鴇様(群青)

ある日の、ことだった。

「王子も行く!行く行く行く!行くったら行く!」

ベルのそんな駄々を切欠に、要人の暗殺任務に同行することが決まった。
任務は単純にとある人物の暗殺を行うだけのものだけれども、問題はそいつを守る壁の数々だ。
様々なトラップやらボディーガードやらが待ち構えている。

「……下手をしたら自分が死ぬかもしれないってこと、ちゃんとわかってんのかぁ?」
「しし、オレが死ぬわけないじゃん。だってオレ、王子だもん」

オレは深いため息を吐いて、その任務に着いていくことを決めた。
今回参加するのは、部下二人にベルとオレの、合わせて四人。
いつもなら二人か三人程度で行かせるような任務だが、仕方がない。
人数が多いと、敵にバレる心配が増えるんだがなぁ……。

「……大丈夫なんですか、隊長」
「このガキ、いくら天才って言ったって実践経験はないんだろう?」
「オレが手綱握る。お前らは自分達のことだけ考えてろぉ」
「畏まりました」
「……わかった」
「ありがとうな」

部下二人はオレ達とは別のルートから入る。
オレ達は二人とは逆から入り、そして適当に暴れて敵を引き付ける。
いわゆる囮の役割だ。
まあ、ベルにはその役割を話していないのだが……。

「良いかぁ、絶対に敵に正体を悟らせるなよぉ」
「わかってるっての!いーから早く殺りに行こーぜ」
「はあ……ったく……」

駆け出そうとしたベルの襟ぐりをひっ捕まえて、飛び出すのを阻止する。
不満そうに口を尖らせたベルを注意しようとした、その瞬間だった。

「何者だっ!!」
「な……!?」
「ししっ!獲物はっけーん!」

オレとしたことが、敵の接近に気付けなかった。
しかもうっかり、ベルを離してしまった。
あっという間に敵に迫ったベルが、敵の喉を掻き切る。
ベルは自慢げな顔をして振り返る。
確かに鮮やかな手際だったが、そう言うのは敵を全部倒してからやってほしい。
オレはベルの頭を抱えるようにして倒れ込み、迫ってきていた銃弾を避けた。
いや、避けきれなかった……。
肩に凄まじい衝撃を感じ、激しい痛みに涙が滲む。
くそ……油断しすぎだろうが、オレのバカ。
敵が次の攻撃をしてくる前に、何とか起き上がって一旦ベルを抱えて引く。
ベルの馬鹿は突然のことに衝撃を受けたのか、動くこともできないみたいで、ただただ成されるがままになっていた。

「ス、スクアーロ……?」
「る、せぇ。黙ってろぉ」

肩の傷は、そこまで深刻なものではない。
手早く紐で縛って止血し、すぐに敵の様子を窺う。
相手はどうやら、仲間と連絡を取っているらしい。
やはり、用心深いな。
深追いする気も無さそうだ。
取り合えず、こうなったら……。

「正面から戦うのはなしだぁ。武器を最大限に使いながら、敵を翻弄する。お前も、ワイヤーとナイフ使ってやってみろぉ」
「え、でも……」
「出来る。やれ」
「わ、わかっ……た」

ほとんど強制的に頷かせる。
ここまで来て出来ないとか言われたら、流石にオレもキツい。
ベルに指示を出してワイヤーを操らせ、オレも懐から武器を取り出して戦いへと参じたのだった……。
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