深山様その2(群青)
「――……まさか、自分達の参加しているパーティーが『餌場』として利用されていようとはね」
不機嫌そうに言ったラニャテーラのボスに、オレは曖昧な笑みを浮かべる。
今回のパーティーには、ラニャテーラだけでなく、その他大勢の大物マフィアが招かれていた。
ボンゴレに敵対し、その地位を貶めようと狙う敵にとっては、またとない絶好のチャンスだ。
パーティーを襲撃し、9代目を……今回の場合は9代目の名代である沢田綱吉達を狙う。
彼らが殺せなくても、パーティーの参加者達に少しでも危害が加えられれば、そこから同盟にヒビを入れることも不可能ではない。
「不快な思いをさせましたか?」
「……いや、素晴らしいショーを見せてもらったよ」
ラニャテーラの機嫌は、少し回復してきているようだ。
……しかし、ショー、ね。
オレとしては大真面目に敵を倒していただけの事だったのだが、あれは彼にとってはショーに見えたらしい。
あまり気持ちの良い話ではないな。
人の命を懸ける仕事を、ショーと呼ばれるのは……。
「まさか君が、あそこまで強いとは思わなかったよ」
「……そんな、私などまだまだです」
「謙遜を……。あそこまで凄まじいナイフ捌きを見たのは、初めてだ」
「……」
「ヴァリアーの者達もいたな。君はヴァリアーの隊員なのかね?」
「いいえ、違いますが」
隊員じゃあない。
隊長では、あるが。
「会えば会う度に、謎が深まっていくね、君という人は」
「浅い人間ですよ、私は」
「ふ……まあいい、ボンゴレの底力を見てしまった上に、君が私などには飼い慣らしようもないジャジャ馬だということもわかった。もう、君に無理を言うことはしない。ボンゴレに逆らう気もない」
「それはそれは……、賢明なご判断です」
にこり、オレが微笑む。
対するラニャテーラの微笑みは、少しぎこちなかった。
「いったいそのか細い腕で、何人の人間を殺めてきたんだね?」
「……数えようもないほど。軽蔑なされますか?」
「……いいや、そうではない。そうではないが……」
意味ありげにこちらを見る彼に、首を傾げて返す。
「君が、とても遠くに感じる」
「……そう、ですか?」
眩しそうに目を細めているラニャテーラには、オレはどう見えているのだろう。
彼の手が頬に伸びてきたのを、無表情のまま見下ろす。
「これで、私が君に会うのは最後になるんだろうね」
「?そんなの……未来になってみなければわからないじゃないですか」
「……ふふ、君のそういうところ、私は好きだよ」
「え……」
好きだ、なんて、この人らしくもなく、ストレートな言葉。
驚いたオレの隙を突いて、ラニャテーラは軽く額に唇を付けて、部下を引き連れて踵を返す。
「では、またいつか会おう。名も知らないお嬢さん」
気障に別れを告げて歩き去っていく彼を、オレは呆然と見詰める。
今のは、どういうことなんだろう。
気にしたら負け、なのかもしれない。
しかし気にせずにはいられない連中がオレの側にはたくさんいる。
「……あいつ斬ってくれば良いのな?」
「良くないよ!何言ってるの山本!?」
「我々も同行しよう山本武」
「ギャー!ヴァリアー来たーっ!!」
「10代目、バカはほっといてオレらは帰りましょうよ」
「むっ!極限何かの祭りか!!」
「帰っちゃダメだし祭りじゃないからー!!」
殺気立つ仲間達を宥めようと、口を開く。
だが突然額に強く掌を押し当てられて、それは叶わなかった。
「は、跳ねう……いぃでででっ!?」
オレが言い切るよりも早く、ディーノはごしごしと額を擦る。
慌てて離れたが、あれだけ強く擦られたら、額は真っ赤になっているだろう。
文句を言おうと口を開く。
しかしまたしても、オレは言葉を口に出すことが出来なかった。
ゴツい掌に優しく口を覆われて、額にキスを落とされる。
「っ……」
「バカ……」
「な……あ、お゙い!」
それだけ言って、離れていこうとするディーノを慌てて捕まえる。
奴の顔は、耳まで赤い。
普段はこんなこともしないし、赤くなったりもしないくせに、こういうとき、すぐに顔色を変えるなんて、ちょっとズルい。
捕まえた手を軽く引き、耳元に口を寄せる。
「……オレは、お前だけだぜ?」
「え……?」
「キスされて、触れられて、嬉しいと思うのは、お前だけだ」
「……っ!」
ふっと、表情を緩めて、耳の端に口付ける。
さっきよりも赤くなった顔に、思わず笑いがこぼれた。
「何赤くなってんだぁ?」
「べ、別に赤くなってなんてねーって!ただその、オレも……そう思う」
「……そうか」
お互いに微笑みあって、オレもまた少し、頬を染める。
その様子を見ていた何人かもまた、顔を赤くして目を逸らしていた。
「っ……スクアーロが何か変なのな……」
「人前でイチャイチャしてんじゃねーよ、このバカップルども!果たすぞ!」
「いーなぁ、オレも京子ちゃんと……」
「む、京子がどうかしたのか?」
「な、何でもないデス!」
山本は顔を赤くしながらも、オレ達とは正反対に酷く不機嫌そうにしている。
うん、部下達に指示も出さなければならないし、さっさと着替えて、いつも通りに仕事を始めるか。
――そうして、波乱のパーティーは幕を閉じ、オレ達はまた、日常へと戻っていく。
「スペルビ!もっかい!もう一回だけドレス着ようぜ!な!?」
「嫌だって何度言ったらわかるんだこのカス馬がぁ!!!」
「はぎゃ!?」
……一部のバカを残して。
不機嫌そうに言ったラニャテーラのボスに、オレは曖昧な笑みを浮かべる。
今回のパーティーには、ラニャテーラだけでなく、その他大勢の大物マフィアが招かれていた。
ボンゴレに敵対し、その地位を貶めようと狙う敵にとっては、またとない絶好のチャンスだ。
パーティーを襲撃し、9代目を……今回の場合は9代目の名代である沢田綱吉達を狙う。
彼らが殺せなくても、パーティーの参加者達に少しでも危害が加えられれば、そこから同盟にヒビを入れることも不可能ではない。
「不快な思いをさせましたか?」
「……いや、素晴らしいショーを見せてもらったよ」
ラニャテーラの機嫌は、少し回復してきているようだ。
……しかし、ショー、ね。
オレとしては大真面目に敵を倒していただけの事だったのだが、あれは彼にとってはショーに見えたらしい。
あまり気持ちの良い話ではないな。
人の命を懸ける仕事を、ショーと呼ばれるのは……。
「まさか君が、あそこまで強いとは思わなかったよ」
「……そんな、私などまだまだです」
「謙遜を……。あそこまで凄まじいナイフ捌きを見たのは、初めてだ」
「……」
「ヴァリアーの者達もいたな。君はヴァリアーの隊員なのかね?」
「いいえ、違いますが」
隊員じゃあない。
隊長では、あるが。
「会えば会う度に、謎が深まっていくね、君という人は」
「浅い人間ですよ、私は」
「ふ……まあいい、ボンゴレの底力を見てしまった上に、君が私などには飼い慣らしようもないジャジャ馬だということもわかった。もう、君に無理を言うことはしない。ボンゴレに逆らう気もない」
「それはそれは……、賢明なご判断です」
にこり、オレが微笑む。
対するラニャテーラの微笑みは、少しぎこちなかった。
「いったいそのか細い腕で、何人の人間を殺めてきたんだね?」
「……数えようもないほど。軽蔑なされますか?」
「……いいや、そうではない。そうではないが……」
意味ありげにこちらを見る彼に、首を傾げて返す。
「君が、とても遠くに感じる」
「……そう、ですか?」
眩しそうに目を細めているラニャテーラには、オレはどう見えているのだろう。
彼の手が頬に伸びてきたのを、無表情のまま見下ろす。
「これで、私が君に会うのは最後になるんだろうね」
「?そんなの……未来になってみなければわからないじゃないですか」
「……ふふ、君のそういうところ、私は好きだよ」
「え……」
好きだ、なんて、この人らしくもなく、ストレートな言葉。
驚いたオレの隙を突いて、ラニャテーラは軽く額に唇を付けて、部下を引き連れて踵を返す。
「では、またいつか会おう。名も知らないお嬢さん」
気障に別れを告げて歩き去っていく彼を、オレは呆然と見詰める。
今のは、どういうことなんだろう。
気にしたら負け、なのかもしれない。
しかし気にせずにはいられない連中がオレの側にはたくさんいる。
「……あいつ斬ってくれば良いのな?」
「良くないよ!何言ってるの山本!?」
「我々も同行しよう山本武」
「ギャー!ヴァリアー来たーっ!!」
「10代目、バカはほっといてオレらは帰りましょうよ」
「むっ!極限何かの祭りか!!」
「帰っちゃダメだし祭りじゃないからー!!」
殺気立つ仲間達を宥めようと、口を開く。
だが突然額に強く掌を押し当てられて、それは叶わなかった。
「は、跳ねう……いぃでででっ!?」
オレが言い切るよりも早く、ディーノはごしごしと額を擦る。
慌てて離れたが、あれだけ強く擦られたら、額は真っ赤になっているだろう。
文句を言おうと口を開く。
しかしまたしても、オレは言葉を口に出すことが出来なかった。
ゴツい掌に優しく口を覆われて、額にキスを落とされる。
「っ……」
「バカ……」
「な……あ、お゙い!」
それだけ言って、離れていこうとするディーノを慌てて捕まえる。
奴の顔は、耳まで赤い。
普段はこんなこともしないし、赤くなったりもしないくせに、こういうとき、すぐに顔色を変えるなんて、ちょっとズルい。
捕まえた手を軽く引き、耳元に口を寄せる。
「……オレは、お前だけだぜ?」
「え……?」
「キスされて、触れられて、嬉しいと思うのは、お前だけだ」
「……っ!」
ふっと、表情を緩めて、耳の端に口付ける。
さっきよりも赤くなった顔に、思わず笑いがこぼれた。
「何赤くなってんだぁ?」
「べ、別に赤くなってなんてねーって!ただその、オレも……そう思う」
「……そうか」
お互いに微笑みあって、オレもまた少し、頬を染める。
その様子を見ていた何人かもまた、顔を赤くして目を逸らしていた。
「っ……スクアーロが何か変なのな……」
「人前でイチャイチャしてんじゃねーよ、このバカップルども!果たすぞ!」
「いーなぁ、オレも京子ちゃんと……」
「む、京子がどうかしたのか?」
「な、何でもないデス!」
山本は顔を赤くしながらも、オレ達とは正反対に酷く不機嫌そうにしている。
うん、部下達に指示も出さなければならないし、さっさと着替えて、いつも通りに仕事を始めるか。
――そうして、波乱のパーティーは幕を閉じ、オレ達はまた、日常へと戻っていく。
「スペルビ!もっかい!もう一回だけドレス着ようぜ!な!?」
「嫌だって何度言ったらわかるんだこのカス馬がぁ!!!」
「はぎゃ!?」
……一部のバカを残して。