陽炎様(群青)

「あの骸から、会いたいって言われた時点で、おかしいって思うべきだったよ……」

疲れたような表情で、そう語った沢田いわく、彼らは全員、六道骸にここに来るように指示をされたと言うことだった。
つまり、オレを襲ったこのトラブルも、奴らにそれを見られてしまったと言うことも、全て六道骸の仕業であると言うことだ。

「あのカス……!たたっ斬る!!」
「それ以前にその胸何とかしないと、まともに動き回ることもできないんじゃないのー?」
「ぐっ……!」

白蘭に指摘されて言葉に詰まる。
そうなのだ、慣れないこの体では、ろくに走ることも出来やしないのだ。

「まあ……同情する」

酷く同情した面持ちで言ったのはアーデルハイトである。
彼女もまた戦う女性として共感する部分があるのだろう。

「揺れるもんな、その大きさだと。アーデルいっつも揺らしてて痛くねーの?」
「好きで揺らしてる訳じゃない!」

わきわきと手を動かしながら、アーデルハイトに絡もうとしたジュリーを、炎真とアーデルハイトがあっという間にシめる。
その様子を見て、若いな、なんて思ってしまうのは、やはり歳のせいなのだろうか……。

「だがこうなると、あんたも女にしか見えないな」
「お、獄寺気になっちゃう感じなのな?」
「そりゃお前だろーが野球バカ!さっきから全然目ー合わせてねーだろ」
「そんなことねーって!」

獄寺に言われた山本が、じっとオレのことを見詰めてくる。
対抗するように見詰め返してみた。

「……」
「……」
「…………っ、やっぱ無理っ」
「どういう意味だぁ」

じわじわと顔が赤くなって、最終的には顔ごと目を逸らされた。

「だってスクアーロがスクアーロじゃないみたいで……」
「……どんなになっても、オレはオレだぁ。見た目で惑わされてんじゃねぇぞ、カス」
「だってなぁ……」

むっと口を尖らせて、山本がチラリとオレの胸に視線を送る。
すぐにまた視線を逸らされたけれど、何となく腕で胸を隠した。

「……見てんじゃねーよ」
「だってー……」

不満げな顔をされる。
オレの方がずっと不満だ。
山本の側にいるのが何となく嫌になって、モゾモゾと動いてディーノの側に近寄った。

「それにしても、骸もよくやるよ……。スクアーロがこう言うの嫌がること、分かっててやるんだもんね」
「ふふ、それだけスクアーロさんのことが好きなんですよ」
「小学生の初恋かよ……」
「好きな子をいじめることでしかスキンシップ取れない的な?」
「理屈はそうかもしれねーが、スケール比べ物にならなくねーか?」

なるほど、あいつはそんなにオレの事が好きだったのか。
今度会ったときには思いっきり可愛がってあのヘタ刈ってやろう。
ミルフィオーレ組の意見を聞いて、オレのイライラ度は更に増す。

「それよりもスクアーロさん!せっかくいつもよりもっと女の子らしくなったんですから、元に戻る前に色んなことして楽しみましょう!」
「はあ……?」
「お洒落して、お買い物して、遊んで……。そうだ!アーデルハイトさんも一緒に楽しみましょう?女子会です!」
「は!?」

ユニが手を打って言った言葉に、オレとアーデルハイトは素頓狂な声をあげる。
女子会って……そもそもオレはもう女子なんて呼べる歳でもないだろう。

「……嫌ですか?」
「別に……、お前と遊ぶのは嫌じゃあねぇが……」
「女子会が嫌なんだろ?」
「ん……まあ……そうなる、かな」

ディーノの言った通り、女子会というのは嫌だと思った。

「オレは、女扱いされて、枠に填められるのが嫌だ……」
「思春期か」
「うるせぇなぁ!」

沢田に冷静に突っ込まれる。
下らないこと言ってるっていうのはわかってるけれども、それはオレにとっては大事なことだし、ヴァリアーのものとしての、ささやかなプライドなのだ。

「くだらないとか、ちいせぇとか、言いたいなら好き勝手言ってくれて構わねぇよ。自分でも思うし……、そんなことくらい我慢すればいいって思うが……。我慢して、付き合いを続けたいんじゃあ、ないからな……」

そう言って、やっぱり恥ずかしいと言うか、情けなくなった。
下らないこだわりだよな。
わかってる。
わかってるけど、コイツらに対して無理に自分を偽って付き合うのは嫌なのだ。
頬を膨らましてそっぽを向いた。
先程まで以上に、見られることが恥ずかしかった。
視線から逃げるようにうつ向いた。
そのオレの頭に、おもむろにぽんっと手が乗せられた。

「……?なに?」
「スクアーロ、下らないことにこだわってるね」
「あ゙あ!?」
「でも、スクアーロにとっては、大事なことなんだね」
「……」

ぽふぽふと、子どもを宥めるように頭を撫でられた。
不満げに見上げたオレに、沢田は穏やかに微笑みかけてきた。
気配を感じて顔を上げようとすると、色んな場所から伸びてきた手が、オレの頭を撫で回してきた。

「ゔお!?」
「スクアーロさんがそう言うのなら、みんなで遊びにいきましょう!」
「スクちゃんは変なとこで可愛いよねぇ♪」
「これで三十代とか詐欺だよなー」
「アーデルもこんくらい可愛いこと言ってみろよ?」
「う、うるさいな……」
「アーデルは今のままで良いんだよ」

別に全員に撫でられたわけではないが、周りの奴らみんなが暖かい目で見てきている。
いや、獄寺や三兄弟はそんなこともなかったが、それでも別に否定的な視線は感じなかった。
最後に、横から伸びてきた手が頭を撫でた。

「うん、やっぱどんな格好になっても、お前はお前だな」
「はあ?」

ディーノがそう言いながら、頭の後ろを包み込むように手を当てる。
コツっと額をぶつけ合って、間近にある鳶色の瞳を見詰める。

「な、なんだよ……」
「強情で、プライド高いって思うけどさ、そこがお前の良いところなんだろうな」
「はあ?」
「あー……つまりさ。体の形変わろうと、どんだけ年食おうと、お前のことが好きだよってこと」
「は……はあ!?」
「変わったところも、変わらないところも好きだぜ」
「っ……!恥ずかしい奴……!」
「そーか?」

ヘラヘラと笑うバカの頭を遠ざけて、立ち上がった。
まったく、こんな奴らと一緒にいられるか。
部屋に戻って、一人のんびりとしていよう。
ユニには悪いが、遊ぶってのはまた今度だ。

「どこ行くんだよ?」
「部屋だぁ!」

獄寺の問いに、怒鳴るように答えたその瞬間、突然体がカアッと熱くなった。
思わず立ち止まったその瞬間、オレの体を白い煙が包んだのだった……。
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