柘榴様(海を越え×ぬら孫)

青い空、白い雲、澄んだ風、暖かな陽射し、穏やかな春の午後……。
オレは妹達と一緒に、縁側に座って穏やかにお茶を嗜んでいた。

「おいしいー!」
「ふ……なかなかいけるのう。」
「良い玉露だ。」
「ああ、神よ……。
私に天のご加護を……。」
「クソッ……全員絆されやがって……。」

乙女と狂骨は美味そうにカステラを食べて、鬼童丸は何だかんだでオレの出したお茶に舌鼓を打っている。
一人は何故か空に向かって指を組み合わせて祈って、一人はぶちぶちと文句を言っているが、心休まる時間だった。

「……良い天気だなぁ。」
「そうじゃのう……。」
「この後たくさん着物着て、今度はそん中で一番気に入った着物で出掛けてみようぜ。
御所とか歩いてよぉ、美味しいもの食べたり……。」
「ん……そう、じゃの……。」
「……乙女?」
「……ん?」

話の最中、乙女の相槌が何やら曖昧になってきて、ふっと顔を向けると、とろりと眠そうな黒目とかち合った。

「眠くなっちまったかぁ?」
「そんなことは……ない、ぞ……。」

本人は否定してるけれど、顔がもう半分以上寝ている。
まあ、この陽気じゃあ、眠くなるのも仕方がないか。
ふらふらと危なっかしく揺れる乙女の頭を、軽い力で引き寄せる。
とすん、と膝の上に乗った乙女が、不思議そうにオレを見上げる。

「ゆっくり休んでて良いんだぞ。」
「……そう、か?」
「お゙う、好きなだけ寝てろ。」
「……うむ。」

瞳を閉じて、くってりと力を抜く。
膝の上に確かに掛かる重み。
すぐに、気持ちの良さそうな寝息が、耳に届いてきた。

「お姉さま、寝てしまったの?」
「……みたいだなぁ。」

覗き込んできた狂骨に、そう答える。
静かに、という意味を込めて、唇の前に人差し指を立てた。
狂骨はこくんと頷くと、声をぐっと抑える。

「お姉さま、疲れていたのかしら。」
「中学校に通い始めて一ヶ月以上経つ……。
ちょうど疲れが出始める頃なんだろぉ。」
「……お姉さまね、鮫弥と話す時間が減ってつまらないって言ってたの。」
「ん?」
「だから今日は、いっぱい鮫弥で遊ぶって張り切ってたの。」
「……そうかぁ。」

鮫弥『で』遊ぶ、って言うのはちょっと引っ掛かるが、しかしまあ、乙女がそんな風に思ってくれていたって言うのは、素直に嬉しいと思う。
オレの存在が、ちゃんと妹の心の中に存在しているのだと、確認できる。

「オレで遊ぶ、なぁ……。」
「今日のお姉さま、楽しそうだったわ。」

ちょっとばかり、納得いかないところはあるが、乙女が楽しんでくれたのなら、それで良いかな。
乙女の頬を、するりと撫でる。
擽ったそうに身じろぐ。
髪を梳いてやると、心地よさそうな顔をして擦り寄ってきた。

「ずっと……こんな風にのんびりしていたいな……。」
「……。」
「……狂骨?」
「……すぅ……。」
「寝ちまったかぁ。」

いつの間にか、乙女と並んで寝てしまっていた狂骨に、上着を掛けてやる。
残っていたお茶でも飲むかと、手を伸ばそうとしたとき、背中にずしりと何かが伸し掛かってきた。

「ゔ……お……、なんだぁ?」
「ぐぅ……。」
「…………茨木童子サン?」
「……寝ているようだな。」

まさかそれは流石に予想外だった。
茨木童子の野郎、オレの背中に寄り掛かって寝ていやがる。
生暖かい鬼童丸の視線が痛い。
いやいや……どうしてこうなったんだよ。

「おい鬼童丸、このバカ退かしてくれよ。」
「……今日は良い天気だな。」
「おい!無視するな!!」
「あまり動くと誰かしらが起きてしまうぞ。
じっとしていた方が良いのではないか?」
「しょうけらも、言ってねぇで退かせよこいつ……!」
「……今日はお天道様が元気だな。」
「おい……!」

3人の妖怪に囲まれて、身動きもとれないまま、穏やかな春の陽気に包まれて、のんびり時間は過ぎていく。
妹分達に安心して体を預けられていることに喜ぶべきか、それとも後ろのカスに怒るべきか、複雑な気持ちだ。

「あ゙ー……でもまあ、良いか……。」

窮屈だけど、この空間は、酷く居心地が良くて、ほうっと大きく息を吐き出して、オレは肩から力を抜く。
少しずつ、少しずつ、オレの世界は広がっていく。
始めに、乙女がオレの元へと来た。
茨木童子に喧嘩を売られた。
狂骨と乙女と一緒にケーキを食べた。
しょうけらと教会で出会った。
鬼童丸と戦った。
たくさんの妖怪と出会って、深い縁を繋いで、オレの世界は広がっていく。

「ありがとな、乙女。」

オレに世界を、連れてきてくれて。
頬に掛かる髪を払ってやる。
彼女の口許が、ほんのりと微笑んだような気がした。
彼らと過ごす時間には、確かな幸せが存在していた。
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