柘榴様その2(群青if)
「なんで、死んでも良い、なんて、言ったんですか」
あの後、いくら考えても、彼の気持ちはわからなかった。
死ぬのがどれだけ苦しいのか、一度死にかけた僕にも、少しはわかるつもりだ。
彼だって、餓えるのが苦しかったから、僕の血を飲んだのだ。
死んで良いなんておかしい。
そう考える僕に、スクアーロさんの気持ちはわからなかった。
ならば直接、彼に聞くしか、その気持ちを知る方法はない。
だから彼と食事をしているときに、僕はストレートに訪ねてみた。
「……言っただろう、オレは充分生きた。もう、疲れたんだよ」
「疲れたから、死にたいんですか……」
「死にたい、とは、少し違う」
「?」
「死にたいんじゃなくて、もし今ここで、死んだとしても構わない、ってだけだ」
「……えっと……?」
「自分から、死にたい訳じゃない。自分が、生きてようが死んでようが、どっちでも良いんだぁ」
「……?」
「お前にゃ、まだまだ、わからねぇよ」
「……はあ……」
やっぱり、彼の気持ちはわからなかった。
というか、聞いて余計にわからなくなった。
「難しかったです」
「そうかぁ」
「……スクアーロさんは、自分のことにも、興味がないんですか?」
「まあ、そんなとこなんじゃねぇのか?」
「それって……スゴく、寂しいです」
「なんでだぁ?」
「スクアーロさん、優しくて、料理も上手で、カッコいいのに、生きてても死んでてもどっちでも良いって言われてしまうのは、寂しいんです」
「……他人に、そんなこと言われたのは、初めてだなぁ」
「……スクアーロさん、今までどんな人生送ってきたんですか?」
「はあ?」
僕の何気ない言葉で、スクアーロさんは首を傾げて考え込む。
まあ、ここに住んでいるだけで300年以上だと言うのだから、一言で表すのは難しいと思うけれど。
「……まあ、色々と」
「纏めきれなかったんですね……」
結局、ざっくりとした説明をされる。
「どこで産まれたんですか?」
「捨て子だったから、知らねぇ」
「は……」
この人は、色んなとこに地雷があるな……。
本人は、全く気にしていないようだから良いけれど、僕は少し気まずくなる。
咳払いをして気持ちを切り替え、別の質問をした。
「どこで育ったんですか?」
「ここから遠く離れた国だぁ」
「ざっくり、ですね」
「橋の下に住むばあさんが育ててくれた」
「この国には、いつ頃来られたんですか?」
「……500年以上前、かな」
「僕には想像もつかないですよ、500年前なんて……」
「まあ、500年っつったら、オレでもだいぶ昔だと思うしなぁ」
なら、もう彼は500年以上この国に住み着いている、って言うわけか。
ここに来るまでの200年は、何をしていたのだろう。
「こっちに来てからは、何してたんですか?すぐに、この屋敷に来たわけじゃないんでしょう?」
「しばらくは、あちこちを点々としていたなぁ」
「ああ……やっぱり、長居ってしづらいですよね」
「まあなぁ」
いつまで経っても歳を取らない人間なんて、怪しまれるよなぁ。
きっと、嫌な思いもたくさんしてきたのだろうな。
「どうして、ここに来たんですか?」
「……たまたまこの屋敷見つけたからなぁ。誰も知らない場所で、一人ひっそり生きるのには、ちょうど良いなぁ、と、思ってなぁ。色々と手入れして、住み着いて、気付いたら300年経っていたぁ」
「またもや、ざっくりですね……」
説明するのが面倒なのか……。
かなり中身を省かれた話を、頷きながら聞いていたら、僕はまた、寂しさを感じる。
「一人で生きたかったんですね……」
「……結局、またその話に戻って来ちまったなぁ」
「あ、はは……」
「……一つ、話をしてやるよ」
「へ?」
そう前置いて、スクアーロさんはゆっくりと話し出した。
それは、とある一人の人間が、死んで、生きたお話……。
あの後、いくら考えても、彼の気持ちはわからなかった。
死ぬのがどれだけ苦しいのか、一度死にかけた僕にも、少しはわかるつもりだ。
彼だって、餓えるのが苦しかったから、僕の血を飲んだのだ。
死んで良いなんておかしい。
そう考える僕に、スクアーロさんの気持ちはわからなかった。
ならば直接、彼に聞くしか、その気持ちを知る方法はない。
だから彼と食事をしているときに、僕はストレートに訪ねてみた。
「……言っただろう、オレは充分生きた。もう、疲れたんだよ」
「疲れたから、死にたいんですか……」
「死にたい、とは、少し違う」
「?」
「死にたいんじゃなくて、もし今ここで、死んだとしても構わない、ってだけだ」
「……えっと……?」
「自分から、死にたい訳じゃない。自分が、生きてようが死んでようが、どっちでも良いんだぁ」
「……?」
「お前にゃ、まだまだ、わからねぇよ」
「……はあ……」
やっぱり、彼の気持ちはわからなかった。
というか、聞いて余計にわからなくなった。
「難しかったです」
「そうかぁ」
「……スクアーロさんは、自分のことにも、興味がないんですか?」
「まあ、そんなとこなんじゃねぇのか?」
「それって……スゴく、寂しいです」
「なんでだぁ?」
「スクアーロさん、優しくて、料理も上手で、カッコいいのに、生きてても死んでてもどっちでも良いって言われてしまうのは、寂しいんです」
「……他人に、そんなこと言われたのは、初めてだなぁ」
「……スクアーロさん、今までどんな人生送ってきたんですか?」
「はあ?」
僕の何気ない言葉で、スクアーロさんは首を傾げて考え込む。
まあ、ここに住んでいるだけで300年以上だと言うのだから、一言で表すのは難しいと思うけれど。
「……まあ、色々と」
「纏めきれなかったんですね……」
結局、ざっくりとした説明をされる。
「どこで産まれたんですか?」
「捨て子だったから、知らねぇ」
「は……」
この人は、色んなとこに地雷があるな……。
本人は、全く気にしていないようだから良いけれど、僕は少し気まずくなる。
咳払いをして気持ちを切り替え、別の質問をした。
「どこで育ったんですか?」
「ここから遠く離れた国だぁ」
「ざっくり、ですね」
「橋の下に住むばあさんが育ててくれた」
「この国には、いつ頃来られたんですか?」
「……500年以上前、かな」
「僕には想像もつかないですよ、500年前なんて……」
「まあ、500年っつったら、オレでもだいぶ昔だと思うしなぁ」
なら、もう彼は500年以上この国に住み着いている、って言うわけか。
ここに来るまでの200年は、何をしていたのだろう。
「こっちに来てからは、何してたんですか?すぐに、この屋敷に来たわけじゃないんでしょう?」
「しばらくは、あちこちを点々としていたなぁ」
「ああ……やっぱり、長居ってしづらいですよね」
「まあなぁ」
いつまで経っても歳を取らない人間なんて、怪しまれるよなぁ。
きっと、嫌な思いもたくさんしてきたのだろうな。
「どうして、ここに来たんですか?」
「……たまたまこの屋敷見つけたからなぁ。誰も知らない場所で、一人ひっそり生きるのには、ちょうど良いなぁ、と、思ってなぁ。色々と手入れして、住み着いて、気付いたら300年経っていたぁ」
「またもや、ざっくりですね……」
説明するのが面倒なのか……。
かなり中身を省かれた話を、頷きながら聞いていたら、僕はまた、寂しさを感じる。
「一人で生きたかったんですね……」
「……結局、またその話に戻って来ちまったなぁ」
「あ、はは……」
「……一つ、話をしてやるよ」
「へ?」
そう前置いて、スクアーロさんはゆっくりと話し出した。
それは、とある一人の人間が、死んで、生きたお話……。