深山様その2(群青)

「は……な、なんだこれぇ!!?」

波乱が予感されるパーティーの当日は、スクアーロのそんな声から始まった。


 * * *


――夕方、スクアーロが言っていた通りの時間に来た車に乗って、綱吉、獄寺、山本、了平の四人は、郊外の小洒落た屋敷へと向かっていた。
目的地はもうすぐそこ。
屋敷のものと思われる赤い屋根が、森の木々の向こうにチラチラと見え隠れしている。

「うあーっ!緊張する……!!どうしよ、オレなんか酷い失敗するような気がする!」
「大丈夫なのなツナ、そん時にはオレも一緒に失敗してると思うからな……」
「安心しろ沢田!オレも極限失敗しそうだ!」
「大丈夫じゃない!安心できない!!」

生まれが庶民である綱吉達三人は、昨日の宣言通り、リボーンによって直前までみっちりとテーブルマナーを仕込まれてきたため、とても疲れ切った顔をしている。
彼らをボロボロにした当のリボーンは、パーティーは面倒だから行かないと断言して、家でのんびりくつろいでいる。
まあ、リボーンが華やかなパーティーの場にいるのはなんとなく不自然に感じるけれども、ちょっと納得いかないよなぁ。
綱吉がそんな愚痴を、心の中で呟いているうちに、車は目的地へと到着したらしい。
滑らかに停止した車から降りて、目の前に聳える城を見上げる。

「うわ、でかー!」
「結構ゴーカなパーティーみたいっすね」
「おっ、いい匂いするのな!」
「むぅ!極限、屈強そうな男どもがいっぱいだ!!」
「ちょっ、みんな暴れちゃだめだからね!?お兄さんもですよ!?」
「10代目に恥かかせるようなみっともない真似はしません!」
「わーかってるって!」
「極限大人しくしているつもりだぞ沢田!」

不安しかない。
彼らの返事を聞いた綱吉は、思わず空笑いを浮かべる。
そうだ、彼らは悪意なく都合の悪いことをしでかす天才達なのだ。
戦いのときはあんなに頼りになるというのに、どうしてこういう時は不安要素の塊となってしまうのだろう。
綱吉の悩みは尽きない。
……と、突然、綱吉は肩を叩かれた。
慌てて振り向いた先には真っ黒なチャイナドレスを身に纏った、キツそうな顔つきの美人が、不機嫌そうに綱吉の肩に手を置いている。
もしかして、入り口付近でもたもたしてたから怒ってるのだろうか。
綱吉は慌てて彼女に向かって頭を下げた。

「ご、ごめんなさい!邪魔でしたよね!!」
「……何を、言ってるんだぁ?」
「え?違うの?っていうかその声……え!?ス……スク、アーロ……!!?」

呆れたような目、キリリと真一文字に結ばれた薄い唇、低く掠れた声。
髪色や目の色は違うが、よく見てみれば、それは間違いなくスクアーロである。
本人は心底嫌そうな顔をすると、ぼそりと呟いたのだった。

「オレの名前を、呼ぶなぁ」

綱吉達以上に疲れ切った様子のスクアーロ。
彼女にいったい何があったのか。
それは朝の時点まで遡る。


 * * *


「なんだこれはぁ!こんなの聞いてないぞぉ!!」
「だって言ってないもん」
「男が『もん』とか言ってんなぁ、気色わりぃ!!」

今朝のことである。
スクアーロは怒っていた。
もちろん、相手はディーノである。
そして理由は、彼女達二人の目の前にぶら下がっていた。

「何だよこのドレスは!!」
「オレがスクアーロに着てほしくて用意したんだぜ!」
「ドヤ顔晒してんじゃねぇ!!」

女としてパーティーに潜り込むために、スクアーロはもちろん、ドレスを用意してきている。
今回は任務までの間に時間があったので、自分で選んだ、比較的露出が少なく動きやすそうなものだ。
しかし目の前にある服は、スリットなんかこの間の服より深いし、袖は付いてて首元も襟が覆っているが、胸元が小さく開いている。

「オレこんなの嫌だ!」
「えー!良いじゃん!ぜってー似合うぜ?」

ディーノは自信たっぷりに言う。
確かに、黒地にさりげなく銀や朱を散らした衣装は、彼女によく似合いそうではあったが、スクアーロは全力で拒否を示している。

「似合おうと何だろうと、嫌なもんは嫌だ!つーかこれいつの間に用意して……」
「昨日ロマーリオに頼んだんだ」
「だからあいついなかったのかぁ!!」

彼ら二人の言い争いは30分近く続いたが、結局はスクアーロが折れて、今に至るというわけである。
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