柘榴様その2(群青if)
僕は落ちこぼれの吸血鬼ハンター。
何も出来ない僕は、村から追い出されて、この山をさ迷っていた。
そこで偶然崖崩れに巻き込まれ、偶然そこでひっそりと暮らしていた彼に拾われた。
「えっと改めて、朝ごはんはベーコンと目玉焼きとトーストです」
「あ゙あ」
僕にとっては夕食だけど、彼には朝食。
だから彼の分は僕のと違って、量が少な目であっさりとしたものを作った。
モソモソとトーストに齧り付く彼はとても眠そうで、調子も悪そうだった。
「あの、やっぱり血、飲んだ方が……」
「お前が落ち着くまで、飲む気はねぇ」
「でも、飲まないと死んじゃいますよ」
「そんなに急に死んだりはしねぇよ」
そんなに執拗に拒否されると、なんか僕の方が落ち込んでくるんだけど。
もはや意地になってるんじゃないのか、って思えてくる。
「つーかお前よぉ、自分の家帰らなくて良いのかぁ?」
「……帰って良いんですか?」
「動けるんなら、好きにしてもらって構わねぇよ」
「でも……オレがいなくて、一人で大丈夫なんですか?」
「お前が来るまでは、ずっと一人で過ごしていたからなぁ」
言われてみれば、そうか。
しかし帰って良い、と言われたのは意外だったな……。
まあ、例え行ったままこっちに帰ってこなくても、自力で連れ戻すことが出来るっていう、自信があるからこその言葉なのかもしれないけれど。
そして僕は、彼の言葉を思い出して、1つ、引っ掛かる。
「スクアーロさんは、一体いつからここで暮らしているんですか?」
「あ゙?」
僕が来るまで、彼はずっとここで一人きりで暮らしていたという。
麓の村の人々は、この山にこんな屋敷があることすら知らないはずだ。
彼の言う通り、誰とも関わりを持たずに一人っきりで生きてきたのだろう。
一体、どれだけの間?
スクアーロさんは、1本、2本、と指を折って考え込んでいる。
「……2……3?いや……4……?」
「4年……いや、40年ですか?」
「いや、300年と少しくらい」
「さんびゃっ……!?」
吸血鬼の寿命を読み違えていた。
桁が1つ違ってたらしい。
ケロッとして言う彼に、僕は言葉を失ってしまう。
つまりあれか、彼は300年以上もの間、こんなだだっ広い屋敷に、たった一人でいたってことか。
「それって……淋しくないですか?」
「……人といた方が、淋しくなる」
「え?」
「……お前にはわからねぇだろうよ」
「?……うわわっ!」
スクアーロさんは僕の頭を乱暴に撫でて、席を立ち、部屋を出ていく。
いつの間に片したのか、彼の食器はテーブルの上に綺麗に積み重ねられている。
食器洗いは、僕が進んでやらせてもらっている仕事の1つだけど、今はちょっと置いておいて、彼の跡を追い掛ける。
「人といた方が、寂しいんですか?」
「……そうだな」
「でもそれなら、なんで僕の事を助けてくれたんですか?」
「……ただの気紛れだぁ。しかし、強いて言うなら……」
スクアーロさんはカツンと靴を鳴らして立ち止まると、さっきとはまるで違う、優しい手付きで僕の髪の毛を掬う。
「……お前が綺麗な金髪をしていたから、かなぁ」
そう言って笑った彼の顔は、今にも泣き出しそうな哀しげな顔をしていて、僕はまた、言葉を失う。
「……怪我、もう問題はないだろぉ。家に帰るなり、何なり、好きなようにすれば良い」
「……でも」
「お前は『でも』ばっかりだなぁ」
「え、そうですか!?」
「今度数えてみろよ」
「いや、それはちょっと……。って、どこ行くんですか?」
「散歩」
そんなに僕は、『でも』なんて言ってただろうか……。
上着を羽織ったスクアーロさんは、僕を振り返ることなく、屋敷を出ていく。
家に帰って良いとか、そう言ったのはきっと、僕に優しくしてくれたとか、気を遣ってくれたとか、そんなことじゃなくて、他人に興味がないだけなんだろうな。
スクアーロさんの背中が、あっという間に夜闇に紛れて見えなくなっていく。
彼はもしかしたら、僕が彼の敵であることにも気付いているかもしれない。
それでも、何も言わずに僕をここに置いてくれているのは、やっぱり僕に、興味がないから、なんだろうか。
彼の事は、何もわからない。
服の下に隠していた武器を取り出す。
しばらくは、ここにいよう。
僕は、彼に興味が出てきた。
ここで、彼の事を詳しく知ってみよう。
どうせ村に帰っても、居場所なんてないんだから。
武器をしまい直して、屋敷の中に戻った。
食器を洗わなければ。
その夜、僕が寝るまでスクアーロさんは帰ってこなかった。
翌夕になって、起きてきた彼に何をしていたのか、聞いたけれども、上手くはぐらかされて、何も知ることは出来なかった。
何も出来ない僕は、村から追い出されて、この山をさ迷っていた。
そこで偶然崖崩れに巻き込まれ、偶然そこでひっそりと暮らしていた彼に拾われた。
「えっと改めて、朝ごはんはベーコンと目玉焼きとトーストです」
「あ゙あ」
僕にとっては夕食だけど、彼には朝食。
だから彼の分は僕のと違って、量が少な目であっさりとしたものを作った。
モソモソとトーストに齧り付く彼はとても眠そうで、調子も悪そうだった。
「あの、やっぱり血、飲んだ方が……」
「お前が落ち着くまで、飲む気はねぇ」
「でも、飲まないと死んじゃいますよ」
「そんなに急に死んだりはしねぇよ」
そんなに執拗に拒否されると、なんか僕の方が落ち込んでくるんだけど。
もはや意地になってるんじゃないのか、って思えてくる。
「つーかお前よぉ、自分の家帰らなくて良いのかぁ?」
「……帰って良いんですか?」
「動けるんなら、好きにしてもらって構わねぇよ」
「でも……オレがいなくて、一人で大丈夫なんですか?」
「お前が来るまでは、ずっと一人で過ごしていたからなぁ」
言われてみれば、そうか。
しかし帰って良い、と言われたのは意外だったな……。
まあ、例え行ったままこっちに帰ってこなくても、自力で連れ戻すことが出来るっていう、自信があるからこその言葉なのかもしれないけれど。
そして僕は、彼の言葉を思い出して、1つ、引っ掛かる。
「スクアーロさんは、一体いつからここで暮らしているんですか?」
「あ゙?」
僕が来るまで、彼はずっとここで一人きりで暮らしていたという。
麓の村の人々は、この山にこんな屋敷があることすら知らないはずだ。
彼の言う通り、誰とも関わりを持たずに一人っきりで生きてきたのだろう。
一体、どれだけの間?
スクアーロさんは、1本、2本、と指を折って考え込んでいる。
「……2……3?いや……4……?」
「4年……いや、40年ですか?」
「いや、300年と少しくらい」
「さんびゃっ……!?」
吸血鬼の寿命を読み違えていた。
桁が1つ違ってたらしい。
ケロッとして言う彼に、僕は言葉を失ってしまう。
つまりあれか、彼は300年以上もの間、こんなだだっ広い屋敷に、たった一人でいたってことか。
「それって……淋しくないですか?」
「……人といた方が、淋しくなる」
「え?」
「……お前にはわからねぇだろうよ」
「?……うわわっ!」
スクアーロさんは僕の頭を乱暴に撫でて、席を立ち、部屋を出ていく。
いつの間に片したのか、彼の食器はテーブルの上に綺麗に積み重ねられている。
食器洗いは、僕が進んでやらせてもらっている仕事の1つだけど、今はちょっと置いておいて、彼の跡を追い掛ける。
「人といた方が、寂しいんですか?」
「……そうだな」
「でもそれなら、なんで僕の事を助けてくれたんですか?」
「……ただの気紛れだぁ。しかし、強いて言うなら……」
スクアーロさんはカツンと靴を鳴らして立ち止まると、さっきとはまるで違う、優しい手付きで僕の髪の毛を掬う。
「……お前が綺麗な金髪をしていたから、かなぁ」
そう言って笑った彼の顔は、今にも泣き出しそうな哀しげな顔をしていて、僕はまた、言葉を失う。
「……怪我、もう問題はないだろぉ。家に帰るなり、何なり、好きなようにすれば良い」
「……でも」
「お前は『でも』ばっかりだなぁ」
「え、そうですか!?」
「今度数えてみろよ」
「いや、それはちょっと……。って、どこ行くんですか?」
「散歩」
そんなに僕は、『でも』なんて言ってただろうか……。
上着を羽織ったスクアーロさんは、僕を振り返ることなく、屋敷を出ていく。
家に帰って良いとか、そう言ったのはきっと、僕に優しくしてくれたとか、気を遣ってくれたとか、そんなことじゃなくて、他人に興味がないだけなんだろうな。
スクアーロさんの背中が、あっという間に夜闇に紛れて見えなくなっていく。
彼はもしかしたら、僕が彼の敵であることにも気付いているかもしれない。
それでも、何も言わずに僕をここに置いてくれているのは、やっぱり僕に、興味がないから、なんだろうか。
彼の事は、何もわからない。
服の下に隠していた武器を取り出す。
しばらくは、ここにいよう。
僕は、彼に興味が出てきた。
ここで、彼の事を詳しく知ってみよう。
どうせ村に帰っても、居場所なんてないんだから。
武器をしまい直して、屋敷の中に戻った。
食器を洗わなければ。
その夜、僕が寝るまでスクアーロさんは帰ってこなかった。
翌夕になって、起きてきた彼に何をしていたのか、聞いたけれども、上手くはぐらかされて、何も知ることは出来なかった。