深山様その2(群青)
「まったく、いくら相手を好いているからと言って、仕事の邪魔をするのは如何かと思うがね?」
ラニャテーラが皮肉っぽくそう言う。
「ははは、護衛で仕方なく側にいる子相手に無理矢理迫ろうとするのもどうかと思いますけどね」
ディーノが敵意をたっぷり滲ませて言う。
「……お疲れでしょう、お飲み物でもお持ちしましょうか」
せめて一瞬でもこの場から逃れたくて言ったオレ。
「君が気にかけることではないよ」
「お前は気にせず、自分の仕事に集中してくれよ」
しかしその願いは叶わず、自分の手首は二人にガッチリと掴まれて、動くことすらままならない。
「あそこ、スゴいな。大マフィアのボスが二人も……」
「真ん中の女は誰だ?」
「女の取り合いか?」
「あれだけ美人なら取り合うのも頷けるが……」
「お前あの中入ればどうだ?」
「ムリムリ!あんなところ怖くて入れねーよ!!」
「あの娘も可哀想に……」
可哀想なんて思うなら早くここから助け出してくれないだろうか。
さっきからすれ違う部下達にも同情の目を向けられているが、同情ではこの状況は乗り越えられない。
ふと目を上げると、遠くでこちらを見ていたらしい沢田達と、視線がぶつかった。
「……」
「……」
無言のまま、目を逸らされる。
山本は曖昧に笑って顔を逸らす。
どういうことか、ちくしょう。
なぜオレがこんなに惨めな思いをしなくてはならないのか。
さっきなんてラニャテーラの人間にまで同情の目を向けられた。
「……そう言えば、今回9代目はご出席なされてはいないのかね?」
「ええ、今回は9代目の名代として、沢田綱吉他3名の守護者が出席しております」
「ほう、では挨拶に伺おうか」
「……いえ、その必要はないようです」
ラニャテーラの向こうに見えた部下の様子に、オレはようやく安堵の息を吐いた。
ディーノに目配せをすれば、その意図に気が付いたのか、これまでのことが嘘のようにさっと手を離す。
「一体どういう……」
不審そうなドン・ラニャテーラの問い掛けに、オレはにこりと愛想よく笑って答えた。
「これからが、本当のパーティーの始まり、ですよ」
ラニャテーラの手を強く引く。
バランスを崩して、ふらりと傾いだ彼の体を支えて、『飛んできた弾丸を弾き飛ばした』。
「今回の主賓は、この場にいる誰でもなく、今からここに攻め込んでくる、愚かで頭の足りない、敵対マフィア達です」
ドレスの内側に仕込んでいたナイフを構えて、同じように武器を取り出したディーノと背中合わせに構える。
にったりと笑う今のオレは、彼の目にどう映っているのだろう。
「行くぜ、跳ね馬ぁ……」
「おう、こっち側の敵はオレ達キャバッローネに任せておけ」
特に何かを指示していたわけではないが、オレの様子を見て、勘づいていたのだろう。
ちゃっかり自分の部下達をヴァリアーの配備の隙間に置いていたらしい。
建物の隙間や茂みの向こうから現れた敵を手厚く歓迎するため、オレ達は武器を手に飛び出した。
* * *
しなやかに放たれる、突きや蹴り。
鮮やかに敵の意識を奪う銀色の刃。
何より凄まじいのは、敵の間を駆け抜ける、そのスピード。
黒いドレスの裾をはためかせ、白い脚を露に飛び跳ね、獰猛な微笑みを口許に浮かべて敵を狩る。
「お、鬼……」
その姿を表現する言葉は、自然と口からこぼれ落ちていた。
まるで鬼。
血飛沫の舞う敵陣を駆ける彼女の姿は、悪鬼のように禍々しく、しかしその動きはため息が出るほど鮮やかで美しい。
高い位置で結ってあった髪が解けて、彼女が動く度に、尾のようにあとを引いて跳ねている。
その残像を目で追いながら、ラニャテーラのボスは呆然と呟いた。
「凄まじい……」
彼の部下は、手を出す隙さえもらえず、ただただ彼の側で敵が圧倒されていく様を見守っているだけだ。
そしてそんな彼女の側で、しなやかに鞭を振るい、部下と背中合わせになって戦うディーノもまた凄まじかった。
鞭と言う特殊な武器を駆使して、敵の急所を的確に攻め込んでいく。
「や、やった……」
「敵が……こんなに呆気なく……」
あっという間に、その場から敵はなくなる。
戦場に立っているのは、ナイフ2本で敵を圧倒した女と、鞭1本で敵を制圧した男とその部下達だけだ。
「ス……ちょっ!大丈夫ですか二人とも!?」
少し高めの少年の声に、彼らの戦いに見とれていた者達の意識が現実へと返ってくる。
そんな彼らへ、女はにっこりと微笑んで言ったのだった。
「皆様、お怪我はありませんね?では、引き続きパーティーをお楽しみください」
あまりにも平然と言われたその言葉に、客達は唖然としたのだった。
ラニャテーラが皮肉っぽくそう言う。
「ははは、護衛で仕方なく側にいる子相手に無理矢理迫ろうとするのもどうかと思いますけどね」
ディーノが敵意をたっぷり滲ませて言う。
「……お疲れでしょう、お飲み物でもお持ちしましょうか」
せめて一瞬でもこの場から逃れたくて言ったオレ。
「君が気にかけることではないよ」
「お前は気にせず、自分の仕事に集中してくれよ」
しかしその願いは叶わず、自分の手首は二人にガッチリと掴まれて、動くことすらままならない。
「あそこ、スゴいな。大マフィアのボスが二人も……」
「真ん中の女は誰だ?」
「女の取り合いか?」
「あれだけ美人なら取り合うのも頷けるが……」
「お前あの中入ればどうだ?」
「ムリムリ!あんなところ怖くて入れねーよ!!」
「あの娘も可哀想に……」
可哀想なんて思うなら早くここから助け出してくれないだろうか。
さっきからすれ違う部下達にも同情の目を向けられているが、同情ではこの状況は乗り越えられない。
ふと目を上げると、遠くでこちらを見ていたらしい沢田達と、視線がぶつかった。
「……」
「……」
無言のまま、目を逸らされる。
山本は曖昧に笑って顔を逸らす。
どういうことか、ちくしょう。
なぜオレがこんなに惨めな思いをしなくてはならないのか。
さっきなんてラニャテーラの人間にまで同情の目を向けられた。
「……そう言えば、今回9代目はご出席なされてはいないのかね?」
「ええ、今回は9代目の名代として、沢田綱吉他3名の守護者が出席しております」
「ほう、では挨拶に伺おうか」
「……いえ、その必要はないようです」
ラニャテーラの向こうに見えた部下の様子に、オレはようやく安堵の息を吐いた。
ディーノに目配せをすれば、その意図に気が付いたのか、これまでのことが嘘のようにさっと手を離す。
「一体どういう……」
不審そうなドン・ラニャテーラの問い掛けに、オレはにこりと愛想よく笑って答えた。
「これからが、本当のパーティーの始まり、ですよ」
ラニャテーラの手を強く引く。
バランスを崩して、ふらりと傾いだ彼の体を支えて、『飛んできた弾丸を弾き飛ばした』。
「今回の主賓は、この場にいる誰でもなく、今からここに攻め込んでくる、愚かで頭の足りない、敵対マフィア達です」
ドレスの内側に仕込んでいたナイフを構えて、同じように武器を取り出したディーノと背中合わせに構える。
にったりと笑う今のオレは、彼の目にどう映っているのだろう。
「行くぜ、跳ね馬ぁ……」
「おう、こっち側の敵はオレ達キャバッローネに任せておけ」
特に何かを指示していたわけではないが、オレの様子を見て、勘づいていたのだろう。
ちゃっかり自分の部下達をヴァリアーの配備の隙間に置いていたらしい。
建物の隙間や茂みの向こうから現れた敵を手厚く歓迎するため、オレ達は武器を手に飛び出した。
* * *
しなやかに放たれる、突きや蹴り。
鮮やかに敵の意識を奪う銀色の刃。
何より凄まじいのは、敵の間を駆け抜ける、そのスピード。
黒いドレスの裾をはためかせ、白い脚を露に飛び跳ね、獰猛な微笑みを口許に浮かべて敵を狩る。
「お、鬼……」
その姿を表現する言葉は、自然と口からこぼれ落ちていた。
まるで鬼。
血飛沫の舞う敵陣を駆ける彼女の姿は、悪鬼のように禍々しく、しかしその動きはため息が出るほど鮮やかで美しい。
高い位置で結ってあった髪が解けて、彼女が動く度に、尾のようにあとを引いて跳ねている。
その残像を目で追いながら、ラニャテーラのボスは呆然と呟いた。
「凄まじい……」
彼の部下は、手を出す隙さえもらえず、ただただ彼の側で敵が圧倒されていく様を見守っているだけだ。
そしてそんな彼女の側で、しなやかに鞭を振るい、部下と背中合わせになって戦うディーノもまた凄まじかった。
鞭と言う特殊な武器を駆使して、敵の急所を的確に攻め込んでいく。
「や、やった……」
「敵が……こんなに呆気なく……」
あっという間に、その場から敵はなくなる。
戦場に立っているのは、ナイフ2本で敵を圧倒した女と、鞭1本で敵を制圧した男とその部下達だけだ。
「ス……ちょっ!大丈夫ですか二人とも!?」
少し高めの少年の声に、彼らの戦いに見とれていた者達の意識が現実へと返ってくる。
そんな彼らへ、女はにっこりと微笑んで言ったのだった。
「皆様、お怪我はありませんね?では、引き続きパーティーをお楽しみください」
あまりにも平然と言われたその言葉に、客達は唖然としたのだった。