夏目鬼灯様その2(群青×)

○第1回戦 スクアーロVSキセキの世代



「よっしゃあ、んじゃあ、やろうぜ。」

にっと笑ったスクアーロの格好は、いつの間にかバスケのユニフォームに変わっていた。
上から下まで黒で固めてあり、ナンバーや細かな部分には、緋色や金色、白が散りばめられている。
長い銀髪は頭の後ろで無造作に纏められており、ユニフォームの形状と合わさりいつもよりも若干露出が多い。

「……あの腕でよく、あんな重そうな武器を振り回しているのだよ。」
「オレらより一回り細いんじゃねーのか?」
「枝に見えてきたっス……。」
「大丈夫なの、あれ?」
「……細いからといって、油断はできない。
全員、本気でかかろう。」

ノースリーブ、ハーフパンツのユニフォームから伸びる手足は、それなりの筋肉はついて健康的ではあるものの、やはりキセキの世代の彼らと比べればとても細く見える。
だが彼らの心配とは逆に、スクアーロは余裕の笑みを浮かべ続けている。

「とりあえず、オレ達は5人、あなたは一人。
ハンデとして、スタートはあなたのボールで良い。」
「そうかぁ?なら、遠慮なく頂くぜぇ。」

シュルッと手の中でボールを回す。
彼らの準備が整ったのを見計らい、骸が片腕を上げて宣言した。

「ルールは6点先取制。
つまり3回ゴールすれば勝ちです。
ハンデとしてガットネロのボールで始めることとしましょう。
それでは……はじめ!」

骸の掛け声と笛の音の直後、5秒と経たないほんの僅かな時間の内に、キセキの世代達は、ゴールネットの揺れる音を聞いたのだった。

「な……ぁ……!?」
「これで1回目、だなぁ!」

愕然と口を開けた赤司の隣で、スクアーロが不敵な笑みを浮かべる。
あっという間に数メートルの距離を移動する脚力、遠く離れたゴールまでボールを投げる腕力、何よりそのシュートの精密さ。
もしかしたら、自分達はとんでもない人間と戦っているのかもしれない。
ようやくその事に気付いた彼らの頬に、冷や汗が伝う。

「ガットネロ、トラベリングという言葉を知っていますか。」
「あ。」

骸の冷静な声が、沈黙を破ってコートに虚しく響いたのだった。


 * * *


「さて、馬鹿がバスケのルールを理解したところで、試合を再開しましょう。」
「ちが……ちょっと忘れてただけだぁ!」

ブスッと頬を膨らませるスクアーロだが、キセキは緊張した面持ちを崩さない。
あれだけの人間離れした技を見たのだ。
油断などできる訳もない。

「では改めて、はじめ!」
「オレが行く!」
「!」

合図と共にスクアーロの前に飛び出たのは青峰で、ボールを奪い取らんと、彼女の出方を窺っている。
すぐにスクアーロの背後にも選手達が展開し、青峰がボールを奪い次第すぐにでも攻め込めるような布陣を整える。

「ヨーシャはしねぇからな。」
「良いぜぇ。
そっちの方が、おもしれぇ!!」

まず始めに動いたのはスクアーロだった。
限界まで姿勢を低くした状態で、ドリブルをしながら、青峰に向けてまっすぐ駆け出した。

「はっ……!?」

まさか真っ直ぐに向かってくるとは思わなかったのだろう。
一瞬度肝を抜かれて青峰の動きが止まる。
しかしすぐに持ち直して、その大きな体でスクアーロの進路を塞ぐと、しっかりと腰を落として、ボールの取り合いに備える。

「来いや!」
「いやだぁ!」
「は……はぁ!?」

スクアーロは勢いのままに、青峰に衝突するのではないかという程のスピードのまま肉薄していく。
そして青峰の手がボールに伸びた瞬間、スクアーロは膝でボールを蹴り上げた。

「んなぁ!?嘘だろ!!」
「クフフ、初心者らしい独特なプレイです。
いかがでしょうか、解説の皆さん?」
「まあ、スクアーロのど器用さがよくわかるよね。」
「やっぱあの人すげぇ……勉強になるな!」
「初心者でもあんなバスケはしませんよ。
というか火神君、あのバスケで勉強しないでください。」
「ぶふぉ!し、真ちゃんが混乱のあまり固まってるっ!!」
「でもゴール前にはアツシがいるからね。」

コート近くに設置された椅子に座り、試合に参加していない者達は、自由に感想を述べている。
宙高く飛んだボールは、青峰の頭を越えて、赤司の頭も越え、そしてゴール前に構えていた紫原の前に落ちようとしていた。
青峰がそれを視認した時には、スクアーロは既にボールを追って紫原の数メートル手前まで迫っていた。

「あんたがどんだけ早くても、オレが止めるだけだし。」
「ならっ、止めてみやがれぇ!!」

落ちてくるボールに紫原が腕を伸ばす。
スクアーロは高く飛び上がって、彼がボールを掴むギリギリ手前で、ボールを弾いた。

「ちょっと!乱暴すぎでしょ!」
「勝てんなら何でも良いんだよ!」

弾かれたボールは横に飛び、コートから出そうになっている。
それを予期していたかのように、スクアーロは弾丸のように走って追い付き、そして再び上空へとボールを投げた。
しかし他のキセキが追い付くよりも早く、ボールはスクアーロの目の前へと戻り、そして……

「シュートぉ!!」
「なんだそりゃ!!」

思わずと言った様子で青峰が叫ぶ。
それも当然だ。
スクアーロのシュートはバスケのフォームではなく、明らかにサッカーのフォーム、しかもオーバーヘッドキックだったのだから。

――がすん!

しかもそのボールが上手いことにリングへとすっぽり入っていく。

「よっしゃぁああ!!」
「反則だろそれー!!」

スクアーロの雄叫びと青峰の渾身の叫びがコートに木霊していった。
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