深山様その2(群青)
「非常に困った事態になってね……」
「…………」
開口一番、そう言った9代目に、オレは白けた目を向ける。
オレが呼ばれて、困ってない時は果たしてあったのだろうか。
日本語で言う、反語と言う奴だ。
つまり、ない。
「……で、今度は何の用だぁ?」
「ああ、それがね……。この間、君が護衛した、ラニャテーラのボスを覚えているかい?」
「…………ああ、覚えてる」
「……本当に?」
「本当だ」
「それにしては間が……」
「良いからさっさと話せぇ!」
別に、忘れていた訳じゃない。
思い出すのも面倒で、記憶の片隅に押しやっていただけだ。
「彼がね、あの後君の事を教えろとしつこくて……」
「教えてねぇだろうなぁ?」
「それは勿論、教えていない。しかし、今度はもう一度護衛を頼みたいと言ってきてね……」
「はあ!?まさかそれ……!」
「いやぁ、あまりにしつこくてつい……」
「引き受けやがったのかぁ!?このくそジジイ!!」
なんと言うことだろうか。
このくそジジイ、またオレに面倒ごと持ってきやがったのである。
いや、あの男に気に入られてしまったのは、こいつのせいではないが、しかしあの男の警護をすることになった切っ掛けは、間違いなくこいつである。
「まさかまた、このオレに女装しろって言うのかぁ!?」
「ははは、まあそういうことになるね」
「今からでも遅くねぇだろぉ!!断れ!」
「いやいや、もう無理じゃよ。向こうは君を手に入れようと息巻いてるんじゃから……」
「余計に断れぇ!!」
冗談じゃあねぇ。
女の格好するのだって嫌なのに、また口説かれることをわかっていて、相手の護衛をしにいかないとならないなんて。
「まあまあ!今回は日本で行われる、ボンゴレ主催のパーティーだし、綱吉君達やディーノ君も来てくれているし……」
「余計に断りたい!!」
ディーノはまだしも、沢田達に見られるなんて、拷問か!?
オレはその後も必死に、任務を断るよう訴えたのだが、結局どうにもならず、再び『女として』任務に出ることとなってしまったのだった。
* * *
「――……と、言うことがあったらしい」
「そ、そうか……それで……あの、何でXANXUSがスクアーロを連れて……って言うか、捕まえて?」
「このカスがうだうだとうるせぇ。テメーが面倒を見ろ」
翌朝、レヴィに八つ当たりしていたオレは、恐らく耳障りだったのか、不穏なオーラを纏いながら近付いてきたザンザスによって、キャバッローネへと連行された。
ザンザスの奴、突然鳩尾をぶん殴ってきやがったのだ。
当然、あの馬鹿力で殴られたオレはあっという間に意識を奪われ、その後、ここへと引きずられてきた、というわけである。
「にしても……、9代目も良い仕事してくれるよなー。へへー、またスペルビのドレス姿見られるんだな!」
ザンザスが足音荒く帰って行った後、ディーノのバカがそんなことを言う。
何が良いもんか。
散々だっての、チクショウ。
「あのオッサンに口説かれるのは嫌だろうけど、オレが守ってやるから、スペルビは安心して仕事しててくれよな」
「守るって……何するんだよ?」
「ん?別に……ちょっと脅かすだけ」
そう言ってニヤッと笑ったディーノに、思わずため息が出た。
大事な護衛相手に、いったい何をやらかす気なのだか……。
「……あんまり無茶すんなよぉ」
「なんだよ、心配してくれんのか?」
「んなんじゃねぇ。テメーがドジ踏んで、こっちにまで迷惑が掛からないかどうかが心配なんだぁ」
「えー、何だよそれー」
不満げに唇を尖らせたディーノの横に、軽く凭れて座る。
何だかな、バカを見ていたら、少し落ち着いた。
「なあ、もしまた……というか、確実にそうなるだろうけど、ラニャテーラに誘われたら、どうすれば良いと思う?」
「んー……逃げちまえばいいんじゃねーのか?」
「護衛対象から逃げてどうすんだよバカ」
「そりゃそうか。じゃあ……そん時には、オレがすぐに駆けつける。絶対」
「はあ?絶対って……無茶言うなぁ……」
「無茶じゃねーって!この前だって、すぐに駆けつけただろ?」
「……そう、だけど」
「大丈夫だって。でももし、無理やり襲われそうになったら、思い切り殴って逃げてこいよ!責任は全部オレがとるから!!」
「……それこそ、無茶苦茶じゃねぇかぁ」
呆れたことを言う奴だ。
というか、呆れを通り越して笑えてくる。
口から漏れた笑い声に同調するかのように、ディーノも笑って、体を摺り寄せてくる。
こんな穏やかな時間が、終わらなければいいのになぁ、なんて。
柄にもないことを思ってしまった。
「……邪魔、したなぁ。そろそろ行く」
「行くって、日本に?早くねーか?」
「早めに行って、沢田達にパーティーのこと伝えなけりゃあならねぇんだよ」
「あー……9代目伝えてなかったんだ。ツナの奴、怒るだろうなー」
「じゃあ、向こうでまた落ち合おう」
沢田の怒る様子を想像しているのか、難しい表情を浮かべるディーノから離れて、オレは日本へと向かうために立ち上がる。
しかし同時にディーノも立ち上がって、ドアの外へと駆け出す。
「オレも一緒に行くよ。ちょっと待っててくれ!」
「は……はあ!?お前まだ仕事があるんじゃ……」
「リコに頼むから平気だって!!」
そう言いながら駆けていったディーノ。
オレは呆然として突っ立ったまま、リコという名の青年を思い出す。
一、二度会った程度の人間だが、確かディーノが日本に遊びに行く度に狂うスケジュールに加えて、オレに会いに来ようとヴァリアーに突撃訪問するせいで滞る仕事にうんざりとしていた、という記憶がある。
ディーノから信頼されているからこそ、そうやって頼られているのだろうが、だからって負担をかけすぎなんじゃないだろうか。
あいつ、ちょっと神経質そうなタイプだし。
この間会った時には、自分のことに関しては謝っておいたが、当の本人があれじゃあな。
明後日の方向を見て空笑いをしているリコを想像して、心の中でもう一度謝っておいた。
「お待たせスペルビ!早く行こうぜ、日本!」
「……お゙う」
今回の任務もまた、いろんな意味で大変そうだ……。
急かすディーノと一緒に、飛行場へと向かった。
「…………」
開口一番、そう言った9代目に、オレは白けた目を向ける。
オレが呼ばれて、困ってない時は果たしてあったのだろうか。
日本語で言う、反語と言う奴だ。
つまり、ない。
「……で、今度は何の用だぁ?」
「ああ、それがね……。この間、君が護衛した、ラニャテーラのボスを覚えているかい?」
「…………ああ、覚えてる」
「……本当に?」
「本当だ」
「それにしては間が……」
「良いからさっさと話せぇ!」
別に、忘れていた訳じゃない。
思い出すのも面倒で、記憶の片隅に押しやっていただけだ。
「彼がね、あの後君の事を教えろとしつこくて……」
「教えてねぇだろうなぁ?」
「それは勿論、教えていない。しかし、今度はもう一度護衛を頼みたいと言ってきてね……」
「はあ!?まさかそれ……!」
「いやぁ、あまりにしつこくてつい……」
「引き受けやがったのかぁ!?このくそジジイ!!」
なんと言うことだろうか。
このくそジジイ、またオレに面倒ごと持ってきやがったのである。
いや、あの男に気に入られてしまったのは、こいつのせいではないが、しかしあの男の警護をすることになった切っ掛けは、間違いなくこいつである。
「まさかまた、このオレに女装しろって言うのかぁ!?」
「ははは、まあそういうことになるね」
「今からでも遅くねぇだろぉ!!断れ!」
「いやいや、もう無理じゃよ。向こうは君を手に入れようと息巻いてるんじゃから……」
「余計に断れぇ!!」
冗談じゃあねぇ。
女の格好するのだって嫌なのに、また口説かれることをわかっていて、相手の護衛をしにいかないとならないなんて。
「まあまあ!今回は日本で行われる、ボンゴレ主催のパーティーだし、綱吉君達やディーノ君も来てくれているし……」
「余計に断りたい!!」
ディーノはまだしも、沢田達に見られるなんて、拷問か!?
オレはその後も必死に、任務を断るよう訴えたのだが、結局どうにもならず、再び『女として』任務に出ることとなってしまったのだった。
* * *
「――……と、言うことがあったらしい」
「そ、そうか……それで……あの、何でXANXUSがスクアーロを連れて……って言うか、捕まえて?」
「このカスがうだうだとうるせぇ。テメーが面倒を見ろ」
翌朝、レヴィに八つ当たりしていたオレは、恐らく耳障りだったのか、不穏なオーラを纏いながら近付いてきたザンザスによって、キャバッローネへと連行された。
ザンザスの奴、突然鳩尾をぶん殴ってきやがったのだ。
当然、あの馬鹿力で殴られたオレはあっという間に意識を奪われ、その後、ここへと引きずられてきた、というわけである。
「にしても……、9代目も良い仕事してくれるよなー。へへー、またスペルビのドレス姿見られるんだな!」
ザンザスが足音荒く帰って行った後、ディーノのバカがそんなことを言う。
何が良いもんか。
散々だっての、チクショウ。
「あのオッサンに口説かれるのは嫌だろうけど、オレが守ってやるから、スペルビは安心して仕事しててくれよな」
「守るって……何するんだよ?」
「ん?別に……ちょっと脅かすだけ」
そう言ってニヤッと笑ったディーノに、思わずため息が出た。
大事な護衛相手に、いったい何をやらかす気なのだか……。
「……あんまり無茶すんなよぉ」
「なんだよ、心配してくれんのか?」
「んなんじゃねぇ。テメーがドジ踏んで、こっちにまで迷惑が掛からないかどうかが心配なんだぁ」
「えー、何だよそれー」
不満げに唇を尖らせたディーノの横に、軽く凭れて座る。
何だかな、バカを見ていたら、少し落ち着いた。
「なあ、もしまた……というか、確実にそうなるだろうけど、ラニャテーラに誘われたら、どうすれば良いと思う?」
「んー……逃げちまえばいいんじゃねーのか?」
「護衛対象から逃げてどうすんだよバカ」
「そりゃそうか。じゃあ……そん時には、オレがすぐに駆けつける。絶対」
「はあ?絶対って……無茶言うなぁ……」
「無茶じゃねーって!この前だって、すぐに駆けつけただろ?」
「……そう、だけど」
「大丈夫だって。でももし、無理やり襲われそうになったら、思い切り殴って逃げてこいよ!責任は全部オレがとるから!!」
「……それこそ、無茶苦茶じゃねぇかぁ」
呆れたことを言う奴だ。
というか、呆れを通り越して笑えてくる。
口から漏れた笑い声に同調するかのように、ディーノも笑って、体を摺り寄せてくる。
こんな穏やかな時間が、終わらなければいいのになぁ、なんて。
柄にもないことを思ってしまった。
「……邪魔、したなぁ。そろそろ行く」
「行くって、日本に?早くねーか?」
「早めに行って、沢田達にパーティーのこと伝えなけりゃあならねぇんだよ」
「あー……9代目伝えてなかったんだ。ツナの奴、怒るだろうなー」
「じゃあ、向こうでまた落ち合おう」
沢田の怒る様子を想像しているのか、難しい表情を浮かべるディーノから離れて、オレは日本へと向かうために立ち上がる。
しかし同時にディーノも立ち上がって、ドアの外へと駆け出す。
「オレも一緒に行くよ。ちょっと待っててくれ!」
「は……はあ!?お前まだ仕事があるんじゃ……」
「リコに頼むから平気だって!!」
そう言いながら駆けていったディーノ。
オレは呆然として突っ立ったまま、リコという名の青年を思い出す。
一、二度会った程度の人間だが、確かディーノが日本に遊びに行く度に狂うスケジュールに加えて、オレに会いに来ようとヴァリアーに突撃訪問するせいで滞る仕事にうんざりとしていた、という記憶がある。
ディーノから信頼されているからこそ、そうやって頼られているのだろうが、だからって負担をかけすぎなんじゃないだろうか。
あいつ、ちょっと神経質そうなタイプだし。
この間会った時には、自分のことに関しては謝っておいたが、当の本人があれじゃあな。
明後日の方向を見て空笑いをしているリコを想像して、心の中でもう一度謝っておいた。
「お待たせスペルビ!早く行こうぜ、日本!」
「……お゙う」
今回の任務もまた、いろんな意味で大変そうだ……。
急かすディーノと一緒に、飛行場へと向かった。