mono様(群青)

1週間後、オレは別人になっていた。
いや、冗談ではなく、変装しているっつー意味で。

「ふん、まあ見れなくはねぇか」
「どこまで偉そうなんだぁ、お前は」

どこまでも偉そうなザンザスに呆れてため息を吐く。
気紛れに付き合ってこんな格好してやっていると言うのだから、もうちょっと誉めてくれたって良いのに。

「で、パーティーにあのへなちょこは来るのか?」
「へなちょこ……ディーノは後から遅れて参加するとよぉ」
「チッ、つまらねぇな」
「何する気だったんだぁ、お前」

ザンザスは鼻を鳴らして、その後はもう興味をなくしてしまったように黙ってしまう。
本当に自由気ままだ。
まあ、そこもこいつの、良いところなのだろうが。
……さて、そんなことをしている内に、オレ達はパーティー会場へと到着した。
毎度思うが、ボンゴレはやることなすこと、規模がでかい。
巨大な城を貸しきって行われる今回の懇親パーティーも、設えは派手ではないが、やたらと金がかかっているし、そんなパーティーに訪れる客達も、高級そうなドレスやスーツを身に纏っている。
ザンザスもまた、オーダーメイドの超高級スーツを着て、真っ直ぐ一番上座に近い席へと歩いていく。
この会場内で一番貫禄を醸し出している。
オレはその3歩ほど後ろから離れずに付き従っていく。
濃紺のドレスが、それに合わせたパンプスが、酷く歩きづらい。

「トロトロしてんな。置いてくぞ」
「っせぇな、わかってる」

周りには聞こえないほどの、小さな音量でザンザスの声が聞こえた。
オレも倣って、小声で返す。
近くにいる奴らはザンザスを恐れて近付いてこないので、会話をするには良いタイミングだ。

「チッ、くだらんドカスどもが……。人のことをじろじろと見やがって」
「それだけお前が、慕われてると言うことだろぉ。ありがたく受け取っておけぇ」
「けっ」
「それより、他のマフィアのボスへの挨拶を……」
「しねぇ」
「……やっぱりかぁ」
「いつも通りお前がやりゃあ良いだろう」
「この格好でかぁ?」
「……普段と大して変わらねーだろ」
「胸を見て言うのやめろ!」

ああ、まあ、パーティーに参加しているって時点で十分及第点なのだ。
挨拶くらいは多目に見てやるか。
どっかりと座席を陣取ったザンザスに、気付かれないようため息を落とす。
仕方ない。
どうせ挨拶なんて向こうから来るんだ。
ザンザスはその時黙ってここに座っていてくれれば良いか。
一番始めに来たのは、やっぱり、と言うかなんと言うか、ザンザスをこのパーティーへと誘った張本人、沢田綱吉だった。

「ザンザス!来てくれてありがとう!」
「帰れ、ドカス」
「いやいや、オレ主催者だよ!?そんな簡単に帰れないよ!」
「おい、適当にあしらってオレの視界の外に行かせろ」
「そう言うことは本人に聞こえないように言うものじゃないの!?」
「……はいはい」

相変わらずのツッコミを披露する沢田と、今にも拳銃を取り出しそうな凶悪な顔をするXANXUSの間に入って、まずは一度頭を下げた。
顔も髪型も、かなり変えているし、恐らくバレることはないだろうと考えていたのだが、どうやらその考えは甘かったらしい。

「本日はお招きいただき、大変ありがとうございます」
「ああ、いや、お礼なんて……。……ん?あれ?…………スクアーロ?」
「……」
「ぶはっ!早速バレたか、カスザメ」
「本当にスクアーロ!?何その格好……ぶぷっ!」
「お前らぁ……」

あっという間にバレて、しかも涙が流れるほどに笑われた。
これもまた超直感の仕業なのだとしたらオレは初代ボンゴレを恨む。

「た……確かにぷぷ……こういう場には女の人と来るもんだけど……くっ……スクアーロを選ぶなんて……ふふっ!」
「……オレが同伴で何か文句あるのかぁ」
「ふふ……別にないよ?まあ二人ともゆっくりしてって……ぶふっ……ね!」
「笑い過ぎだろぉ……」
「ご、ごめんごめん……。とにかくオレはカッ消されない内に退散するから、また後でね!」

言いたいことだけ勝手に言って、沢田はどこかに消えていった。
たぶん、守護者達の元だろう。
……もしアイツらにも正体がバレたら、その時こそは変装やスパイ活動の辞めどきなのかもしれない。

「XANXUS様、ご無沙汰しております」
「……おい」
「はい、私が」

沢田が去った後、早速挨拶に来た男を、詰まらなそうに見て、XANXUSがオレを呼んでくる。
媚びへつらって笑う男を見て、オレは人知れずため息を吐いた。
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