鴇様(群青)

それから、スクアーロとベルフェゴール……ベルは、毎日のように二人一緒に行動していた。
スクアーロのデスクワーク中には、ベルがベッタリと側に張り付いて、仕事の中身を覗く。
スクアーロもスクアーロで、将来的には彼を幹部へと育てるつもりなのだろう、詳しく仕事を教えてやる。
そしてベルが詰まらなそうにし始めると、息抜きと称した殺し合いが始まる。
二人にとってはじゃれ合い程度なのだろうが、見てる方からすればハラハラして見ていられない。
しかし数ヵ月もすれば、ベルはスクアーロの扱っていたワイヤーをすっかり覚え、自らの技へと昇華させるに至っていた。

「やるじゃねぇかぁ」

スクアーロが満足そうにそう言えば、ベルはニヤリと笑って、

「あったりまえじゃん。だってオレ、王子だもん」

と言い返す。
その言葉をきっかけに、また戦いへと戻る二人を見て、私は羨ましさすら感じていた。

「良いわねぇ、男の子同士の友情みたいなのって……」
「あんたがそれ言うと、危ない意味に聞こえるぞ」
「やあねぇ!純粋に感動してるだけじゃない!」

私ことルッスーリアは、じゃれ合う二人を眺めながらため息を吐く。
私もあんな風に遊べる相手がいたらよかったのに。
二人はまるで兄弟のようで、喧嘩をしながらもその表情は、とても生き生きとしていた。

「ししっ、あーきたっ!なースクアーロ、おやつ寄越せよ。なんかあんだろー?」
「お前なぁ……。すぐに出してやるから、手ぇ洗ってこい」
「しし、わかったー!」

……兄弟、って言うか、親子?
何でかしら、スクアーロの言葉は時々、変に所帯染みてるところがあるのよね。

「王子イチゴのタルトな!イチゴがいっぱい乗ってるやつ!」
「わかったわかったぁ。さっさといってこい」
「王子のタルト取るなよ!」
「誰がんなみみっちぃ真似するかぁ!」

スクアーロに蹴飛ばされるようにして駆け出していったベルは、初めてここに来た頃よりも、ずっと年相応に見える。
それに、スクアーロも。

「あんた、ちょっと明るくなったんじゃない?」
「あ゙あ?」
「あの子が来て、いい息抜きが出来てるのかしらねぇ?」
「息抜きだぁ?ガキの子守りなんて疲れる以外の何者でもねぇだろぉがぁ」

そんな憎まれ口を叩いてはいるけれど、先代のボスが死んだばかりの頃と比べると、だいぶ雰囲気が軽くなったように思う。
まだよく無理はするけれど、前と比べれば彼が頼れる人間も増えた。
それは一重に、彼の素直さや、優しさが理由なのだろう。

「……ねぇ、あんたさぁ」
「今度はなんだぁ」
「私と寝てみなぁい?」

別に本気だった訳じゃないけれど、何となく誘ってみた。
遊んでみるつもりだったのに、スクアーロはキョトンとして首をかしげる。
もうっ、察しが悪いわねぇ。

「は?」
「私、上でも下でもイケるわよん?」
「なんの話だぁ?」
「やぁねぇ、かまととぶらないでよぉ!攻めるか受けるかって話!」
「?攻めるか守るかじゃないのかぁ?」
「……それ、本気で言ってんの?」
「はあ?ごく普通のことを言ってるだけだろうがぁ」
「……」

言えば言うほど混乱したような言葉が返ってきて、最終的に私は言葉を失った。
この子、女っ気がないとは思ってたけどまさか、そっち方面の知識がまったくなかったとはね……。

「……なぁんか、馬鹿らしくなっちゃったわねん……」
「だからさっきから何の話を……」
「あんたもまだまだ、子どもだったってことねぇ……」
「だから何の話だぁ?」

考えてみれば、彼はまだ14歳で、私より3つも下で、それなのにあんなに忙しく働いていれば、そりゃあそんなこと知る機会も暇もないんだろう。
一人で納得した私に呆れたような視線を向けて、スクアーロは訓練室を出て歩いていく。
きっとベルにおやつを用意してあげるつもりなのだろう。

「うん、あの子にばっかり頼ってるような、情けない先輩じゃダメよねん!」

明日からはもうちょっと、お仕事頑張ろうかしら。
そしたら彼にも、少しは遊べる時間が増えるでしょうしね。
しかしそんな決意虚しく、翌日机の上に乗っていた書類の山を見て私の心は折れたのだった。
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