深山様その2(群青)

「うんうん、なるほど。じゃあオレは黙ってパーティーに出てれば良いってことだね……って、おかしいでしょ!!何で突然パーティー!?寝耳に水だよ!!」
「「だよなぁ」」

綱吉全力のツッコミに、オレ達も頷く。
わかる、わかるぜ、その気持ち。
イタリアを発った次の日の夕方、オレとディーノは沢田の家に来ていた。
まあ当然、パーティーのお知らせに来たわけである。

「て言うかオレ、パーティーなんて出たことないけど!?」
「そこは問題ねぇぞ。直前までみっちりねっちょり、オレがお前にテーブルマナー叩き込むつもりだからな」
「んなーっ!!」

まあ、沢田も沢田で苦労しているらしい。
オレが出来ることはないので、そこんところはスルーさせてもらう。
悪く思うな、クソガキ。

「じゃあオレは帰る。明日の夕方、4時に車を寄越す。それまでに準備は整えておけぇ」
「え゙……、もう帰っちゃうの!?」
「?当たり前だぁ。用事は済んだからなぁ」
「でも母さん楽しみにしてたんだよ?スクアーロに美味しいご飯作ってあげるんだって言って、さっき買い物に出てったし」
「ぅ……それ、は……」
「ツナもこう言ってるんだし、スクアーロ、今回は甘えさせてもらえば?」
「今回はっつーか、スクアーロは家に来る度にママンに捕まってるけどな」
「ぁぐ…………」

ママン……沢田奈々の事を持ち出された途端、オレは咄嗟に動きを止めてしまう。
毎回、あんなに笑顔で迎え入れられてしまうと、飯に誘われたら断れない。

「あら、よかった!スクアーロちゃん、まだ居てくれたのね!」
「うぉ、奈々さ……」
「『奈々』で良いのよ?」
「あ゙ー……な、な……その、今日は……」
「今日、是非お夕飯食べていってね!
飛びっきり美味しいの作っちゃうから♪」
「あ……は、い」

その勢いに気圧されて、オレは思わず頷いてしまう。
だってあの笑顔をされたら、とてもじゃないが断ることは出来ない。
結局その日、オレは夕飯に加えてお茶やお菓子まで大量に頂いてしまい、ホテルへと帰ったのは日付を超える少し前だった。


 * * *


「は~、奈々さんのご飯は絶品だな!食べ過ぎてお腹パンパンだぜ」
「テメー跳ね馬ぁ、感想の前に何でテメーがオレの部屋にまで着いて来てるのか教えろぉ」

そして帰ったホテルの部屋で、オレは今度こそ盛大に顔をしかめて、仏頂面を全開にしてそう言った。
奈々のことに関しては良い。
彼女は本当に善意でオレを夕飯に誘ってくれただけだし、何よりオレの仕事のことを知らないから。
だがオレの仕事の内容をわかってて、その上、下心ありきで着いてくる奴に容赦をする気はない。

「仕事の邪魔だぁ、さっさと出てけ!!」
「うわっちょっ!そんな怒るなって!!オレいきなり日本に来たからホテル取るの忘れちゃったんだよ!良いだろ、一日や二日くらい?」
「仕事の邪魔をしなければの話だぁ。くっつくな!ひっつくなぁ!オレから一刻も早く離れろぉ!!」
「それはできない相談だなー」
「何でだよ!!」

こいつの悪いところは、すぐに鬱陶しく絡んでくるところだ。
明日の護衛の計画を纏めなければならないのに、このバカがしつこく絡んでくるせいで、仕事は全く進んでいない。

「つーかさ、明日の護衛ってそんなに大変そうなのか?」
「……まあ、悪い噂も届いている。油断できるような仕事ではねぇな」

オレの手元を覗き込んだ、ディーノの眉間に皺が寄る。
そりゃあそうだ、手元の書類は解読できないように暗号化されたものばかりだからな。
まあ、こいつはなんだかんだ言って頭は切れるから、時間さえかければ解読できなくはねぇだろうが、ヴァリアーの暗号は特別に難しいから、この場で読み解くのは不可能だろう。

「隊員の位置決めを調整したり、何人か客人として忍びこませたり、色々と指示を纏めなけりゃならねぇんだぁ。だからいい加減に、ど、け!」
「おっ、と!」

無理やり腕を振り回すことで、何とかバカを引き剥がすことに成功する。
ったく、余計な手間取らせやがって。
ディーノの奴は、オレの背中から離れて二、三歩よろけて後ずさると、すてんと転ぶようにソファーに着地する。
そう言えば、今はロマーリオがいない。
だからへなちょこなのか。

「っててー……。まったく、乱暴だなー」
「良いからそこで大人しくしてろぉ。……一段落ついたら、茶の一杯でも淹れてやる」
「お、やった!」

にへっと笑ったディーノに、オレは大きくため息を吐く。
ああ、くそ。
こいつ相手にカリカリ怒ってるのが、バカらしく思えてきた。

「じゃあ、スペルビの仕事が進むように、オレがお茶の一杯でも淹れてきてやろう!」
「……頼むから、そこでじっとしててくれぇ」

へなちょこディーノに下手に動かれたら、後の処理が大変なんだよな。
真顔で言ったオレの言葉に、流石のあいつも落ち込んだらしく、その後は(少しむくれていたが)大人しく仕事が落ち着くのを待っていてくれたのだった。
その時、オレは予想もしていなかった。
次の日の朝、あんなことになろうとは……。
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