言葉のせいで火のついたビスケが、般若のような表情で追いかけてきているからである。

「ゔお゙ぉい、この世界はテメーの再現した世界なんだろう六道ぉ!!
なら構造変えたりビスケを帰したりすることも出来るんじゃねぇのかぁ!?」
「で、できますよ……!
普通の状態ならねっ!
こんな状況では集中ができません……!!」
「うるせぇ!良いからやれぇ!!」
「くっ……!
背に腹は変えられない……!」

スクアーロの言葉を受けて、骸は渋々三叉槍を構える。
一体どういう体力をしているのか、息を切らす二人とは真逆に、ビスケは疲れた様子もなく目をギラギラと光らせてすぐ後ろまで迫ってきている。

「これで……どうですか……!?」

骸の叫びと同時に、ふっと影が落ちた。
二人の背後まで迫っていたビスケの気配はなくなっている。
どうやら、ビスケからは逃げ切れたらしい。
しかし安心したのも束の間……、二人を覆っていた影が、のそりと動いた。

「……な、なんだ?」
「この影は……?」

のそり、むくり、どすんっと音を立てて、『それ』は起き上がる。
ぷかりと口から紫煙を吐いて、『それ』はにったりと口を歪めた。

「おおう、面白そうなのが来たなぁ?」
「げ……!
テメーは、土蜘蛛……!?」
「さ、最悪の場所に逃げてきてしまった!」

土蜘蛛を認めた直後、二人はまた踵を返して逃げ始める。
土蜘蛛はどう考えたってビスケよりもヤバい敵である。
こうなってはプライドも何もない。
とにもかくにも、逃げの一択である。

「待てや、ちょっと遊んでけ。」
「嫌に決まってんだろうがぁ!」
「進○の巨人よりも凶悪じゃないですか!
何メートル級ですかこの化け物!」
「十メートルくらいじゃねぇかぁ!?」
「律儀に答えなくて良いんですよ!
次!次こそは安全な場所に……!!」

二人を捕まえようとする土蜘蛛の丸太のような指から逃れて、骸が再び三叉槍を翳す。
次の瞬間、二人は再び夜の相剋寺にいた。

「さて……妾の可愛い狂骨を苛めたのはどちらかのぅ?」
「「こいつです!」」

お互いにお互いを指差し睨んだ直後、二人の顔の横に狐の尾が突き刺さった。
羽衣狐がにこりと笑む。
だがどう見たってその目は笑っていない。
頬から流れるお互いの血を見て、二人は大きく頷いた。

「逃げるぞ!」
「もちろん!!」
「逃がさんぞ小童ども!」

二人も中々の速さだが、羽衣狐もまた速い。
それだけ怒っているということなのだろうが、今の二人には逃げること以外に使う脳みその容量はないため、そんなことは思考の外である。

「つ、次です次!」

今度は突然二人の足元の地面が消える。
なんとか体勢を整えて着地した二人の目に映ったのは、オレンジ色の毛皮、長い耳、殺気立った目、九つの尾……。

「きゅ……九尾って!」
「お前の運のなさに絶望したぁ!!」
「それは違う漫画の台詞です早く飛びますよ!!」

二人に気付いた九尾が尾を振り下ろすよりも早くに、必死の思いで移動する。
今度こそは安全な場所であってくれ、という二人の思いは、しかし見事に裏切られるのであった。

「うふっ★面白そうなお客様が来たね♡」
「ヒ……ヒソカ……!」
「ああ、もしかして、ようやく君らの念能力を渡す気になってくれたのかい?」
「ク……クロロ……!
幻影旅団勢揃いかよ……!!」

二人は自然と背中合わせになり、それぞれの得物を構える。
幻影旅団……確かに強敵ではあるが、妖に比べればまだ何とかなる……ような気もしなくはない。

「っしゃ……やるぞ骸ぉ。」
「名前で呼ぶなと、何度言えばわかるのですか……。
まあ、化け物相手にするよりはましですね。
……なんて、大人しく戦わずとも今度こそ安全な場所に移動すれば良いだけの話です!」
「え……ゔわ!?」

今度はまるで、竜巻に巻き込まれたかのような移動だった。
激しい風の流れに揉みくちゃにされ、スクアーロは骸の姿を見失う。

「ぅおっ……と!」

突然風が止んで、スクアーロの体には本来あるべき重力が正しく掛かった。
地面に着地するため体勢を建て直し、そして靴底が固い地面に触れた瞬間だった。

「――……じゃあ最後は、オレと勝負か?」

耳に届いたのは、酷く懐かしく感じる声。
ずっと……ずっと恋い焦がれていた声。
慌てて振り向いたスクアーロの額に、しなやかな指が当てられる。

「ふふ……オレの勝ちか?」

ピシッと鋭い音が鼓膜を貫き、額に鈍い痛みを感じる。
反射的に瞑ってしまった瞼を抉じ開けて、目の前にいるだろう人の顔を見ようとした。
一瞬、金色の光が見えた気がする。
だがあまりにも眩しくて、よく見えなかった。
しぱしぱと瞬きを繰り返す。
そうしている内に見えてきたのは、金色でもなく、思い浮かべた声の持ち主でもなく。

「……お、起きたかスクアーロ?」
「…………ぁあ゙?」

ボヤける視界に映ったのは、オレンジの髪の毛と、茶色い目。
現在のクラスメートである黒崎一護が、心配そうにスクアーロの顔を覗き込んでいた。

「……ここは?」
「寝惚けてんのか?
教室!しかももう放課後!!
お前一時間目から寝てただろ!?」
「……あ゙~。」
「……お前体調でも悪いのか?
珍しいこともあるんだな……。」

机の上に再び突っ伏して、ぐってりと動かなくなるスクアーロの頭をてしてしと叩いて、一護は取り合えず彼女を起こそうと試みる。

「黒崎ぃ……。」
「な、なんだよ?」
「……なんか、すげぇ良い夢見た。」
「……はあ?」

机の上に置いた腕の中から一護を見上げて、スクアーロは目を細めて笑った。

「ふ……へへ。」
「……。」

額を抑えて破顔する彼女を見て、一護の顔に朱色が差す。
思わず隠すように顔を背けて口元を手で覆ったが、スクアーロはそんなことには気付きもしないで微笑み続けていた。

「なにニヤニヤしてんだよお前……。
気味悪いな。」
「せーなぁ、良い夢見たっつってんだろ。」
「……どんな夢だよ。」
「……。」
「あ?」
「……ふふ、秘密。」
「はあ?」

幸せそうに笑いながら、唇に人差し指を当てたスクアーロに、一護は大きなため息を吐いたのだった。
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