域市様(復活×黒バス)

「……や、…………なみや!」

朦朧として、霞がかった意識の中に、声が1つ、投げ掛けられる。
波紋が立つ。
細波を呼ぶ。

「……きろ!花宮!!目を開けろ!」

次第に明瞭になってきた意識が、自分の名前を拾いあげる。
水から浮かび上がるような感覚と共に、花宮は瞼を持ち上げた。

「う……ここは……?」
「は、花宮!」
「良かった……!
おい花宮、どっかおかしいところないか!?
体が痺れてるとか、動かないところがあるとか……!」
「は……?っ、頭が、いてぇ……。」

後頭部を触ると、ぬるりとした生暖かい感触があった。
じんじんと痺れるような鈍痛。
手を視界に戻すと、指の先には赤黒い液体がついている。

「お前、頭殴られて気絶してたんだぞ、花宮。」
「瀬戸……。」
「傷口以外に、異常はないか?」
「お前自分で起きたのか?
雨降ってないか?」
「よし、大丈夫みたいだな。」

いつも通り、よく回る舌でそう言った花宮に、仲間達は胸を撫で下ろす。
特に異常はないらしい。
体を起こした花宮は、まずは自分の置かれた状況を確認しようとした。
そんな彼の状況を、すぐに理解できるモノが、彼の目の前に突き付けられる。
即ちそれは、黒光りする、鉄の塊。
カチャリと言うのは、撃鉄を起こす音。
漂うのは、硝煙の匂いか。
花宮の鼻先に突き付けられたそれは、重たそうな拳銃、だった。

「なっ……。」
「チッ!さっきからゴチャゴチャとうるせぇぞガキ!!
黙って大人しく、人質になってろ!」

目の前に、黒い軍人服のようなものに身を包み、ゴーグルで顔を隠した男が立っていた。
少し訛りのある日本語から、外国の人間らしき事が伺える。
一瞬頭を過ったのは、あの金銀カラフルと派手な髪の色やら形やらをした集団。
しかしどうやら、目の前の男と彼らとは少なくとも味方同士ではないらしい。
何故か、理由は明確である。
その男の向こう側で、あの派手な集団が、『目の前の男と同じ格好の男達を人質にして』立っていたからである。

「……人質とって立て籠ってる集団が二組いるって解釈であってるか?」
「惜しいな。
正確には、この黒軍服の集団がオレ達を人質にとったは良いが、油断した隙に仲間をあの連中に人質にとられて現在交渉中、ってところだ。」
「なるほど、お前の目がバッチリ開いてる事にも納得がいく。」

つまり、あの時自分の後頭部を殴って気絶させた連中が、目の前にいる奴らで、オレ達を人質に何かをしたいらしいが、行動を起こす前に仲間を捕まえられて人質にとられたと……。
そこまで考えて、花宮は頭を抱えたくなる。
なんてややこしいんだ!と。

「こういうときは、単純に考えよう。
単純に、単純に……。」
「ねぇちょっとザキ、花宮大丈夫なの?」
「オレが知るかよ。」

状況を整理するに、黒軍服は敵、そしてあの派手な集団は味方、らしい。
詳しいところはわからないが、あの連中が黒軍服を人質にしているお陰で、自分達が無事なのだから(花宮本人は決して無事とは言えないが)、今のところは、一応味方と考えて良いだろう。
そうなると、自分達はどうすれば良いのか。
目を閉じて、思考を巡らせる。
一度開いて、自分の周囲を観察する。
パーティーの食事が置いてあるテーブル、その上のテーブルクロスに料理に食器、観葉植物、美しい氷の彫刻、上手いのか下手なのかわからない絵画、壊れて明かりの消えたシャンデリア、大理石の床、誰かが落としたハイヒール、割れて床に落ちた窓ガラス。
隣で同じように、考え込んでいた瀬戸に、花宮は話し掛けた。

「瀬戸。」
「どうした花宮。」
「やっぱ頭いてぇ、やべぇ。」
「……それはまずいな。
すぐにでも手当てをしないと。」
「包帯がわりに、ナプキンなんて良いんじゃねーか?」
「そうか?テーブルクロスも、なかなか使えると思うぞ。」
「どっちでも良いからよ、軍服どもに聞いてみろよ。」

友達の手当てをしても良いか、ってな。
悪童・花宮真の唇が、ゆっくりと弧を描く。
頷いた瀬戸が、立ち上がった。


 * * *


「ったくカスがぁ。
何で主催者のボディーガードの中に、テロリストが混ざってやがる!」
「起こっちゃった事グダグダ言ってもしょうがないでしょー?
とりあえずこっちも人質とって、お相子ってところまでは持ち込めたんだもの。
さっさとあの子達救出する作戦、考えなさいよぉ。」
「しし、作戦隊長だろ?」
「さっさとしろスクアーロ!」
「ムム、こんな面倒なこと、早く終わらせようよ。」
「テメーらぁ……好き勝手言いやがって!」
「だから怒ってる暇ないでしょ!」

パーティー会場にて、花宮達を護衛していたヴァリアーの面々は、苛立ちを露に拘束して床に転がしてある軍服男を踏みつけながら、作戦会議を始めていた。
数分前、スクアーロが花宮から視線を逸らした、その隙を、敵は巧みに突いてきた。
主催者のボディーガードをしていた男が、するりと両者の間に入り込んだ。
男が手を振り上げたのに気付いたときには、もう遅い。
男の袖から現れたブラックジャックが、あっという間に花宮の意識を奪い、それが合図だったのか、窓ガラスを割って、黒い軍服らしきものを来た男達が現れたのだ。
軍服達が、花宮の近くにいた少年達を捕まえ、近くにいた客は悲鳴を上げて逃げ惑う。
しかしスクアーロ達の動きも早かった。
ベルフェゴールとスクアーロが、あっという間に近くにいた数人の軍服を戦闘不能にして捕らえる。
マーモンの幻術が発動し、残りの軍服達を捕らえようとした。
しかしマーモンの術は失敗に終わる。
銃声と共に、突然部屋の電気が落ちたのだ。
テロリスト達が咄嗟にシャンデリアを壊したらしい。
マーモンの動きが止まる。
そして態勢を立て直したテロリスト達と、暗闇に慣れたスクアーロ達は、現在も続くこの膠着状態に入ったのである。
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