ケイ様(群青の鮫)

「うぐ……お前ら……重っ……!」
「わっ!ごめん!!
ちょっ……ヒバリさん退いてくださ……!」
「このまま窒息するまで押し潰してたら、僕の勝ちになるよね。」
「良いから退けぇ!」

突然現れた綱吉と、自分でバランスを崩させた雲雀に押し潰され、苦しそうに呻くスクアーロに、二人の上に乗った雲雀が呟いた。
グリグリと綱吉の頭を鳩尾の辺りに押し付けると、二人分の呻き声が聞こえてくる。

「いい加減にしろ!」
「か、勘弁してください……!」
「……ふん、まあこんなので勝っても楽しくないしね。
ちょっと待ってて。」
「出来たら優しさで止めてほしかった……!」

残念ながら綱吉の涙ながらの声が雲雀に届くことはなかったが、大人しく二人の上から降りた雲雀は、自分の体と武器をざっと見て確かめた後、綱吉に向き合った。

「さて、僕の勝負の邪魔をしてくれたんだ。
覚悟、出来てるでしょ。」
「ひぇっ!?」
「つーか何でお前ここに来たんだぁ?」
「ヴァリアーの人達に、突然連れてこられたんですよ!
何やってんですか二人とも!?」
「あ゙ー……。」

雲雀に殺気を向けられて脅える綱吉。
それを見たスクアーロは、雲雀を宥めるように手を上げながら綱吉に訪ねた。
怒ったように答えた綱吉に、スクアーロはしまったとばかりに顔を歪ませる。

「いや、すまん……つい熱くなって。」
「僕は、自分のやりたいようにしてただけだよ。」
「ヒバリさん……草壁さんも外で待ってたんですよ?」
「ああ、草壁?
好きなだけ待たせておけば良いよ。」
「いや良くないですよ!」

素直に謝るスクアーロとは逆に、雲雀は不機嫌そうにそっぽを向いた。
久々の獲物だったのに、と小さく呟く声には、スクアーロも思わず苦笑いを浮かべる。

「隊長、我々も飛行機の時間が……。」
「ん゙、ああ、そうだったなぁ。」
「相変わらず忙しそうだね……。」
「まあなぁ。」
「……もう、帰っちゃうの?」
「は?」

急かす隊員の声に、スクアーロが頷き散らかった武器を片し始める。
そんな彼女の背に、雲雀の声が掛けられた。
むくれた様子で、恨みがましく彼女を見上げた雲雀を、綱吉が愕然として見ている。

「もっと戦闘(や)ろうよ。」
「いや、オレにも都合が……。」
「そんなの知らない。
あなただって愉しそうだったじゃないか。
ここで止めるなんて勿体ないでしょう。」
「そりゃまあ……愉しくなかった訳じゃねぇがぁ……。」
「ねえ、良いでしょ?」
「んなこと言われてもよぉ……。」

駄々っ子のようにねだる雲雀に、スクアーロも困ったように眉を下げる。
彼がここまで固執することも珍しい。
とりあえず止めるだけ止めてみるか、そう思って声を掛けようとした綱吉だったが、その前にスクアーロが解決策を提案した。

「……今度来たときに戦う、じゃあ、駄目かぁ?」
「あなた、いつ来ても忙しそうじゃない。」
「今度は暇作っておくからよぉ。」
「……本当に?」
「本当に出来るように努力する。」
「……じゃあ、許してあげるよ。」
「お゙う、助かるぜぇ。」

あ、オレ必要なかった。
綱吉は、微妙に寂しそうな顔をしながら引っ込む。
スクアーロ、ヒバリさんの扱い上手いなぁ、などと考える綱吉だが、これまで変人揃いのヴァリアーで過ごしてきたスクアーロなのだから、ある意味当然の事なのである。
どうやら今日のところは戦いを中断させてくれるらしい雲雀に対して、スクアーロはにへっと笑う。

「んじゃあ、雲雀、沢田、またなぁ。」
「あ、うん!
今度来るときは京子ちゃん達にも会いに来てあげてね!」
「……約束破ったら咬み殺すからね。」
「お゙ー。」

ヒラヒラと手を振って、スクアーロは空港へと向かうために歩いていく。
残された雲雀と綱吉は、一瞬沈黙した。

「……さて、君への処遇についてだけど。」
「え?その話まだ続いてたんですか!?」
「当たり前でしょ。
あの人に帰られちゃったんだから、変わりに君のことを、咬み殺す。」
「ひぃ!?あ、ああ、あの!オレヒバリさんに聞きたかったんですけど!」
「なに?手短にね。」

殴られるのを回避しようとして、綱吉は慌てて話題を変えようとする。

「な、何でスクアーロとの戦いで炎を使わなかったんですか!?」
「それは……」


 * * *


「隊長、楽しそうでしたね。」
「あ゙あ?そんなに楽しそうだったかぁ?」
「オレ達と戦ってるときとは比べ物にならない程でしたよ。」
「そうかぁ?」

少しむくれた様子の隊員に、スクアーロは首を傾げた。
そんなに楽しそうだっただろうか。
むむ、と唸るスクアーロに、隊員はため息を吐く。
自覚がないのも困りものだ。

「それはそうと、隊長、何故炎を使わなかったんですか?」
「あん?」
「だって、炎を使った方が、早く決着も着いたでしょう。」
「ああ、そりゃあ……」


 * * *


「「そっちの方が楽しそうだったから。」」


 * * *


「それだけの理由だよ。」
「えぇ……。」
「なに?不満?」
「いや、あの、本当にバトルが好きなんだな~、って……。」

へら、っと笑った綱吉にため息を吐いて、雲雀は踵を返した。

「あれ……?あの……。」
「咬み殺すのはまた今度にしてあげる。
今日は機嫌が良いからね。」

去っていった雲雀に、綱吉はほっと安心して息を吐き出したのであった。


 * * *


「それだけだぁ。」
「……まあ、隊長らしいと言うか、何と言うか……。」

頭を掻きながらそう言った隊員に、スクアーロは眉を下げて問い掛ける。

「んだよ、呆れたかぁ?」
「いえ、その……何だかんだで、隊長と雲雀恭弥って似てるのかなー、って思いまして。
……とにかく、隊長の良い息抜きになったなら、オレ達は良かったですよ。」
「息抜き?」
「アイツら、セコい商売はしていたみたいですけど、隊長が出向くほどの相手じゃありませんでしたよ。
ボスが、気を利かせてくれたんじゃないですか?」
「はあ!?ザンザスがぁ?」

部下の言葉に、素頓狂な声を上げて、スクアーロは有り得ないとばかりに鼻で笑った。

「何でアイツが?そりゃねーよ!」
「うーん……そうですかね……。」
「絶対にねぇって!」

この人は、ボスのことをわかっているのかいないのか……。
全否定しているスクアーロに、隊員はため息を吐いた。
まあ、この人がそれで良いと思うなら、それで良いか。

「イタリア帰るぞぉ。」
「はい!」

スクアーロの声に、隊員は脚を早めたのだった。
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